第3話:“壁”をぶち抜け
「――3人なら、3on3やってみようぜ」
放課後の部室。狩谷がキーボードを叩きながら、ふと提案した。
「ちょうどプレイヤーマッチで同レベルの即席チームが組まれてる。申請出すよ?」
「早くね?」
「やる気だけはあるんで」
輝が無邪気に笑う。だが、その目の奥は真剣だった。
*
設定はあっという間に整った。
ヘッドセットを装着し、ボイスチャットの接続確認。
マップは、スタンダードな市街地戦“B-DUST”。
「今日の目標は、司の指示に従って動けるかどうか」
狩谷がぼそりとつぶやき、視線を輝に向けた。
「お前、昨日の1on1の動き、派手だったけどさ――俺だったら“囮”にしてたな」
「うわ、それはそれでひどくない?」
「勝てば正義だろ。戦い方なんてどうでもいいんだよ」
その言葉に、司が補足するように口を開いた。
「勝つために命を張る。それだけだ」
冷静で無機質な声。だが、そこには一切の迷いがなかった。
⸻
“READY”の文字が消える。
ラウンド1。
3人は事前の打ち合わせ通り、各ラインに展開。
• 司:センターから中央制圧。
• 狩谷:後衛の高台にポジションを構え、索敵と狙撃。
• 輝:左ルートの路地裏から接近。
(……このライン、通せる。相手の配置、ズレてる)
輝の“直感”が叫んだ。
(今、裏取れれば勝てる……!)
だがそのとき、司の低い声が入る。
「戻れ。ポジション死ぬぞ。君は“動かす側”だ。囮として機能しろ」
(……でも、いける)
輝の足は止まらなかった。
(これは読み勝ちだ。俺の勘は当たる!)
角を抜ける――
いた。敵。
「っ……!」
反応が一瞬遅れた。
その一撃で、画面が赤に染まる。
⸻
「やっぱりな」
ラウンド終了後、静かな司の声がヘッドセット越しに響いた。
「君の“直感”は、まだ味方じゃない」
「……だって、いけそうだったんだよ……!」
「“いけそう”で死ぬのが、一番の負け筋だ」
トーンは冷静なまま。でも、痛いほど刺さる。
(……くそ)
⸻
だが、次のラウンド。
今度は司が言った。
「左回れ。2秒後にセンターで撃ち合いが起きる。狩谷が視線を釣る。そこを狙え」
「っ……了解!」
輝はすぐに動いた。
狩谷の射線が敵を牽制した瞬間――輝が背後を突いた。
(見えた!)
撃つ。
一発。確実な一撃。
敵が倒れる。
「……っしゃ!」
⸻
試合終了後、狩谷がフードを被り直しながら言った。
「お前、意外と“指示通り”動けるタイプじゃん」
「意外とってなんだよ!」
「今の、0.1秒ズレてたら逆に撃たれてたぞ。惜しかったな、敵のやつ」
「――惜しくないし!」
輝はふてくされたように言うが、その表情は晴れていた。
⸻
帰り道。
スマホの再生履歴には手を伸ばさなかった。
ただ、前を向いて歩く。
少しだけ、“チームの一員”になれた気がしていた。
⸻
その夜、司はモニターに映る動画をひとつ再生していた。
【結城 輝/中学全国U-15大会 準決勝】
画面の中――たった0.1秒の間に敵の陣形を切り裂く、閃光のような動き。
「……やっぱり、あのときの“11番”か」
そう呟いて、動画を閉じた。
⸻
翌朝。
校門の掲示板前。
一人の少年が立っていた。
制服を着崩し、首にネックバンド型のイヤホンをかけた青年。
「FPS部、ね……」
その目は、明らかに“何か”を探していた。
⸻
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