ヒヨクの絆

うさぎねこ紳士3世

第???話・1

 

 高台の上に立つ、高層建築物。

 その屋上の手すりに手をかけ、10代後半の男の子が、物憂げな表情で街並みを見ていた。

 

「ここに来て、もうどれぐらい経つのかな・・・」

 

 広大で、昼間のように明るいが、天井と周囲が壁に囲まれた閉鎖空間。

 遠くには、いくつもの高層マンションや、大小様々な工場も見える。

 

「・・・みんな、元気にしてるかな・・・」

「あ、カズ君」

 

 可愛らしい女の子の声に振り返ると、そこには男の子と同じくらいの年齢で、肩を少し超えるくらいの桜色の髪。

 整っていながらも、愛らしくもある小さな顔。優しそうな目。

 女の子らしい丸みをおび、細身のスタイルを、ピンクの服とスカートで包んだ女の子が、優しい笑顔を浮かべながら近づいて来た。

 

「何を見てたの?」

 

 女の子は男の子の隣まで来ると、同じように街並みに目を移した。

 

「いや、ちょっと考えごとをしてただけ」

「・・・悩み事? もしそうなら、力になりたいな」

 

 少しだけ寂しそうな目で街並みを見る男の子に、女の子は胸が詰まるような思いで男の子を見ると、その右手を握り、そのまま大切な物のように自分の頬に寄せた。

 

「少しでもカズ君の気持ちが軽くなるんなら、力になれるんなら、なんだってしたい。私は、どんな時も、何があっても、カズ君の味方だから」

「あ・・・」

 

 その言葉は嘘偽りのない本心だと、真剣な眼差しで男の子を見つめる。

 その姿に、男の子の胸にも優しい気持ちが広がって――、

 

「どんな悩みだってあたしがいるんだから大丈夫でしょ!」

 

 突然、自信に満ちているような綺麗な女の子の声が聞こえると、男の子の左腕に、自分の大きな胸を押し付けるように組み付いて来た。

 男の子と同じ年代、同じくらいの背丈で、ウェーブのかかった長くて薄い赤色の髪。

 自信に満ちている印象を与える雰囲気。可愛いと言うよりも綺麗な、クッキリとした目鼻立ち。ファッションモデルのようなスタイルで、衣服も同様の着こなしをしている女の子。

 

「水くさいわよカズ。何か不安があるんならあたしに言いなさいよ。あたしとあんたの仲でしょ? ほら、何でも言って良いわよ?」

「え、あ、い、いや、そこまで深刻なものじゃないから・・・」

 

 突然の登場と、その近さと押し付けられている胸に、男の子はしどろもどろになってしまう。

 

「・・・折角良い雰囲気だったのに・・・」

 

 右手を握ったまま、桜髪の女の子が恨めしそうに呟き、薄赤髪の女の子は、まるで勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていたが・・・。

 

「センパーイ!」

「うわっ!?」

 

 背後から可愛らしい女の子の声が聞こえた直後。

 男の子の背中に何かがジャンプして乗って来ると、多少小振りの胸を押し付けるように組み付いて来た。

 

「こんなところにいたんだねセンパイ! この後の予定は? あってもなくてもレナとデートしようよ! デート! この2人はしてくれないこともしてあげちゃうよ~!?」

 

 肩くらいまでの灰色の髪に、少し釣り目で、何処か猫っぽい顔。

 男の子より少し年下っぽく、少し背は低いものの、動きやすそうなホットパンツとシャツという服装も相まって、快活そうな印象を与える女の子は、男の子におんぶ状態で楽しそうに話しかけている。

 

「ふ、2人はしてくれないことって――」

「あんたね、突然出て来て何言ってるのよ。カズはあたしと一緒にいたいんだから、お子様は1人で遊んでなさい」

「センパイはそんなこと言ってないじゃ~ん。センパイはレナと遊びたいよね~? レナと「オトナ」の遊びしたいよね~?」

「うぅ、最初に声をかけたのは私なのに・・・」

 

 桜髪の女の子が悲し気に呟くが、それはもう誰にも届くことはなかった。

 

「ほらほらセンパイ! ほらほら!」

「ちょ!? やめっ!? そういうのはダメだって!」

 小振りとはいえ、背中にほどよく柔らかい胸をグイグイ押し付けられると、男の子もさすがに意識せざるを得なくなり、少し腰が引けて来て――、

 

