勝ち確ヒロインはなぜか今日も負けている
にぃ
第1話 まさかの一目惚れ
「(ラッキー。この班の顔面偏差値高ぇ~! 一番後ろのチビ女以外)」
「(今日日直かよ。相方は……うわっ! 根暗眼鏡の氷室かよ)」
「(三つ編みだっせ 古の髪型じゃねーか)」
何年間もぼっちを極めると人の心の声が聞こえてくるようになるらしい。
それは決して気のせいとか自意識過剰とかそういうレベルではない。
『
まさにそう呼べるレベルのオカルト的な異能に、私、
いや、私も最初は気のせいかと思ったよ?
“どうせお前ら陰で私の悪口言っているんでしょ? はいはい知ってる知ってる”的な自虐思考でもないよ?
本当に聞こえてくるのだ。
他人の負の感情がその人の声となって鮮明に私の心の中へ伝わってくる。
それも
「(……もう嫌だな)」
毎日毎日勝手に聞こえてくる悪口にうんざりしていた。
少しずつメンタルが削られていくのがわかる。
当時中学生の私には他人の悪意は重すぎた。
もう死んでしまおうかなとも本気で思ったこともあった。
だけど、高校生になった初日——
運命は変わった。
「(くっはぁ~! 隣の女子激マブSSR過ぎん? めちゃくちゃ可愛い! どちゃくそ好み! 背が小さいのとか最高かよ! 三つ編みとか清楚の塊かよ!? 俺の青春始まった! 心の中で三つ編み様を祭り上げたいぜ わっしょーい! わっしょーい!)」
………………んんっ!?
えっ? なんか今私の三つ編みが祀り上げられた?
えっ? えっ? 私が褒められたの今?
激マブSSRって何!?
万年ぼっちの根暗オタクの私が可愛いって思われた!?
「(ま、まさか……ね?)」
チラッと隣の席の男子の顔を覗き見てみる。
髪が長めの男の子だ。前髪で目が隠れていて表情がわからない。
彼は綺麗な姿勢でじっと正面を眺め続けていた。
この人なんで授業中でもないのに無言で黒板を眺め続けているのだろう?
「(げ、激マブSSRさんがなんか俺の顔を見つめてきてるぅぅぅっ!? 心臓! 心臓やっばっ!? 動機やばすぎて口から心臓でるぅ! 心臓出るぅぅぅっ!!)」
出ないよ!? そう簡単に臓器が飛び出したりしないから安心しろ!?
ていうかこの人、も、もしかして、私に顔を見られて照れているの?
ほっぺが赤いのは私を意識しているから?
わ、私のこと、本当に可愛いって思っているってこと!?
「(や、やば、生まれて初めて男子に可愛いって思われちゃった!)」
嬉しい。
初対面で会話すらもしたことない男子が、私なんかを可愛いって思ってくれるなんて初めての経験だ。
私、一目惚れされたんだ。私なんかが一目惚れされる立場になるなんて……
「~~っ」
なんだか急に照れ臭くなってしまい視線を逸らす。
顔を真っ赤にさせながら、私も彼と同じように何も書かれていない黒板をじっと眺めていた。
だけど視線を合わせなくても、彼の心の声だけは私に聞こえてしまうわけで……
「(俺の青春、ガチで始まった! 激マブSSRさんの名前なんていうのかな)」
氷室未希です。名前が知りたいのはこっちも同じです。そっちこそはよ名乗れ。心の中で自己紹介して。
「(えー? 見れば見るほど可愛いのだが? えー? 激マブSSRさん本当に実在する人物なの? えー? こんなに俺の好みドンピシャなことある? えー? 俺、いつの間にか好みの女の子を具現化する能力に目覚めちゃってない? えー? また俺何かやっちゃいました?)」
何もやってないから安心してね。
むしろ能力に目覚めちゃったのは私の方だよ。
それと、あ、あまり可愛いとか連呼しないの! 私を赤面させる天才かお前!
「(は、話しかけたいけど、きっと俺なんかが話しかけたら「下々の平民風情が! 高貴たるワタクシに話しかけるなんて不敬よ。死罪に処すわ。おーっほっほっほ」って一蹴されるに決まっている。まだだ。まだ話しかけて良い時期じゃない。焦るなよ俺)」
キミの中で私のキャラどうなってるの!? どこの悪役令嬢だよ!?
は、話しかけるくらい別に今とかでもいいんじゃない……かなぁ?
時期尚早なんてこと全然ないよ?
む、むしろお話してみたいのは私も同じなわけで……なら私から彼に——
「…………」
む、無理無理無理!
コミュ障ぼっちの私から話しかけるなんて、そんなの無理だよぉ~!
でも……
「(焦るな。俺は恋愛に慎重な男。話しかけるのは1ヶ月後くらいが妥当だろう。いや、それでも早いか? 2ヶ月……うん。6ヶ月だ。俺は6ヶ月後に激マブSSRさんに話しかける!)」
これは私から行かないと何も始まらないような気がした。
今まで悪口しか聞こえてこなかった忌まわしきテレパシー能力だったけど
たった一人の男の子だけがどうやら好意的に見てくれたようで……
はい。つまりは隣の席の子にガチ惚れされちゃったみたいです。
「(男子に好かれたことなんてないから、どうしたらいいのかわからないよぉ~!)」
これはテレパシー能力で自分への気持ちを知ってしまった少女の恋の物語。
勝ち確定な状況でありながら、なぜか思い通りにいかない、ちょっぴり不憫でじれったい恋の物語である。
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