第24話 迷子だと?(ウルファ視点)

 ティナが放った魔法は大きな火球となり弾けた。その瞬間、周囲の雪原は消え去り、うす暗い荒野となった。私とティナはその荒野の中でぽつりと立ちすくんでいたのだ。


「雪、無くなっちゃったね」

「アレは全て幻覚だったんだ」

「幻覚を見せられただけじゃなくて、思考も操作されていたみたいだね」

「そうだな。あのまま夢の中で幸福な時間を過ごさせ、試験は不合格になるという罠だったんだろう」

「うん」


 ティナと一緒に幸福な時間を過ごしたいという私の願望を逆手に取られた訳だ。ティナと共に栄冠をつかめるチャンスを得たのに、少しの油断で全て失ってしまう。気を引き締めねばなるまい。


「ところでアレは何だったのかな?」


 ティナは神職に化けていたであろう、焼け焦げた燃えカスを指さした。そこには幾つもの細い金属製の輪が残っており、それが人の姿となっていたようだ。


「わからない。中に術者が入っていたのかもしれないな。ゴーレムじゃないのは確かだ」

「これも試験の課題って事なの?」

「多分そう。反撃されると思っていなかった」

「舐められてたって事ね」

「そういう事だ。中に誰が入っていたのかは知らないが、受験生を舐めると痛い目に遭うと思い知らせねばな。ティナ、思いっきり魔法を使っていいぞ」

「うん。わかった。思いっきりやるよ」


 そう、ティナは天才的な魔法使いなので、同世代の魔法使いの数倍の力を発揮できる。それ故、魔法の実技ではいつも魔力を押さえているようだ。今日は手加減無しで思い切り魔力を放出しているので、かなりの解放感があるだろう。


「ところでウルファ姫。ここ、何処なの?」

「わからない。試験会場内である事は確かなんだが、私たちが先ほどまでいた教会がどこなのかさっぱりわからない」

「もしかして、迷子になっちゃったのかな?」

「そうだな」


 ティナが不安そうな面持ちで私を見つめる。恐らく、精神操作で幻覚を見せる魔法と、場所を移動する魔法を同時に使用されたのだ。本来の試験会場へ戻らなければ試験は不合格となる。


「ほらあそこ」


 500メートル先に大きな岩があった。三階建ての家くらいあるだろう。


「あの上に立ってから周囲を確認してみよう。試験会場の廃村からそう離れていないはずだから」

「そうかもね。じゃあ行こうか」


 ティナは私の左手を掴み、あの大岩へと元気よく歩き始めた。それは、不安を打ち消そうと強がっているかのようだった。


【続く】

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