第4話 「ロートリンゲンの姉妹」
ニューヨーク一の建築家イレアナ王女の実子であり遺産相続人の…
ドミニク・ハプスブルク=ロートリンゲンその姉妹ドリゼラとアナスタシア
のニューヨークの住まいはセントラルパークを見下ろすビルディングにあった。
その家柄と比較してもそれほど広くはない、それはニューヨークに住む宿命か?
「またアナスターシャか…」
僕は愚痴った。
「アナスタシア様でございます。お間違え鳴きように」
アルフレッドは訂正した。
謁見を許される。
侍従二人が扉を開ける。
ロココ調の室内だ・・・
二人の老婆がいた。
二人とも車椅子に座っている。
お茶の時間なのか…
テーブルには高級なティーカップのセットが並べられている。
ジャージウッド?
そして見知った男が二人と談笑していた。
チューリッヒの小鬼、銀行家の銀行家のバルボアだ。
「ようお若いの」
僕は一礼した。
「ドリセラ様、
アナスタシア様、
紹介させてください。
はるばる日本から来られた橘薫様
そしてそのお付きの光の騎士、ミスター佐々木望
アナスターシャ・ラウラ皇女を裏切り当方についてくれた
プラボとレボでございます」
僕達は一礼した。
バルボアに裏書されたのは癪だった。
できれば僕らの独力でこの会見は成功させたかった。
この様子では僕らのあることもないことも吹聴した後でのこの場だろう。
しかしそんな感情は面にも出さない。
こうなった以上バルボア…あんたも一蓮托生だぜ…
「まあ面白い方々」
「吸血鬼の城も買ってみるものね…こんな付録がつくなんて」
「お二方は高齢を理由にブラン城をお売りに出していましてな…
その買い取り先の相談に吾輩が呼び出された…
こういう次第」
わざとらしく手を振って見せた。こういう道化芝居ができるのは逆に
計り知れない不気味さが見える。
「まあお掛けになってお茶の時間にしましょう」
メイドが椅子を用意してくれてそれに座る。
はたしてこんな老女に色仕掛けが効くのか?
薫は自慢のフェロモンを分泌していない。
全員のお茶がつがれた。
「お酒ではないので乾杯はおかしいけど…始めましょう」
その後二人に質問攻めにあった。
会話が途切れないのはいいことだが
年寄りの井戸端会議なので際限なく込み入った失礼な質問をしてくる。
ぼくらは苦笑いを浮かべながらできるだけ誠実に答えようとする。
しかし難しい。
権力者の人間にどれだけ血族と妖怪の秘密を喋っていいものか?
あるいは全てを知っており僕らがどれだけ情報を落とすのか推し量っている
のかもしれない。
一つだけわかったことは…
彼女らは善人でもお人よしでもないことだけだった。
彼女らからは情報を一つも渡してくれないからだ。
「ところでバッグベアードについて知りたいのですか?」
これならばいいだろう。第三者の事だ…
「ああバッグベアードね。
この絵を見て
説明してあげる」
部屋の片隅にあるカーテンが開かれた。
ニューヨークの摩天楼を見下ろす黒い球体の真ん中に目玉
それが下を見下ろしている。
「バックベアードに見つめられると眩暈がしてビルから落ちるといわれているわ」
「オディロン・ルドン作といわれているわ。不気味でしょう」
姉に続き妹のアナスタシアが続ける。
「兄のドミニクが建築家だったので画商とも繋がりがありましたのよ。
今は病院で寝たきり…チューブに繋がれているけど若い時は個展を開いて
画家の真似事のようなことをしていましたの。
その時に知り合った画家に書かせたもの」
不気味な絵だった・・・吸い込まれそうだ…眩暈もしてきた…
カーテンが降ろされる。
「あまり長い時間見ていると気分が悪くなるから開帳するのは三分と
決めていますの」
「バックベアードの正体は光化学スモッグと言われていますわ。
昔のニューヨークは規制がなくてゴミゴミしていましたものね」
そして疲れたと言って会はお開きになった。
明日気が向いたら話しましょう。
近くのホテルに泊まっていらしてと言われた。
鰾膠も無い(にべもない)・・・
僕らは部屋を出た。
あの二人は何も知らないのかもしれない。
バルボアに呼ばれて別室へ行く。
開口一番
「悪かったな…あのババァたち…お前さん方の顔を見たくて仕方ないってな。
