第16話 「メンフィス」
ミシシッピ川の西岸にある綿花と木材の集積地「メンフィス」
奴隷貿易の中心地、人口の85パーセントがアフリカ系アメリカ人
そしてプレスリーの町…
夕刻にここに着き電話でアルフレッドと連絡をとる。
「鮫島と連絡がとれました。
三日後にニューヨークのJ・F・ケネディ国際空港で待つとのことです」
「随分と話が弾んだんじゃないかな」
ロボは古いロックを聴きながら答えた。
「これまでバッグベアードがロシア政府とホットラインを交わしていない
はずはない」
「けど僕らの情報でソ連として日本に進攻するなら冷戦の終わりを意味する。
それまでに消耗品の鮫島教授を使って真意を探ることはまったくローリスクな
諜報活動」
「その火中の栗を拾うお手伝いをするわけだ…」
「となると朝一で鉄道か国内の航空便を使うことになるわ」
「直行便なら三時間かからない」
「さあ空き時間をどう使う?」
「反省会」
「ああ…たしかにロシア行の時間潰しにルネの組織を潰してしまおうというのは
舐めPすぎた…反省している」と僕。
「それで嵌められて全滅の危機になるというのなら本末転倒ね」薫は釘を刺す。
「しかし息を潜めていてもルネとアルトマンの協定で合衆国に私達の居場所は
なかった。
結果オーライだったけどルネと手打ちになったのは大きな前進だわ」とプラボ。
「でも地方領主のサメディ男爵と敵対関係になってしまったから手放しでは
喜べないわ」薫は切り札を切ったのは不味かったか後悔しだした。
ルネに渡さずサメディ男爵と交渉してもよかったのだ。
しかしサメディの悪名は内外に鳴り響いているのでやらない方がよかったのかも…
「そのかわり宇宙人と交信できる星の精と友達になった」ロボは頷く。
「オジブア族の保護地区・慰留地は近いわ…
神託が聞きたい」とプラボが突然言い出した。
「そうだな…ガイアの護り手として挨拶しておく必要がある」とロボも同意する。
「望…」
「なんだ」
「私…結婚式挙げたい…」
昼過ぎには目的地に着いた。
カナダの居留地と比べると大きさは比べるべくもないが
各種のトーテムは全て揃っているらしい。
荒鷲の司祭オムコエバの知り合いと名乗れば歓待された。
そうでなくともロボとプラボの存在はここでは光輝いていた。
簡単な入門の儀式を執り行ってもらい
僕らは部族の環になった。
ロボとプラボはテントに入って瞑想しだした。
彼らにとってこれは生きる糧だ。
ぼくらは指導者のグランドマザーに会う。
白髪を後ろで結わえしわくちゃだったが闊達な老女であった。
「ここでこうして会うのも運命、星を読んでわかっておった」
「婆様この珠を握ってください」
僕は小雪さんのスノーボールを手渡した。
「うむ…深い友愛を感じる。
カナダの雪原を思わせる風景が見えるの…
わかったわ、この者と黒い森の者、そしてわし、一つの魂として
今の今繋がったわ…ありがとう…ありがとう…」
「婆様、神託をいただいていいですか?
明日には北の脅威と相対するのです…」
「よし、占って進ぜよう」
それから儀式が始まった。
「目が出た。おおいなる脅威猛威を振るうが、そなたたちに害するに
能わず。ただ将来の災いの芽の発芽がおこる。と出ておる」
「解釈は…」
「解釈は行って見て初めて悟るものよ…所詮は易占なぞその程度のもの」
「婆様…もう一つお願いがあるの…」
「なんじゃ」
「私達ここで結婚できないかしら?」
「それは月明りの下でな」
しかし僕には薫にはっきり言っていないことがあった。
プラボと夫婦の契りを結ぶ約束をしているのだ。
その時薫は男で、今のように両性有具体ではなかったから重婚
ではないと勝手に解釈したのだが…
いやそもそも倫理的に問題だろう。
僕は針の筵を覚悟でプラボのテントに入った。
プラボは全裸であり全身に精霊の紋章が浮かび上がっていた。
自分の分、これまで契約した精霊の分祖先の結んだ分
そしてここのトーテムの精霊も混じっているのだろう…
厳かに座線を組んでいた。
僕らは声を掛けることができなかった。
それだけ神聖な儀式だと悟った。
僕らはお互い服を脱ぎプラボに習って瞑想を開始した。
自分の呼吸音だけに集中する。
色々な考えが頭に浮かぶ、小さい時の事、大学時代のバカ騒ぎ
色々な経験、邪悪な考え、淫らな思い、欲…
これが「魔境」か…
仏教徒やキリスト教徒や神道であれば経や祝詞をあげるところだが
そんなものは憶えてはいるが信じちゃいない…
頭を真っ白にしようと努力したが諦めた…
いっそこのまま寝ちまぇ…
そういやプラボは宙に浮いていたな…
俺も浮いているのか…
気持ちいい…
凄い恍惚感だ…
幸せだ…
多幸感だ…
射精した
夢精?
