第10話

 いつもどうり、家でごろごろして。ベッドにふせてスマホをみていると、ふと、通知が光っていた。


 ──こんな時間に誰が? そう思った。


 見覚えのないアイコンからのメッセージ。


『『人喰う家』の場所、ここだよ』


 ──胸騒ぎがした。

 

 グループチャットに、そう、表示されていたからだ。

 

『人喰う家』とは場所もわからない噂、都市伝説の類い。なぜ、わからないかというと、一度入ると出てくることができないから。入ったものは、みな、行方不明になる。そういうものらしい。


 都市伝説だとか怪談、心スポが好きな奴の集まる、グループチャット。しかも、ここの学校の生徒限定。


『なんで場所知ってるわけ?』


 ──そう、知っているはずがない。

 

 返事を送ると、すぐに次のメッセージが返ってきた。どうやら、相当な暇人か、なにか、なのか。あるいは、悪質ないたずらだ。


『神隠しが起きた場所だから』


 答えになってねぇ。そう思う。むしろ、からかっているそう感じた。


『それ根拠なってなくね?』


 少し間があって、返ってきたのは、陳腐な答えだった。

 

『調べたらわかるさ。ここで人がよく消える。何年か前にも行方不明の事件起きてる』


 そんなものが根拠にはならないだろう。


 そう思っていたはずだった。

 

 それでも、行くと、決めてしまったのは。親子喧嘩を朝からしてしまったせいで、判断力が鈍ったせいだ。


 後からチャットを、見返すと『メッセージは削除されました』と表示されているのみだった。身バレする可能性のある内容だったのか、あるいは嘘だったのか。


 スクショをとっていたから問題ない。ただ、信用はできていなかった。


 それでも、行くと決めたのは、別におれが居なくなったとしても。家族は心配しないから、居場所なんてものがないから。


 せいぜい、心配してくれるのは親友の湊と先輩の朝陽さんくらいだ。



 昼休み。湊にどうか、と聞いたがあまり乗り気ではなさそうだった。そのまま下級生の教室へ乗り込んで、大和を探して捕まえ、行く約束をとりつけた。


 周りの下級生が、おれをヤバそうな奴でもみる目でみていた。高校デビューとして髪を染めてあるから、見た目が良くないせいで、怖がらせてしまったのだろう。親に、何度、そのことで怒られたか思い出すとげんなりする。



 教室に戻ると、昼休みの終わりを告げるチャイムがして昼食を食べ損ねた。授業中、昼飯ひるメシを隠れて食べていたら、バレて教師に叱られた。うまくいかないことが続くと嫌気がさして腹もたつ。



 部室に行くことにした。

 

 おれや湊を含む部活、いや、同好会。オカルト研究部(オカルト研究部→研究とつけてればかっこよくねなんて思ったが、世の中そんなに甘くないようで、部活としては認められず同好会留まり)。

 

 元々、帰宅部は嫌だった。家にいる時間は減らしたかった。


 そんな時、たまたま、新聞部の朝陽先輩に間借りして使いはじめた。今では新聞部は廃部。残ったのは新聞部の部室とオカルト同好会。


 我ながら同好会でも、いっか、だなんてアホだと思う。

  

 名ばかりの部室で、湊と駄弁っていたら、朝陽先輩が会話に割り込んできた。

 

「悪いことは言わないから、あそこはやめとけ」


 めずらしい、いつもは、好きにすればいいと言うのに、あそこはやめとけと言う。俄然、行きたくなってくる。


「なんでです? おれはぜってぇ行きますっ! 親、教師にチクられたって構わないっす」


 そう言うと、朝陽先輩はため息混じりに口を開いて告げる。

 

「じゃあ、約束しろよ。俺を連れてけ。んで、危なくなったら即座に帰る。約束できないなら仕方ない、何がなんでも止める」


 場所を、聞いてから朝陽先輩の様子はらしくない。こんな約束をとりつけてまで止めたがることも。


「それなら構わないけど」


 その間中、湊が、おれと朝陽先輩の間を視線を行ったり来たりさせて困惑していた。湊は朝陽先輩と仲がかなり良いからだ、端からみていると、兄弟みたいにみえるし、間違われることもある。



 放課後、夜に公園で待ち合わせ、連れ立って行く段取りになった。朝陽先輩が、そうしろと言って聞かなかったから。



 大和のせいで移動にやたら時間がかかった、のろのろして歩くからだ。おれは無理強いしたつもりはない、それに、最後に来るかどうか、決めるのは本人だ。



 懐中電灯で、照らし出された建物は、話で聞いていたよりも、新しくみえた。中へ踏み入れると、まず玄関ホールがあって、前を横切るように廊下が、廊下を挟んだ正面には階段。エレベーターこそないけど、年月が経っているにしては綺麗だった。


 玄関ホールにはポストが並んでいる、どうやら101~105、201~205、301~305と部屋番号がポストには書かれている。ワンフロアにつき5部屋ずつ三階建て。こじんまりとしたマンションだ。



 階段の脇のスペースが空いた側には掲示板。廊下にそって、階段の両脇には、部屋が並んで。反対側は壁と窓という造りらしい。


  

 スマホで動画を回しながら101号室から見ることにして、玄関ホールから廊下に出て、左手奥に向かい歩く。


 壁には102、101と部屋番号の表記されたプレートが、部屋のドアの、右上の壁に。おそらく名字を書くべき紙は白紙のままプラスチックの中におさめられている。



 

 玄関を入ってすぐの左手前には申し訳程度のキッチンらしいスペース。そのまま奥のメインスペースとの間に、少し出っぱって隔てるように壁が飛び出している。


 その奥はベランダ。右を横に奥まった空間に洗面所、洗面所の両脇にトイレ、浴室。


 部屋の間取りはだいたいこんな感じらしい。


 さすがに夜だから、ベランダの向こうの外は見えない感じ。


 家具の跡が日に焼けたのかくっきりと残っていて生々しい。つい最近まで、人が住んでいたそんな感覚だ。


 これといって、みる場所はなく、廊下を出て、右隣の102号室へ入る。室内の間取りはすべて同じらしい。


「おい、ぼさっとしてんなよ」


 そう言って、湊の肩を小突いて。部屋の中に向かって歩いてると、朝陽先輩が鋭い視線を、向けてきた。


「なんすか?」


 そういう態度をとられると不快。


「あ? 別に」


 そう言って、腕を組んだまま玄関近くの壁に、もたれ、黙りこんだ。


 ──感じ悪っ。

 

 朝陽先輩には、別に廃墟についてきて、と頼んだわけじゃない。めないなら連れてけと言い出したのは朝陽先輩の方だ。

 

 

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