第3話:“壁”をぶち抜け



「――3人なら、3on3やってみようぜ」


放課後の部室。狩谷がキーボードを叩きながら、ふと提案した。


「ちょうどプレイヤーマッチで同レベルの即席チームが組まれてる。申請出すよ?」


「早くね?」

「やる気だけはあるんで」


輝が無邪気に笑う。だが、その目の奥は真剣だった。





設定はあっという間に整った。

ヘッドセットを装着し、ボイスチャットの接続確認。

マップは、スタンダードな市街地戦“B-DUST”。


「今日の目標は、司の指示に従って動けるかどうか」


狩谷がぼそりとつぶやき、視線を輝に向けた。


「お前、昨日の1on1の動き、派手だったけどさ――俺だったら“囮”にしてたな」


「うわ、それはそれでひどくない?」


「勝てば正義だろ。戦い方なんてどうでもいいんだよ」


その言葉に、司が補足するように口を開いた。


「勝つために命を張る。それだけだ」


冷静で無機質な声。だが、そこには一切の迷いがなかった。



“READY”の文字が消える。


ラウンド1。

3人は事前の打ち合わせ通り、各ラインに展開。

• 司:センターから中央制圧。

• 狩谷:後衛の高台にポジションを構え、索敵と狙撃。

• 輝:左ルートの路地裏から接近。


(……このライン、通せる。相手の配置、ズレてる)


輝の“直感”が叫んだ。


(今、裏取れれば勝てる……!)


だがそのとき、司の低い声が入る。


「戻れ。ポジション死ぬぞ。君は“動かす側”だ。囮として機能しろ」


(……でも、いける)


輝の足は止まらなかった。


(これは読み勝ちだ。俺の勘は当たる!)


角を抜ける――


いた。敵。


「っ……!」


反応が一瞬遅れた。

その一撃で、画面が赤に染まる。



「やっぱりな」


ラウンド終了後、静かな司の声がヘッドセット越しに響いた。


「君の“直感”は、まだ味方じゃない」


「……だって、いけそうだったんだよ……!」


「“いけそう”で死ぬのが、一番の負け筋だ」


トーンは冷静なまま。でも、痛いほど刺さる。


(……くそ)



だが、次のラウンド。


今度は司が言った。


「左回れ。2秒後にセンターで撃ち合いが起きる。狩谷が視線を釣る。そこを狙え」


「っ……了解!」


輝はすぐに動いた。


狩谷の射線が敵を牽制した瞬間――輝が背後を突いた。


(見えた!)


撃つ。


一発。確実な一撃。


敵が倒れる。


「……っしゃ!」



試合終了後、狩谷がフードを被り直しながら言った。


「お前、意外と“指示通り”動けるタイプじゃん」


「意外とってなんだよ!」


「今の、0.1秒ズレてたら逆に撃たれてたぞ。惜しかったな、敵のやつ」


「――惜しくないし!」


輝はふてくされたように言うが、その表情は晴れていた。



帰り道。

スマホの再生履歴には手を伸ばさなかった。


ただ、前を向いて歩く。


少しだけ、“チームの一員”になれた気がしていた。



その夜、司はモニターに映る動画をひとつ再生していた。


【結城 輝/中学全国U-15大会 準決勝】


画面の中――たった0.1秒の間に敵の陣形を切り裂く、閃光のような動き。


「……やっぱり、あのときの“11番”か」


そう呟いて、動画を閉じた。



翌朝。

校門の掲示板前。


一人の少年が立っていた。

制服を着崩し、首にネックバンド型のイヤホンをかけた青年。


「FPS部、ね……」


その目は、明らかに“何か”を探していた。


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