第7話 休日の勉強会

 放課後の高橋さんとの勉強会は特に何事もなく進む。教科書も無事手に入り、僕はテストに向けて集中して勉強できた。そんな日が数日続き、迎えた土曜日。今日は彼女が午前中から家に来る。親がいないので彼女と二人だけという状況に僕は緊張しつつも、どこか楽しみにしている自分がいた。そして玄関のチャイムが鳴る。


「はい」

「やっほー、おはよ」

「どうぞ」

「お邪魔しまーす」


 玄関で高橋さんは靴を脱ぐ。彼女の私服姿を見るのは助けたとき以来だ。いつも開いている胸元は制服ではないので今日は開いてはいない。少し残念な気持ちでいる自分に気づき「何考えているんだよ」と勉強するため気持ちを切り替えることにした。


「慎次、今日は何からやるの?」

「数学」

「じゃあ、うちも数学からやろうかな」


 いつものように二人で勉強。途中、わからない所はお互い教え合い、順調にテスト勉強は進んだ。そんな中、彼女は言う。


「慎次さぁ。今度のテスト、負けた方が勝った方の言うことを一つだけきくって、勝負しない? その方が張り合いが出て、勉強もっと頑張れると思うんだけど」

「うーん」


 正直、彼女の成績は知らない。中学はクラスが一緒になったことないし、この前のテストも特に気に留めていなかったからだ。それでも僕はよこしまな気持ちが出てうずく。


「あっ、慎次。勝ったらうちのおっぱい見たいとか言うんでしょ?」

「そんなこと言わないよ」

「ほんと? 顔に書いてあるんだけど」

「そうかぁ。やっぱり、高橋さんにはわかっちゃうかぁ」

「えっ?」

「ん?」

「そ、そうなんだ――どうする? 勝負する?」

「する」

「即答かい!」

「というか高橋さん大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。うち負けないから」

「自信あるんだ」

「うん。だってこの前のテスト四十位だったもん」


(四十位? 十位以内とかじゃないの?)


「そういう慎次は何位だったの?」

「聞いて驚け、(百)二十一位だ」

「えーーっ! ウソでしょ」

「ごめん。百二十一位」

「やっぱりね。そんなことだと思った」


 そんなこんなで勉強会は進み、お昼を食べ午後になる。そこから二時間ほど勉強して、休憩に入った。


「高橋さん、ジュース飲む?」

「うん、飲みたい」

「ちょっと待ってね」


 僕はコップより先にペットボトルに入ったジュースをテーブルへ持っていく。が、途中床に置いてある物につまずいて、高橋さんに向かって倒れてしまった。


(マズい――、ん?)


 右腕をかばうため、左手を床に着こうとする。床の固い感触が手に来るはずなのに、柔らかい感触が――。


「!」

「ご、ごめん」


 彼女のおっぱいを掴んでしまい僕は狼狽うろたえる。彼女は起き上がり、手で胸を隠して、僕に訊いた。


「うちの柔らかかった?」

「うん」

「興奮した?」

「少し」


 彼女は勉強道具を片付け始め、カバンの中に道具一式を仕舞う。


「うち、帰るね」

「う、うん」

「あっ、お弁当箱だけちょうだい」

「わかった」


 完全に嫌われたな。僕は悲しい気持ちのままお弁当箱を彼女に渡し、彼女の帰っていく後ろ姿を見て、何とも言えない気持ちになった。もしかしたら、もう口を利いてくれないかもしれない。凹む。


 ◆◆◆◆


「ただいまぁ」

「おかえり。早かったわね」

「うん」


 うちは慎次と勉強する時間を楽しみにしていた。土曜日も慎次の家に行くことができて、彼といる時間が心地よいと感じていた。そんな中、軽い気持ちでテストの順位を勝負しようと慎次に提案したが、慎次が勝ったら「おっぱいが見たい」ということが分かったので、うちは戸惑ってしまった。どうしよう。気にしてない素振そぶりを見せたつもりだったけど、彼にはそれがわかったのかもしれない。

 午後の休憩時間にちょっとしたことが起こる。慎次がつまずいてうちを押し倒したのだ。押し倒した際、彼におっぱいを掴まれ、そのことに対しては正直気持ち悪いとかは感じなかった。むしろ倒されたことにドキドキしてしまい、彼の顔がいつもより魅力的に感じてしまった。彼はうちに謝る。


「ご、ごめん」


 男の子だものね。うちは確認した。


「うちの柔らかかった?」

「うん」

「興奮した?」

「少し」


 ああ、ダメだ。勉強どころじゃない。うちは帰ることを決め、片づけを始めた。慎次のことを嫌いだということでは、ないのだけれど、慎次の親もいなし変な空気になったら流れで――。そう考えるとその場にいない方が、今後も勉強会を続けることができるのかな。そう思い、彼のことは見れずに慎次の家をあとにした。

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