ツミキ人

taiyou-ikiru

第1話

この物語は自殺や、自傷を享受や、推奨しているわけではありません。予めご了承ください。



  体が腐る。今日も付け替えねばならない。4畳の部屋の角にある箱に手を伸ばす。中から現すニクの塊。それを取り出し、用意する。銀色に光るナイフ、新聞紙。新聞紙を引きながら左の腕を置く。右手にナイフを構えながら。部位を確認する。左の第一関節から腕の間の肉。目視する。目視する。


 この瞬間、私はいつも複数の感情に苛まれる。意を決して


 ナイフで切り落とす。



 


 痛い。苦痛と感情がはみ出る。その色は綺麗で。見たくない。痛い。早く取り付けなければ。ニクを押し付けるように激動の鎮静化を図る。感情は鮮血と共に止まらない。自分の中から出て行ってしまっている。涙が止まらない。いつもこうだ。あたらしい肉から感情が埋められる。それはどんな感情であろうと涙が止まらない。自分という認識が一瞬揺らぐ。別物になっていることが恐いわけではない。ただ辛いのだ。さっきの自分がいなくなっていることが。

 この瞬間が腐るほど嫌だ。虚無だ。なにもない。


 段々と落ち着いてくる。先ほどは認識できなかった感情が段々となじんでくる。新しい感情はでもなくなった感情は思い出せない。それに嫌味はない



 


 切り捨てた肉がぴくぴくと動く。まだ生きているかのように。





 

 こんな自分を嫌いじゃなくなったらどれだけ世界は輝いて見えるんだろう。

 いくつもの自分を経験しているといくつか好きな自分を膿んでいた。

 さっぱりとした自分。それがやはり気に入っていた。あの頃は友達も家族も先生とも円滑なコミュニケーションに、それに愛があった。

 全てを愛せた。あの頃の私ならどの私も愛せた。でも今は違う。じんよりとしたくらい不安。それが今の私だ。

 嫌いだ。

    嫌いだ。


 


  でもなくなりたくない。それは今の自分も愛しているのだ


      ろうか。



 私の設定ノート。ここに記すことにする。理想の私が書かれている記録がある。ここに追加しよう。愛せるように。

 



  今日は夢を見た。黒いお客様が自分の体に混じってくるのだ。それがどうも奇怪で声も上げられない。

 自分の中に入り込んで混ざり合う。それはどろどろとしている。黒は何があっても黒だ。





 飛び起きて、また なく。そんな日常。



 今日は教授と会う日だ。会うといってもレポートを出すだけだが、久しぶりの外で少しだけ。少しだけ楽しみ、だ。

 準備をする。まずはクリームをつける。これをしないと顔の形が変になる。

 そして私の設定ノートを見る。私はカニクリームコロッケよりもマグロの煮込みが好きなんだ。私は大道芸人が大声で人を集めていることが口五月蠅く感じる。楽しみは週に一回の短冊演習。 それを見ると少し安心感が襲う。

 頭の中に入れる。私はなにになりたいのだろうか。


       なんて私らしくないかも

 お気に入りのカバンを持って外に出る。

 このときだけは私でいれていると思う。

 

あ、レポート最後の数十行が分からなくて放置しているんだった。とドアノブに手を掛けた瞬間思い出す。


 でも理想の私はそんなことも無視してすぐに上げてしまうだろう。

 そうだ面倒くさいし出してしまおう。



 

 



 






 街中を歩く。

 いつもは楽しいと思えた街の景観はいつもより薄暗く見える。これは変化であろう。それにどうにもならない寂しさと無念が心に残るだけ。でもそれをおかしいとは思えない自分にただただ悲しく、深く沈むだけ。歩く足を早める。


 もう帰っちゃおうか、疲れたし。


 ん?そんなこと考えるな。それはだめ、な考え方、だ。私ならもっと違う考え方をする。

気分よく。あげて行くのだ。



 



 部屋に入る。

 「教授」


「はい。なんでしょう。」


「レポートを出しに来ました!」

 未完成なレポートを出す。

 表情は笑顔で。

 「ああ、はい」

少し、歯切れの悪い教授。恐らくたくさんのものを見ているからだろう。ばれやしない。少しの亡き文章なんて。

 ?なんでそういう考え方をしているんだ。別に特段悪いことじゃないじゃない。 あれだな。今日は取り替えたからだ。

 チラッとレポートを見る教授。

 別にへいへいとしてればいい。

「はい、できています。」

 別に悪いことじゃない。

「あ、ちょっと待ってください。一応PCに記録をつけるので。」

 別にいいじゃないか。少しぐらい。いやだ。よくないよ。別にそれで死ぬわけじゃないし。

「はい。」

駄目だよ。そんなことをしたら。自分を裏切ることになるよ。

「どうですか?長かったですか?今回のレポート」



 「   はい。」

     苦しい。そんなことを言いたいわけじゃない。いくつかの私だったらそうだったけど今は違う。そんなことを言いたいわけじゃない。

 やめてよ!。私は、あの時に戻りたいんだ。今は嫌いだ。

「とっても長かったです。」

やめてよ。もう。苦しいよ。辛いよ。

「そうですか。」

 別に辛いことなんてないさ。昔の自分を裏切ることになるんだぞ!。よっぽどつらい。

「はい。」

 ほら泣いてるよ。私。心の中で。


「はい、じゃあどうぞ。お帰りください。」

 

 「あっちょっと待ってください。」

 それは必要?

「 ?はい。」

 でも君は私だよ。そうだよ、僕も私だよ。でも違うことを考えている。

 そうだね。でも僕は君だ。そうだね。でも違うことを考えている。

 「どうしたの?○○君、大丈夫、?」

 だから僕は君の考え方も尊重したい。


 こんな自分を愛せたらどれだけいいだろうか。

 

「おーーい」


僕は君を愛すし、君も僕を愛してほしい。

 分かってる。

 私も。

 「あ、はい」

「大丈夫?もうろうとしてたけど。」

「あ、大丈夫です。」

 「そう?」

 、、、

「すみません。私、ですけど。あの、すいませんレポートの最後の部分、あの終わってなかったんです!変ですけどいったん帰って仕上げさせてください!」

「あ、うん、そう。時間短いからね?」

「はい。」

 教授は私の顔を見るなりPCにまた戻る。

 

帰り道の途中。

 今日の夜は何を食べようか。そんなことをふと考える。

 そんなことを考えながら、私は家路につく。



 


 私は考える。私ってなんだろうって。私は私だし。私が思う。私。これも私だし。特徴的な私も私だし。嫌いな私も私だし。でも多分、いや確実に私を見失う日。それは来るだろうし、私は確実に変わっていく。それが肉の貼り付けだとしてもそうじゃなかったとしても。

                     

 だから設定ノートは少ししまっておく。

 いつかこんな私を愛せるように。

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ツミキ人 taiyou-ikiru @nihonnzinnnodareka

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