第17話 『はじめての贈り物、届きました』


陽菜が描いたスケッチには、

ピンクと白のハート、すみれ色のリボン、真ん中に「Y」のイニシャル。


「ゆきちゃんの“Y”だよ!」と、うれしそうに笑うその顔に、結月は自然と頬をゆるめた。


「じゃあ、布はちょっと淡めのピンクにして、刺繍で“Y”を入れようか」

「うんうん!それから、おはなもつけたいな~!」


ふたりは《雑貨製作場》のページを開き、デザインに合う布やパーツを丁寧に選んでいった。



布は桜色のガーゼコットン。

裏地には陽菜の希望で、淡いミントグリーンのやわらかリネンをあしらった。

縁取りには白いレースを手縫いで。ボタンは、陽菜が「キャンディみたい」と気に入った、うすい紫の陶器製。


イニシャルの刺繍は、陽菜の描いた文字をもとに結月が丁寧に再現した。

素朴で、でもとてもあたたかみのある“Y”。


仕上げに封入した香りは、カモミールとオレンジフラワー。

「やさしくて元気になれるような香りにしたい」という陽菜のリクエストだった。


(世界にひとつしかない、陽菜の“気持ち”のかたち)



日曜日。

ポストに丁寧に宛名を書いた封筒を投函するとき、陽菜は少しドキドキした顔をしていた。


「ママ……ちゃんと、届くかな?」


「うん、大丈夫。陽菜の“すき”がちゃんとこもってるから」


結月が優しく手を重ねると、陽菜はゆっくりうなずいた。


「……よしっ、いってらっしゃい!」



翌週の火曜日。

陽菜が学校から帰ると、ランドセルを玄関に置くなり、真っ先にこう言った。


「ママ!ゆきちゃんからおてがみきてた!」


差し出されたのは、小さな封筒。

中には、可愛い紙に描かれたピンクの花と、一生懸命な字で綴られた言葉。


「ひなちゃんへ

ありがとう、すごくかわいくて、いいにおいがした!

まほうみたいだった。ママにも見せたら、“すごいね”って言ってたよ。

またいっしょにあそぼうね!」


陽菜は読み終えると、うれしさがこらえきれず、ソファにごろんと転がった。


「やった~~~!!」


「よかったねぇ……」



その夜。

寝かしつけのあと、リビングで結月と涼はほうじ茶を飲みながら話していた。


「なんだか……陽菜の“作品”って感じだったね」

「うん。でもね、私もびっくりした。陽菜、ちゃんと相手のこと考えて、色も香りも選んでて」


「結月の影響だよ。ちゃんと“伝わるものづくり”をしてるのを見てるから」


涼がぽつりとそう言ったとき、結月は少し照れながらも、胸の奥にほんのりとした熱を感じていた。


(そうだ。これは、ただの布小物じゃない。

“誰かを思って作ること”そのものなんだ)



その晩、白い本が静かにページをめくり、

《雑貨製作場》の一角に、“ギフトコーナー”のような棚がひとつ、増えていた。


そこには――「贈るためのデザイン」が並び始めていた。


手紙とおそろいのポーチ。

刺繍のしおり。

想いを包む、香りのついたリボン。


(ああ、本もきっと見てくれてるんだ)


結月は、そっとページを閉じ、静かに目を閉じた。

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