まあバサラブ公の顔を立ててやったと思ってくれ」
そんなことだろうと思った。
「まあハプスブルグ家といえば「隠れ蓑」としちゃぁ最適だ。
レントン卿から話しは聞いているよ…
心配するな。
明日には政府高官に合わせてやるよ」
と早口でまくし立てた。
「いいこと教えてやる。
実はバッグベアードとは政府の秘密機関の名称だ。
ババリアの「イルミナティ結社」みたいなもんよ。あれも目玉だしな。
だからバックベアードに会うということはなぁ、お若いの…
アメリカ合衆国と会うということなのさ」
僕はあの絵を見て内藤正敏の「新宿幻景・キメラ」かなぁとも思った。
あの二人が本当のバッグベアードを知っているわけもないことは…
絵の説明で伺い知れた。
しかしバッグベアードがある政府機関の隠語というのも同程度の眉唾物
でもあるのだが…
僕らは言われたとおりにセントラルパークの近くのホテルをとった。
ロボとプラボはセントラルパークに行くといって出かけてしまった。
この場で別行動をとるのは流石にまずいのではないかと一応注意はしたが…
新鮮な空気を吸わないと死んでしまうと言われれば返す言葉もなかった。
このセントラルパークは東海岸の妖精族の避難所として有名らしい。
僕らも連れてってくれと言ったが「君らはまだ早い」と言われてしまった。
僕らは夜のニューヨークを堪能した。
思えば二人きりでデートしたのは年末の代々木公園以来だった。
ティファニーで…「婚約指輪」を買った。
安物だが…薫は涙を流した。
幸せ過ぎて死んでしまいそう・・・と
その夜、「女」としての薫をはじめて抱いた。
所定の場所にリンカーンが停めてあった
アルフレッドがドアを開ける。
車内では一番後ろの座席にバルボアが座っておりシャンパンを飲んでいた。
「朝一のシャンパンは美味い。ワシントンDCにいくぞ」
僕らは対面に座りアルフレッドは進行方向の逆に座った。
静かに動き出す。
「バルボアさんファーストネームは何なんです?」
「・・・ロッキー…だ。続けて言うなよ」
「イタリアの種馬だ?!」
車内が爆笑につつまれる。
トランシルバニアを出て笑ったのは久しぶりだ。
車内でテキサースホールデムを遊ぶ。
ポーカーで強いのは人生でも強い。
バルボアはかなりのラフプレーヤーで常にゲームらに参加しブラフで
チップを巻き上げて行った。
「おやおや諸君の渡航費用は全部いただいてしまいそうだ。だが心配
めさるな当銀行がいくらでも低金利でお貸ししますぞ」
たしかにバルボアの目の前に100ドルチップが積みあがっていく。
「バルボアさん念のためにお聞きしたいんですけど」
「なんだね」
「これは遊びじゃなくてリアルで賭けている認識でいいんですよね」
「当り前だ、これは大人同士の勝負じゃないか。それとも泣きをいれて
これで終わりのお遊びにしてもいいが…」
「いえ、それにはおよびません。アルフレッド、証人ですよ」
とロボは言った。
なんだ?ロボ勝算があるのか?
それからほどなくロボとプラボの前にチップが積み上げていった。
特にバルボアとのショーダウンはことごとく勝った。
当たり前だがロボとプラボが「かち合った」時はお互いにレイズはしない。
僕らはロボの意を汲んでか「銀行プレイ」に徹した。
流石に僕ら二人が固くいっているのでバルボアは僕らがレイズすると途端に
降りることが多くなった。
「ロボ、俺のチルがわかるのか?」
「答える必要は…ない」
バルボアはオールインで勝負することが多くなった。
しかしそれは最後の悪あがきだ。
「オールイン!!」
「受けよう…」
リバーまで行き、場の最後のカードがめくられる。
「エースのスリーカード」
バルボアはハートのA・スペードAのアトランテック航空券を持っていた。
「クラブのロイヤルストレートフラッシュ」
ロボはクラブのAと10だった。
「畜生!」
バルボアは真っ赤になった。
「リバイなさいますか…」
アルフレッドはおごそかに言った。
「当然だ!!」
バルボアは4000ドルのチップの交換を要求する。
「ホワイトハウス前です」運転手は車を停止させた。3時間52分の旅だった。
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