月の住人

高橋 フーリエ

プロローグ

 西暦2080年、人口が約百億人を突破し、地球温暖化により世界の平均気温が2025年と比べ五度上昇した。経済は不安定な状況が続き、地域によっては食糧不足が深刻となる。まるでそれに比例するように国際的緊張も高まり、経済的に余裕のあるすべての国の核武装が進んだ。

 そして西暦2081年、国連総合総会にて、憲法を改正しての核武装に成功した日本から、月影 陽という二十三歳の、反核派が演説をした。

 その演説はのちに、『幻の地球統一宣言』と呼ばれた。

「このままでは世界は滅びてしまう。人間は血で血を争うむごたらしい戦いの末に無様に死に絶え、動植物や海はその巻き添えとなる」

「この未来はみんなも簡単に想像ができてしまうはずだ」

「経済に余裕のない国はすでに無政府状態に陥り、南の島は海の底に沈んだ。隣人の死体を焼いて食べる人間も一億人はいるだろう」

「それに対し富豪どもは食糧を買い占め、食べ物のない人間たちをまるで奴隷のように扱っている」

「これでいいのか、世界よ」

「私はいまこそ、国家間の争いをなくし、人間の地位を平らにするべきだと思う」

「そのために、国境をなくし、富の再分配を世界的に施し、あらゆる人間を平等にする」

「2025年の技術では不可能であったことが、今ならできると私は考えている」

「今こそ、幾千年の争いに終止符を打ち、みんなで一つになろう」

「ここに月影 陽が地球統一宣言を行う」

 国連は拍手につつまれた。誰もが夢物語に目を輝かせ、背筋を伸ばし手を鳴らした。

 その半年後後。

 2081年十一月二日。小国が集まり世界開放戦線を構築。大国に向けて核を発射。大国は報復措置として水爆を発射。そこから世界全体を巻き込む核戦争が始まり、たった一週間後には、地球の五分の四は死の灰におおわれ、人口は五分の一になった。

 世界から国はなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る