光が爆発した!!
自分の精神が急上昇している!
夕暮れの景色が広がる。
もうすぐ星が輝く。
雲を抜ける。
地球が球体に見える。
大きな思念体の塊が上空に見える。
突入
アクセスした。
バチっと目が醒めた。
まだ俺にはそこの境地は無理か…
体は座禅を組んだままだ…
薫もプラボも目を覚ましてジッと俺を見ている。
「俺は悦楽の境地にいた…これが「歓喜天」なのか?」
これは口にして言っているのではない。
テレパシーといえば陳腐だが魂がリンクしている。
ロボも少し離れて浮いているのが見える。感じる。
「おまえは精霊ではない。何している」とロボ
「丁度いい…俺とプラボの結婚を許してくれ」と俺はロボに言った。
「それにプラボ…薫とも結婚する」と俺はプラボに言った。
「おまえ何いってんの?」プラボとロボは同時に叫んだ!
「ごめんなさい私の我が儘で…でも望と戸籍上で「夫婦」
でありたいの…ダメかしら…」と薫はロボとプラボに言う。
「しらん」とプラボ
「しらんわ!」とロボ
現実に着地した。
「もういいわ…勝手にすれば…でももうここでお別れになっちゃうけど
いいわね」
プラボは服を着だした。
え、今、物凄く「したい」んですけど…
「わかったわ…プラボ…我が儘いわない…一緒にロシアに行って」
薫は土下座した。
「どうせ…プーチンとかバーバ・ヤーガと上手くいくまででしょ」
「そう」
「まあもう私達の間では嘘つけないか…」
「悪いな…俺が優柔不断で…」と俺
「ほんとにあんた最悪…わかったわ…結婚式は三人で挙げましょ」
「え、それは不自然じゃないか?」
「どうせ役所に届け出するわけじゃなし、真似事でしょ」
「それはそうだが…薫はいいのか…」
「プラボがそれでいいなら…」
「じゃ仲直りしょうか…」
プラボは着た服をまた脱ぎだした。
「兄貴はまた今度ね」とプラボ
「リンクを切る!」とロボ
怒っている。
そりゃそうか…
「真夜中まで時間がないから「巻き」でいくわよ?!」
その後の描写は省く。
この居留地のトーテムの前で結婚式を行う。
俺は赤い砂
薫は緑の砂
プラボは黄色の砂
それを一つの鉢に混ぜ合わせる。
これでこの魂は混ざり合った。
グランドマザーが厳かに
僕ら三人の結婚を認めると宣言した。
雲に隠れていた月明りが辺りを照らした。
そしてこの時間まで起きている物好きなオジブア族
二十人はいたが…ささやかな食事が振舞われ酒宴となった。
僕らは内心呆れている見ず知らずの人の祝い事を聴いたり抱擁されたり
パイプの煙草の交換を延々と続けた。
最後にグランドマザーの有難い訓示があった。
以下略
そして僕らの結婚式は終わるはずだった。
グランドマザーは空を見上げる。
そこに流星が流れアルタイルに吸い込まれる。
「凶兆じゃ…荒鷲の身になにか起こったのかもしれぬ…」
僕は居住区にある一つだけの電話ボックスに飛び込みアルフレッド
に連絡する。
「モグサ・オムコエバがマフィアに捕まりました…返してほしければ…
ラスベガスまで来いと…」
何故そんなことになったか訳が聞きたかったが小銭が切れた…
「グランマ…交通手段は?!」
「バイク二台とサイドカー一台」
「借りれます?!」
エンジンを轟かせハイウェイに出る!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます