スサの追放
あおい
序
「スサよ」
こちらの名を呼ばわった声は、ひどく重々しいものだった。
「
スサは後ろ手に縄を受け、屈強な
そんなスサを、感情の浮かばない凍った表情で見下ろしているのは、
「くそっ、なんのつもりだよ、アマテ……!」
スサは抵抗し、アマテを睨み据えた。
だが、アマテは表情を動かさなかった。
「スサよ。これ以上そなたを天原に置いてはおけぬ」
「はあっ?! なに言ってんだ、あんた!」
「そなたがここにおれば、争いや混乱の種を生む。
「ははっ、なんだそれ? アマテ、
くそったれが、ふざけんな、と、スサは美しい姉神に向かって口汚く吐き棄てた。
アマテは、そこではじめて、ちら、と、ちいさく眉根を寄せた。
「何とでも申すがよい、スサよ。どうにせよ、そなたは今この時を以て、この地を追われる」
「は……どこへ墜とされるってんだ。まさか、兄貴のところか?」
スサの問いに、アマテはゆるく
「そなたがゆくのは、
アマテが宣告し、手を振って合図すると、スサを押さえ込んでいたふたりの男神が今度はスサの身を無理矢理に起こさせた。
「くそっ、なんで俺が……っ!」
スサは抵抗しようとした。
いつもなら、男神のふたりくらい、軽く投げ飛ばすことが出来ただろう。それほどにスサは強い。
だが、ことここに至ってみれば、そのスサの並外れた力をこそ、アマテは疎んじていたのだろうことが窺われた。だからなのだろう。ご丁寧に、いまスサにかけられている縄は、スサの霊力を抑えこむ働きがあるもののようだった。
うまく力を出すことができない。おかげでスサは、不本意ながらも、男神たちに引き摺られるようにして歩まされるよりほかなかった。
扉がある。
千年檜の一枚板の、立派な門扉がぽかりと浮かんでいる。
ぎりぎりぎりぎり、と、重厚な音と立てて、触れもせぬのに門扉は開いた。
扉の向こう側には雲海が
そして、扉のところには、
雲が
「なんで、俺が追放なんて……!!」
往生際悪く、天の梯立の縁に立たされたスサは、再び呟いた。
「なぜ、か……我が、末の弟よ。そなたがその問いに答えを得たときには、我ら
アマテは言って、また、合図を送るように軽く手を振った。薄い布でできたうつくしい
スサを抑えつけていた男神ふたりは、スサの身体を門扉の外へ押し出した。
それと同時に、扉は再びぎりぎりと音を立てながら、ゆっくりと閉じ始めた。
「アマテ! 覚えてやがれよ!」
スサは、扉を隔てて姉神を睨み、叫ぶように言った。
「俺は必ず戻ってくる! その時には……お前を、倒す! お前からすべてを奪って、俺こそがこの
覚悟しておくがいい、と、スサは奥歯を噛みしめつつ、最後にそう吐き棄てた。
アマテは静かな眸でじっとスサを見据えていた。
やがて、千年檜の巨大な扉が、ぎりり、と、無情な音を立てて締まりきった。
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