第46話 戦友との決別
「グッ……結界!」
フランツが瞬時に結界を展開させる。
先ほど破った物とは段違いに強力な結界により、マルスが振り下ろされた大剣が弾き返された。
「護りの結界か……面倒だな」
マルスが鬱陶しそうにつぶやく。
フランツの権能は防御に特化している。結界の範囲を絞って専守防衛すれば、マルスの【最強】にだって負けはしない。
仮にもバラセアン王家に相伝されている王の力というわけである。フランツの周りを囲んだ結界を壊すのは容易ではなかった。
「待て、マルス! 話をしよう!」
「話だと? 俺の婚約者をさらっておいて、今さら話すことがあると思っているのか?」
「婚約者……」
「知っているはずだ。お披露目もしたし、その場にはお前だっていた。忘れたなどとは言わせないぞ!」
「君はそこまで、あの魔女に肩入れを……どうしても、協力してくれないというのか……?」
結界の向こう側、フランツが表情を歪めている。
顔を顰めたいのはこちらの方だと、マルスも怒りに顔を染めた。
「協力はしないと言ったはずだ。ノヴァはもはや魔女ではない……これ以上、彼女のことを傷つけるな!」
「……身勝手だな。あの女が魔女であることには変わりないじゃないか。未来の世界でどれだけの人間が死んだと思っているんだ?」
「身勝手なのはそちらではないか……! その厄災を繰り返そうとしている奴に言われる筋合いはない!」
マルスが言い返すと、フランツがわずかに怯んだ様子を見せる。
すかさず、マルスが追撃を放つ。
「知っているぞ、フランツ。お前はバラセアン王国では随分と立場が悪いようだな?」
「それは……」
「第八王子でありながら王家の権能を持っているため、腫れ物のように扱われていると聞いた。よほど救世の英雄という称号が手放し難かったと見える」
「…………」
図星だったのだろう。
フランツが肩を大きく震わせ、拳を握りしめた。
「魔女の厄災を繰り返してまで地位が欲しいか? 大勢の人間の命を犠牲にしてまで名誉が欲しいか? 恥を知れ、この愚か者め!」
「貴様に何がわかる……マルス・ヴォルカン!」
噛みつくように、フランツが叫んだ。
「侯爵家の次期当主であるお前に私の気持ちがわかるものか! この世界に来て、私が……アリアがどれほど苦しんだのか理解できるものか!」
フランツが苛立たしそうに結界を内側から殴りつける。
「私は世界を救った。魔女から国を守ったのだ! それなのに、誰もそのことを知らない。私のことをいらない王子として扱う! 私を邪険にする者の中には、魔女との戦いで私が守ってやった人間も含まれている! 命を救ったはずの相手から侮蔑の眼差しを向けられる屈辱が貴様に理解できるものか!」
『滅獄の魔女』によって、グロスレイ王国は滅亡した。
魔女の厄災は隣国であるバラセアン王国にも及んでおり、多くの臣民が傷ついた。
フランツが最前線に立って聖女と共に戦わなければ、より大勢の被害が出ていたことだろう。
国を救ったはずなのに民や貴族から責められ、蔑ろにされている……本来であれば、英雄として持て囃されるはずだったというのに。
「痴れ者が、貴様の気持ちなど知ったことではない!」
だが……マルスがフランツの魂の叫びを切って捨てる。
同情はしていた。フランツが苦しんだことも絶望したこともわかっているが……だからといって、マルスは救いの手を差し伸べはしない。
マルスは全知全能の神などではない。全ての人間を救えるなどと驕ってはいない。
マルスが守るべき人間は目の前の男ではない。心を捧げた唯一無二が他にいるのだから。
「理解できぬというのならば、お前だってノヴァがどれほど苦しんだか知らぬだろうが! あの子を傷つけて貶めようとしている貴様の苦しみなど、
「ッ……!」
「ノヴァを返さないというのであれば、ここで斬る! 死にたくなければ彼女を解放しろ!」
「お前……よくも、そんな……!」
フランツの顔が憤怒に染まるが、怒っているのはマルスも同じである。
激怒した二人が結界を隔てて向かい合っていたが……不意に二人を分かっていた壁が消失した。
「そこまで言うのであれば、私の覚悟を見せてやる……お前をもはや友とは思わない!」
「何……?」
フランツの絶叫に、マルスが困惑する。
今さら絶縁を宣言されたことはどうでも良い。
問題はフランツが結界を解いたこと。何故、そんな自殺行為をするのだろうか?
(まあいい、結界を解いたのであれば好都合……!)
「ム……!?」
斬り込もうとするマルスであったが、足を止めた。
正確には、前に踏み出すことができなかったのである。
「身体が動かない……!?」
「お前にこの技を見せたことはなかったな……バラセアン王家に伝わる秘術『竜虎相討の陣』だ」
「…………!」
マルスは気がついた。
フランツを守っていた結界が消えている代わりに、二人を囲む形で別の結界が展開されていることに。
結界から強烈な圧がかかる。それは【最強】の権能を持っているマルスであっても打ち破ることができないもの。完全に身動きが封じられてしまった。
「この結界は……フランツ、貴様は何をするつもりだ!?」
「これは【結界】の権能を持つ者が確実に相手を殺すと決めたときにだけ使用する術……自らもろとも必殺の結界に相手を落とし込む技だ!」
「まさか……自爆技か!」
マルスが奥歯を噛みしめて吠えた。
権能は対価を支払うことによって力を増す。
ならば、手っ取り早く威力を上げるためにどうすれば良いか……簡単である。自らが傷を負うことを技の中に組み込めばよい。
(本来であれば専守防衛であるはずの結界……あえて守りを捨てることで強みを無くし、自らを餌として敵を討ち滅ぼす技か……!)
「結界で閉じた空間を収束させることで生まれる無限の圧力……潰れてしまえ、マルス・ヴォルカン!」
「グッ……!」
結界が閉じていくにつれてグニャリと視界が歪んでいく。
結界の中央に光を反射することのない黒点が生じ、膨張してマルスとフランツを飲み込んだ。
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