第34話 幕開け
ルトスが人類と魔族をぶつける策を始めて1ヶ月、ついに戦争の幕が開けそうになっていた。
この1ヶ月の間もレイナーとナキに両軍を襲撃してもらいながら情報収集を続けていた。
その際に分かったと情報としては人類側からはパスト王国から大賢者と賢者4人とカレス帝国から団長のラオス、ランス連合国から最新の魔導兵器が動員される。
魔族側からは暴食と憤怒、傲慢と呼ばれる幹部が動いていると情報を得ていた。
ルトスはこれらの情報は駐屯地にいる末端の兵の指揮を挙げるためのものでおそらく事実だろうと考える。
「そして両軍が空白地帯のラン草原に到着したか。」
そして小競り合いで済まない、戦いが開幕する。
***
ラン草原・西端 ―― 人類陣営
烈風が、平原を斬り裂くように吹き抜ける。
ラオスは、無言で風を受けながら大地を睨んでいた。その背には、カレス帝国騎士団――精鋭中の精鋭が整列し、整然とした陣形を築いている。
彼の横には、パスト王国の魔導師団が布陣していた。中心に立つのは、白髪の老賢者――大賢者レノルト。その周囲には、同じく強力な魔術を操る四人の賢者たちがいた。
「風が騒がしいのう、ラオス殿」
レノルトが呟いた。
「風が語るのは、この地の未来か、それとも血が流れることへの嘆きか……」
「未来が生臭すぎるな。戦の足音だ」
「ふむ、相変わらず無粋な答えじゃな。だが、嫌いではない」
遠く、地平線の先――東の丘に黒点が現れ始めていた。
魔族軍の先遣隊。
「来たか……」
ラオスは静かに、腰の長剣の位置を整えた。
「準備は整っている。総員!戦闘体制を整えら!」
背後で声がした。振り向けば、ランス連合国の技術将校――カリムが、巨大な魔導兵器の影の中に立っていた。
「前方の三キロ先に、射程を合わせました。まだ試作型ではありますが、破壊力は保証します」
「無駄に撃つな。的を見極めてからだ」
「ふふ、心得ていますよ。今回の戦いの総大将はラオス様、あなたなのですから」
戦争を生業とする者たちが、次々と自らの持ち場に立った。風に揺れる旗の下、数万の兵士たちが一斉に動き出す。そして人類側、計5万ほどの人たちが皆西を見据えた。
そして、空気が変わった。
草原の向こう側から、轟くような咆哮が届く。
***
ラン草原・東端 ―― 魔族陣営(拡張版)
陽の差さぬ東の丘陵地帯。
曇天の下、灰色の草原を這うように冷気が流れていく。
その一角に、黒々とした陣幕と無数の魔獣たちが集い、魔族軍の本陣が構えられていた。
無骨な石柱と闇鉄で構築された本陣には、七罪幹部のうち三人が既に揃っていた。
「──ようやく、か」
巨躯の男が、ゆっくりと立ち上がる。
その腕には異常なまでに肥大した筋肉が盛り上がり、肩からは魔素を帯びた鎖がぶら下がっている。
幹部の一角、《暴食》のグリオル。
彼は背負った黒鋼の大斧を、まるで枝でも拾うように軽々と引き抜いた。
「人類の肉は久しぶりだ。もう少し早く出されたかったものだな。熟れすぎていたら味が落ちる」
周囲の魔族がその言葉にざわつく。
彼が本気で食うと宣言すれば、それは敵軍の壊滅を意味するからだ。
「下劣な舌を持つ者は、料理を語るべきではないのよ」
皮肉めいた声が、本陣奥から響いた。
姿を現したのは、紫紺のマントを羽織った少女。整った顔立ちと冷めた視線。その背には10体近い魔獣が整列していた。
「血を浴びた肉なんて、どうせどれも同じ味じゃない」
「ふん、貴様のような獣使い風情に味は分かるまい」
「だから言ったの。料理を語るなって」
その横から耳を塞ぎたくなるような声が響いた。
「そんなことはどうでも良いではないか!!
早く進軍しないのか⁉︎」
今回の戦争に参加している魔族幹部の三人は仲が良いわけではない。しかし、今回は目的が一致していた。
「ええ、そうね。そろそろ始めようかしら。」
リディアがそう呟くのを聞いたラグドは
「貴様ら、準備はできているな!」
背の大剣を地面に突き立て、叫んだ。
その声は魔族の兵士全員に届けられ、その声を聞いた戦士たちから咆哮が上がる。
「人類共……潰すッ!!」
戦の狼煙が、ついに魔族側でも上がった。
その瞬間、リディアが手を挙げ、合図を送る。
彼女の使い魔たちが、丘を駆け下り、戦場へと躍り出た。
「──行きましょう。獣たち。あの腐った正義を、食いちぎってやりなさい」
ヴィルミーナも魔導兵を先行させ、グリオルは単騎で前線へと突き進む。
「戦いだ。宴の始まりだ!」
ラグドの咆哮とともに、魔族軍はついに全軍を動かした。
濃密な魔素が空に昇り、黒き旗が翻る。
ラン草原は、戦の嵐に呑まれようとしていた。
***
ダンジョン《穴》の奥深く。
歪んだ空間に広がる黒岩の広間で、ルトスは静かに悩んでいた。
そんなルトスの元にレイナーが報告に来る。
「……両軍、とうとう戦場に到着する頃です。」
「……俺らも参戦するべきか?」
その問いにレイナーは答えなかった。最低限の知恵はあるが独自に思考するレベルではない。
ルトスは少しだけ目を閉じた。
戦場の中央、ラン草原。
そこには過去の因縁も、これからの鍵も転がっている。
そしてゆっくりと、瞼を開く。
「――行くぞ。俺たちも、ラン草原へ」
「かしこまりました。」
横で待機していたバルートがそう答えた。
大規模な戦争をよりかき乱すため。
──そして、混乱の奥に潜む者たちが、またひとつ、牙を剥く。
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人気作品を読んでると、「文章がスッと頭に入ってくるな〜」って思うこと、ありませんか?
私はまだまだ初心者なので、「あれ、ここ変かも?」と思うところがあれば、
よければ優しくコメントで教えていただけると嬉しいです
地道にコツコツ、直していきます!
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