第26話 邪魔者は燃やせ
私たちは例の林の前に立っている。この林を抜けると試験会場である廃村の裏側に出るらしい。まあ林なんだけど、立ち枯れている木が多くて、死んだ木々の墓場って感じなんだよ。うす暗くて不気味。
一本道なのでさっさと抜けてしまえばいいと思ったのだけど、どうやらそう簡単ではないようだ。
「姫……何か出てきそう。怖いよ」
「罠があるのは当然だ。しかし、ここを抜けないと話にならないぞ」
「うん、わかってる」
姫は腰に差していた作業用の鉈を抜いた。私も足元に転がっていた木の枝を拾って構えてみる。剣を構えた女戦士みたいになれてるかな?
「ふっ、似合ってるぞ」
「ありがとうね」
姫に鼻で笑われたかも? でも、無視されるよりはずっといい。
私と姫は二人並んで林の中へと入って行った。道幅は意外と広くて、馬車が並んで通れるくらいの幅があった。
枯れた木が並んでいるのはやはり不気味で、木が化け物へと変化して襲ってきそうで、また、木の陰から何かが飛び出してきそうで気が気ではなかった。
「止まれティナ。何かいる」
姫の鉈が前方を指さしている。そこには細い木の枝が数本絡まってカカシのような恰好をして立ちすくんでいた。
すると突然ゴウっと音を立てながら、その細いカカシの周りに落ち葉や枯れ枝が集まって来た。私が握っていた木の枝もカカシの方へすっ飛んで行った。それはグングンと大きく成長し、身長10メートルもあるゴーレムになった。
「姫、ヤバイよ」
「後ろだ!」
え? 後ろに何が??
私は咄嗟に振り向いた。そこには体高が人と同じ位の巨大な犬が三匹もいた。
その中の一匹が私に噛みつこうと大きな口を開けて襲って来た。いやこれ、頭から丸かじりされるってやつ??
死んでしまう……と思った瞬間、姫の飛び蹴りが大きな犬の横顔を捉えていた。そいつギャンと吠えてながら林の中へとすっ飛んで行った。次の一匹には姫のパンチがこめかみに突き刺さり、そいつは痙攣しながらばたりと倒れた。最後の一匹は少し下がってからこちらを睨んでいる。
「犬は任せろ。ティナはゴーレムだ」
「うん、わかった」
枯れ枝が集まってできたゴーレムはゆっくりとだがその巨大な腕を振り下ろして来た。避けるのは簡単だけど、腕が長すぎじゃないの? 立った姿勢のままで腕が地面を叩いてるんですけど。
「遠慮するな。燃やしてやれ」
「そうだね!」
私は大きく息を吸ってから吐き出した。このたった一度の深呼吸で、私の体に魔力が満ちてくる。
「炎の精霊たちよ。数多の眷属を引き連れて我と共に踊れ。火精乱舞」
私の体から大量の火の粉が噴き出し、十名の精霊へと変化した。精霊たちは踊り、駆け回り、周囲に大量の火の粉を振りまいていく。巨大な犬はその火の粉に追われて逃げ出し、そして枯れ枝が集まった巨大なゴーレムは動きを止め、激しく燃え上がった。
「ティナ。やりすぎだ。周囲の林も燃え始めたぞ」
「え? え?」
「今すぐ精霊を引っ込めろ」
「うん」
ちょっとはしゃぎすぎてしまった。十人の精霊は林の中にも入り込んで木々を燃やしていたのだ。
「お戻りください」
十体の精霊は再び火の粉となって空に舞う。そしてその火の粉は渦を巻きながら私の周囲に集まり、静かに消えていった。
「林……燃えちゃったね」
「気にするな。魔法使いをこんな場所で戦わせる方が悪い。火事になって当たり前だ」
「そうだね」
私と姫はごうごうと燃え上がる林を背に、再び試験会場の廃村へと帰って来た。そこは教会の裏側にある墓地の前だった。
【続く】
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