第9話 いつも理不尽な目に遭っていた陰キャの僕が、クラスの明るい巨乳ギャルと仲良くなったら
「もう大丈夫ですね。問題ないでしょう」
「先生、ありがとうございました」
遂にこの日が来てしまった。そう、折れた腕が治ったのだ。治ったということは高橋さんがお弁当を作ってこなくてもよいという意味でもあり、同時にお昼休み彼女と一緒に過ごせるかどうか、わからないということでもある。腕が治って嬉しい反面、僕は複雑な気持ちでいた。
◆
「おはよう、慎次」
「高橋さん、おはよう。腕治ったよ」
「良かったじゃん! あっ、でも慎次の栄養あやしいからお弁当は作り続けるね」
「えっ、いいの?」
「なによ。うちが作らなくてもいいって言うの?(作らなくていいとは言わないで欲しい)」
「ううん、高橋さんのお弁当好きだから、食べられると思ったらつい嬉しくて」
「このこの~、うちの愛妻弁当気に入ったみたいね。じゃあこれからも作り続けるね(よかった。これで昼休み慎次と一緒にいれる)」
僕はとても嬉しい。高橋さんとお弁当を食べながら昼休みを過ごせるからだ。彼女が僕のことをどう思っているかはわからないが、僕はこの状況が素直に嬉しい。夏休みに入ったら、こんな時間も無くなるんだな。そのことを考えるととても残念な気分になる。夏休みも一緒に過ごしたい。どうすれば一緒にいれるのか。思いついた答えは二つあって、一つは夏休みの課題の勉強会を提案すること。もう一つは彼女にこの気持ちを打ち明けることだ。勉強会の提案だけでは一緒にいれたとしても
◆◆◆◆
うちはお弁当を作り続けることで慎次といる口実を作っている。夏休み前に彼の彼女になって、夏休みは一緒に夏祭りや水族館デートなどができたらな。と、そういう気持ちが日に日に強くなっていった。夏休みを一緒に過ごすためには、告白するしかないだろうな。でも正直OKをもらえる自信はない。彼がうちをどんな風に見ているのか、もしかしたら友達としてしか見ていないのかもしれない。夏休みまであと数日。うちはどうしたらいいか悩みに悩んだ。
◆◆◆◆
終業式の前の日の夜。僕はあの日のことを思い出していた。勇気を出して路地裏へ消えていく彼女を追いかけたこと。あのときは玉砕覚悟で怖い人達と向き合ったな。その日を境に僕の学校生活は、理不尽な生活から潤いのある楽しい学校生活に変わった。すべては彼女のおかげだ。あのときの勇気をもう一度出せれば告白もできるのかもしれない。いや、勇気は出すものだ。何を逃げているんだ? 自分が傷くことなら、もう平気だろ? 僕はもっと彼女といたい。そう、僕は彼女に告白することを決めた。
◆
「おはよう、慎次」
「高橋さん、おはよう」
「今日で最後だね」
「そうだね」
朝、僕は高橋さんに挨拶される。緊張して普段通りうまく喋れなかった気もするが、僕は意を決して彼女に言った。
「高橋さん、今日の放課後って時間ある?」
「ん? 時間あるよ。どうしたの慎次?」
「大事な話があるから教室に残って欲しいんだ」
「(もしかして)――うん、わかった。教室にいればいいのね?」
「うん」
告白していないのに、こんなにも心臓がバクバクするものだとは思わなかった。取り敢えず彼女のアポイントは取ったから、あとは彼女に想いを伝えるだけだ。
◆
「これにて終業式を
体育間での終業式が終わり、クラスに戻る。担任の先生から「酒は飲まない。あやしい薬には手を出さない。夜間外出は控える」などの夏休みの過ごし方の確認事項が伝えられた。いつもなら真剣に聴くはずの話だが、隣にいる高橋さんが気になってしょうがない。僕はHRが終わり、クラスメイト全員が教室を出るのを待った。
◆◆◆◆
「おはよう、慎次」
遂に来てしまった。今日でしばらくの間、慎次と会えなくなる。うちは告白する勇気も出ないまま、昨日の夜を過ごした。あの日、慎次が体を張ってうちを助けてくれたこと。友達がいなくなっても慎次と一緒に昼休みを過ごせたこと。嬉しいことも楽しいことも、この二か月は慎次と過ごせたから学校生活が潤いに溢れていた。本当に慎次には感謝しかない。友達のままだとしても、うちはこれからも慎次と一緒にいたい。
「高橋さん、今日の放課後って時間ある?」
「ん? 時間あるよ。どうしたの慎次?」
「大事な話があるから教室に残って欲しいんだ」
朝、慎次に挨拶をすると「大事な話がある」と、そんなことを言われた。大事な話とはうちに告白してくれるってこと? もしそうなら喜んで彼女になるのに。でも、「好きな人が出来たから」って相談されたらどうしよう。顔で応援しても、心の中ではきっと泣いているんだろうな。うちは隣にいる慎次の顔を見れないまま、その時が来るのを待つ。
帰りのHRが終わり、クラスメイトが夏休みに入ったことを喜んで、一人また一人と教室から姿を消す。慎次の顔が見れない。最後の一人が教室を出たときに、慎次がうちに声をかけた。
◆◆◆◆
最後の一人が教室を出た後、僕は深呼吸をしてから高橋さんに声をかける。
「高橋さん、今大丈夫?」
「うん」
自分の机の脇に立っている、高橋さんは俯きながら僕の方に体を向けた。彼女から漂う優しい香り。「告白するぞ」と意識を集中し過ぎて感じてなかったが、五感が解放されたようだ。ストンと腹に何かが落ちた。肝が据わるとはこういうことを言うのだろう。時間がいたずらに過ぎていく中、僕は意を決して彼女に告白する。
「高橋さん――高橋怜香さん。僕はあなたのことが好きです。こんな僕ですが、付き合ってください!」
僕は頭を下げ、彼女の返事を待つ。短くて少し長い時間。
「嬉しい――、こんなうちですが――慎次の彼女にしてください」
聞きたかった言葉。僕が顔を上げると、彼女の目じりから一筋の涙が流れていた。ああ、彼女も同じ気持ちでいてくれたのか。僕は頬が濡れて微笑んでいる彼女を見て、「自分が傷つこうが、骨が折れようが、何があっても大切にする」七月の暑く蒸れた教室の中で。そう誓った。
いつも理不尽な目に遭っている陰キャの僕が、クラスの明るい巨乳ギャルを助けたら、彼女と仲良くなりました。 フィステリアタナカ @info_dhalsim
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます