デスゲーム健康診断

ちびまるフォイ

稀有なる健康優良ボディ

「健康診断いやだなぁ……」


しぶしぶ会場に到着すると、銃を構えた人が入口に立っていた。


「な、なにごと……?」


気にせず着替えて中に入ったとき、

モニターには事務的な文字が映し出されていた。



【 健康診断へご参加の方へ 】

ここでは一定以下のスコアの人間は処刑します。



「はあ!?」


集められた参加者はざわついていた。

入口が開き血圧検査が待っている。


「さ、さすがに冗談だよな」


ビビらせて騒がせないようにする脅しなんだろうと思った。

しかしそうではない。


MRI監視カメラで集められた参加者は遠巻きに体を覗かれていた。


『ピッ。No.1002 胃に内容物を検知』


すると血圧検査前に呼び止められていた。


「おい待て。貴様、検査前になにか食ってきたか?」


「え? あ、あはは……お腹すいちゃって……」


「射殺」


銃弾が眉間を撃ち抜いた。

パニックになった参加者は逃げようにも出口は閉まっている。


『残り5分以内に血圧検査にお進みください。

 5分立つとこの場所には毒ガスがまかれます』


ふたたびパニック。

誰もが血圧検査の入口に殺到した。


「では検査しますね」


腕に加圧バンドをまかれる。

こんなにドキドキする血圧検査ははじめてだ。

こんな精神状態でまともな結果が出るのか。


ピッ。



「はい、正常値ですね」


「はぁあ~~……よかった……」


血圧に関しては正常値だったので死を免れた。

隣に座っていた人は基準値を超える高血圧なのでその場で処刑されていた。


「次は聴力検査か……!」


今度は自分の瞬発力が試される。

もしもうっかり聞き逃して聴力結果が悪ければ処刑される。


細長いブースに移動し、耳にヘッドホンを当てる。


「では、音が鳴ったらボタンを押してください」


「はいっ……!」


目をつむり、全神経を集中させる。

ぜったいに聞き逃してはいけない。



ピーピーピー。


「いまだ!!」


遠巻きに聞こえた音に合わせてボタンを押した。

これは早いのか遅いのか。

もし基準値より遅かったら……。


「ど、どうでした!?」


「まあ、ギリギリですが……大丈夫でしょう」


「あぶねぇ……」


嫌な汗がどっと流れた。

なんとか死を回避できて安心した。

これがまだ続くのかと思うと気が休まらない。


隣のブースではあてずっぽうでボタン押した人が、

ブース内に毒ガスまかれて死んでいた。


「次は……身体検査!?」


安心したのもつかの間、ついに最難関がやってきた。

身長よりも問題は体重。


不摂生な生活と楽をするばかりの日々。

すっかりお腹は前と横に体積を広げている。


体重計に乗ろうものならメタボ診断されて処刑される未来が見える。


かといって、会場から逃げる方法はない。

診断完了書と持たずに外へ出た人間は処刑されていた。


「ど、どうしよう……」


診断しても死ぬ、逃げても死ぬ。

答えは出ないまま次の検査に進めずに待合室で座っていた。


すると、検査を終えた若い人たちがやってきた。


「お前どうだった?」


「ヨユーだよ。健康診断なんてちょろいな」


「俺なんか4診断で満点だぜ?」


「ざっこ。こっちは全診断で満点さ。んじゃトイレいってくる」


お互いの優良診断結果を見せびらかし合っていた。

彼らならこの先の検査もラクラク突破だろう。


「そ、そうだ!」


ここを脱出する方法を思いついた。

ひとりが向かったトイレへと尾行していく。


後ろポケットに刺さっていた診断書を抜き取り、

自分の診断書と入れ替えてその場を離れた。


「はは。やった! 手に入れた!

 どうあがいても健康になる黄金のチケットだ!!」


診断書には個人情報のため、顔も名前も書かれていない。

お互いに区別できるのは呼び出し番号だけ。


診断書を入れ替えてしまえば、自分の診断結果は若者に。

若者の診断結果は自分の結果として反映される。


機械が診断書のNoに合わせて書き込んでいるので、

診断書がトレードされていても気づかないだろう。


「これでこの次の試験も突破できる!」


若者が診断にいくタイミングに合わせて自分も検査を受ける。


あきらかにメタボであったとしても、

診断書に刻まれる結果は若者の健康体そのものの診断結果。


一方で若者の方は文句をつけていた。


「はあ!? なんで俺がメタボなんだよ!?」


自分の診断結果に納得いってないようだった。

でも基準値以下であったため、処刑までは至っていなかった。

これなら診断書を入れ替えなくても突破できていたのか。


すべての検査を終えて、ついに合格者の待合室にたどり着いた。


「ああ、やっと解放された……」


処刑される不安から解放されて涙が出る。

来年の健康診断までにはもっと健康になろうと誓った。

そのとき。


「おいお前」


「え」


「別室へ来い」


幸せな時間は一瞬にして地獄へと切り替わる。

診断書を持つ手がぶるぶると震える。

まさか診断結果をごまかしたのがバレたのか……。


別室には仮面をつけた健康診断マスターが座っていた。

そばには物騒な銃を持っている人もいる。


「よく来てくれたね」


「あばばばば……」


あまりの恐怖に口が回らない。


「そんなに怯えなくてもいい。いいニュースを伝えに来たんだ」


「へ……? 診断書の話ではなく?」


「診断書? なんのことかな?」


「はあ……よかった……」


どうやら診断をごまかしたのはバレていなかった。

別件で呼ばれていたらしい。めっちゃ焦った。


「診断書も関係あるといえばある。

 君はこの健康診断ですべて満点だったようだね」


「は、はぁ。それはどうも」


「この豊食で便利な時代にも関わらず、

 健康を維持できるのは本当に素晴らしい。

 今回はその才能を見込んでオファーしにきたのだよ」


「オファー……?」


マスターはその先を続けた。




「君の健康そのものの体を解析させて欲しい。

 体は一度すべてバラバラになるが協力してくれるね?」



驚きすぎて息ができなくなった。

最後に聞けたのはひとつだけ。


「こ、断ったら……?」


「撃たれてから、バラバラにされるだけさ」



やっぱり健康診断なんて受けるんじゃなかった。

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