「何をしているのだ貴様は!!」

「あ痛っ!?」

 

 男の子の身体に、のっぴきならない現象が起きる直前。

 女の子たちの隙間から、軽くではあったが、何か堅い棒のようなもので頭を叩かれた。

 すぐに何処から叩かれたのかと周りを見ると、そこにいたのは、男の子と同年代で背が高く、青く長い髪をポニーテールにした、端整な顔の美人。

 武道でもやっているような均整の取れたスタイルで、袴に似ている物を着ており、普段であれば凛とした雰囲気を持っているであろう女の子だったが、今は怒りに肩を震わせていた。

 

「全くたるんでいるぞ! 訓練してるのかと思えば、こんなところで女子といかがわしく密着して鼻を伸ばしているとは! 恥を知れ恥を!」

「い、いや、別に鼻を伸ばしてなんて――」

「問答無用だ! 私が鍛え直してやる! こい!」

「そんなこと言って、2人きりになって、センパイとエッチなことする気なんでしょ~?」

「は、はぁ!?!? なななななナニをバカなことを言ってるんだ貴様は!! そそそそそそんなことすすすすすするわけないだろうが!!」

 

 顔を真っ赤にさせながら強く否定している姿を、少し離れた場所で、物陰に隠れながら見ている人物。

 気が弱そうな顔を隠すように、縁の大きな眼鏡をかけ、ボサボサの緑髪で、2つの長いおさげを垂らした、男の子よりも少し年下な感じの女の子。

 背は多少低く肉付きは良いその子は、自身の身体を抱え、なぜか1人で身悶えていた。

 

「えええええエッチなこととか、か、カズナリさんは、きょ、興味あるのかな? わ、私と、お、同じなのかな? だ、だとしたら・・・だとしたら私はブファッ!!」

 

 女の子は盛大に鼻血を噴き出しながら倒れ、体をピクピクと痙攣させている。

 しかし妄想はそれでも止まらないようで、目を閉じて恍惚とした笑みを浮かべるその姿は、何処か幸せそうだった。

 

「はっきりしなさいよカズ! あんたはあたしと一緒にいたいんでしょ!?」

「センパイはレナと遊ぶの~!」

「カズナリは私が鍛え直してやる!」

「わ、私が最初にカズ君に声をかけたんだから・・・」

 

 もうどうすれば良いのかわからず、困った表情の和成の体を、それぞれの方向から自分の方へと引き寄せようとする女の子たち。

 

「あらあら。ほらみんな、ケンカしないの。カー君が困ってるでしょ?」

 

 ウェーブかかった紫色の長い髪の、それほど背は高くないが、豊満な肉付き。切れ長の目と涙ぼくろ。ここにいる女の子たちの中で、もっとも大人の雰囲気を持った女性が、仲裁するように声を掛けながら近づいて来た。

 

「そんなに引っ張ったら、カー君が痛いとは思わないのかしら?」

「あ・・・」

 

 言われて気付いたのか、女の子たちは、それぞれ男の子に申し訳なさそうに手を離した。

 

「うん。それじゃ、ケンカしないようにカー君はお姉さんが引き取るから、みんなはおとなしくお家に帰りなさいね?」

 

 そう言って男の子の腕に自分の腕を絡ませ、そそくさと去ろうと――、

 

「ってちょっと! 何しれっとカズを持って行こうとしてんのよ!」

「あらあら、気付いちゃった?」

 

 結局、仲裁どころか、男の子の体を引っ張るのが1人増えただけ。

 

「(ど、どうすれば良いんだ、これ・・・?)」

 

 男の子は体を引っ張られる痛みに耐えながら、この状況をどうすれば良いのか本気でわからなくなっていた。

 ・・・その時。

 壁に囲まれた場所で、何処にいても聞こえるような大きな警報が鳴り響いた。

 男の子の体を引っ張り合いながらも、何処か楽しそうにしていた女の子たちの目つきが、すぐに真剣な物へと変わる。

 

「敵だ! みんな行こう!」

「ええ!」

 

 男の子の呼びかけに女の子たちが応えると、1人で身悶えていた女の子も含めて、すぐに何処かへと移動して行ったのだった。

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