第28話 薔薇色の新居
唐突に視界が回復した。
目の前には薔薇色の小さな家があった。深みのある赤と淡いピンクのコントラストが美しいその家は私たちの新居だ。そして、この新居は数多の薔薇の花囲まれている。この、手入れが行き届いている美しい薔薇園が私たちの庭だ。
私とウルファ姫は、この小さな薔薇色の家で暮らすんだ。
つい先日、私達は結婚式を挙げた。皇国で最初の同性婚で、非常に珍しい事なのだと言う。
深紅の扉が開いて、中からウルファ姫が顔を出して来た。学園の制服の上からピンク色のエプロンをつけている姫はメチャ可愛い。
「ティナ……食事……」
「食事? どうしたの?」
「ちょっと……」
姫が何か困っているようだ。食事の担当は私なんだけど、まさか姫がご飯を作ってくれたの??
消え入りそうな表情で俯いている姫の脇をすり抜けてキッチンを覗くとそこには……焦げ臭い匂いが充満してて、テーブルの上には炭のような何かが転がっていた。
「姫……これは何かな?」
「ごめんなさい。ティナに食べてもらおうと思って頑張ったんだけど、失敗しちゃった」
恥ずかしそうに俯く姫の姿はメチャ可愛い。そして、私の為にできない料理に挑戦してくれたこともメチャ嬉しい。
「うん。大丈夫だよ。私にために姫が作ってくれたんだから、きっと美味しい……」
いや、流石にこれは食べられないと思う。お皿に乗っていたのは炭のような何かだったから。姫の料理は諦めて、キッチンにあった大きなパンをいただきましょうか。
「でも、これは食べられないね。こっちのパンを頂いましょう」
「ごめん、ティナ」
「大丈夫だよ」
さて、干しぶどうが練り込まれた美味しそうなパンだけど、これをこのまま頂いてもいいのかな? ひょっとしたら毒入りなのかも? 私は大きなぶどうパンをテーブルの上へ置いた。焦げた何かと並んでいるのはやっぱりシュールだよね。
何故か沸き上がった不安感を消し去るべく、私は毒見の魔法を使ってみた。この前習ったばかりの魔法だけど、結構簡単なのだ。
「収穫の女神メディエル様、いつも尊い糧を賜りありがとうございます。さて、メディエル様にお尋ねします。こちらの食卓の食べ物はあなた様から賜りしものかどうか、お示しください。メディエラーデラ」
私が両手をかざすと、テーブルの上に黄金の光が降り注ぐ。その光はパンと焼け焦げた何かに吸い込まれていき、そしてそれらがぼんやりと輝き始める。
赤く光ると毒入り。緑なら安全。
さあ、どっちだ??
パンからは毒々しい赤い光がにじみ出て来た。そして、焼け焦げた何かからも赤い光が浮かんでいる。
「これ、毒入りだよ」
「まさか? あの牛肉とじゃがいもとニンジンと玉ねぎに毒が入っていたのか?」
姫は多分、〝肉じゃが〟を作ろうとしたんだね。
「そうだね。姫が美味しく作れていたら、確認せずに食べちゃったかも?」
「失敗して良かったのか?」
「うふ。そうかも?」
やっぱりこれも罠だった。薔薇色の新婚生活なんて全部嘘っぱちの幻影なんだ。ティナ、しっかりしなさい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます