第33話 戦友との再会
フランツ・バラセアンはバラセアン王国の第八王子だった。
バラセアン王国はグロスレイ王国の東側にある隣国。
同盟国というほど親しくはないが争うほどの険悪さもなく、貿易がいくらかある程度の付き合いの国である。
『滅獄の魔女』によってグロスレイ王国が滅亡した後、その被害は周辺の国々にも及んだ。
バラセアン王国も被害を受けた国の一つ。
滅亡こそしなかったものの、町をいくつも滅ぼされて多くの民を失っている。
フランツは祖国を救うために立ち上がり、最終的には聖女を守る使徒となってマルスとも戦友になっていた。
(そんなフランツがどうして、ここに? 何も聞いていないぞ……?)
一国の王子が入国しているというのに、マルスのところには何の情報も入っていなかった。
お披露目パーティーに参加するということも聞いていないし、どうして、この場にいるのだろうか?
「すまない。少し話せるだろうか……できれば、場を改めて」
フランツが意味ありげにノヴァの顔を一瞥する。
未来についての情報……それは誰にも聞かれてはいけない。
部外者に未来のことを話してしまえば、災厄が生じると事前に言われている。
マルスが頷いて、ノヴァに向き直った。
「すまない、ノヴァ。少し母上のところに行っていてくれないか?」
「わかりました。また、後ほど」
ノヴァが穏やかな笑顔で頷いた。
疑問もあるだろうに、何も聞かずに了承してくれる。
そこには、ノヴァがマルスに深い信頼を向けていることが感じられた。
「テラスで話そう」
「ああ……そうだな」
マルスが先導してパーティー会場を横切り、テラスに入る。
テラスには誰もいなかった。フランツと二人きりになる。
「念のため、防音の結界を張らせてもらう。これで音は外に漏れない」
フランツが言って、彼の権能を発動させた。
フランツが持っている能力は【結界】。バラセアン王家に相伝されている権能だった。
【結界】の能力は文字通り、外界と内界を隔絶させる壁を生み出すことができる。
結界の種類は様々。誰も通ることができない強力な障壁を展開することもできれば、音を遮断するだけの簡単なものを生み出すこともできるのだ。
「これで何を話したところで未来の情報を知られることはない……久しぶりだね、マルス」
防音の結界を張ってから、フランツがマルスに改めて挨拶をする。
未来の世界よりもわずかに幼い顔立ち。
しかし、その表情には疲れの色が浮かんでいた。目の下にはクマもある。
「ああ、久しぶりだ……驚いたぞ。急に顔を見せるから」
「驚いたのはこっちだよ……まさか、君がノヴァ・ブリュイと婚約しているとは思わなかった」
「それは……」
マルスが言葉を詰まらせる。
恐れていた瞬間がやってきてしまった。胸がズキリと痛む。
ノヴァを……『滅獄の魔女』を殺せず親しい関係になったことを、仲間に知られるのを恐れていた。
(だが……これ以上の不誠実はできない。正直にありのままを話すしかない)
「すまない……だが、これしかできなかったのだ」
「……婚約をしたのはノヴァ・ブリュイを監視するためかい?」
「それもある。だが……彼女は何の罪も犯していない無垢なる乙女だった。彼女を斬る刃を俺は持っていない」
「そうか……随分と甘いんだな。お前はもっと冷酷だと思っていたよ」
「…………」
「お前はあの女のことを斬り捨てるべきだった。本当に魔女の厄災を防ぐことを望んでいるのならば、そうするべきだった」
フランツが責めるように言う。
マルスは弁明の言葉も出ず、黙り込んだ。
何を言われても仕方がない。マルスは仲間達を裏切ってしまったのだから。
どんな罵声を浴びせられたとしても、言い訳することなく受け入れるつもりだった。
「いや……しかし、個人的には安心したと言って良いのかな? 本当はもっと早くこちらの国に来たかったのだが……正直、手遅れになっていると思っていたからな」
「……何の話だ?」
「お前が魔女を殺していなくて助かったという話だよ、マルス」
フランツが口元に笑みを浮かべた。
その微笑にマルスは違和感を覚える。
かつてのフランツが浮かべることのなかった表情だ。
自嘲するような、皮肉を言うような、過去を悔いるような……そんな笑みを同志として共に戦ったフランツは見せることはなかったはず。
(なんだ……この感覚は。これでは、まるで……?)
マルスは謎の危機感に襲われる。
根拠のない……しかし、確かに感じられる不穏な気配。
それはすぐに実現することになった。
「お前が『滅獄の魔女』を殺していなくて安心した……これでやり直すことができる」
「やり直すだと……いったい、何をだ?」
「もちろん……あの未来をだよ!」
フランツが不気味な笑みを湛えたまま、言い放つ。
両目をカッと見開いた、噛みつくように歯をむいて傲然と叫ぶ。
「『滅獄の魔女』……奴の災厄をやり直す! あの未来を僕らの手でもう一度実現するんだよ……!」
「…………!」
予想だにしていない発言を受けて、マルスは愕然として言葉を無くした。
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