第30話 閃いた!2

「それは駄目だ!」


 多分、私の小さな独り言が聞こえたのは、グレイ王子だけだったんだと思う。アンネロッテ様達が、キョトンとした顔でグレイ王子を観ていたから。


「でも、ジスロ公爵令嬢がしでかしてくれないと、犯人だって証明できないじゃないですか。いつまでもニーナを死人扱いできないし、ここは私が王太子の探していた黒髪の女だってことを暴露して、狙ってもらわないとですよ」

「え?ラインハルト王子だけではなく、アレキサンダー王太子にも狙われているの?やだ、エステルったら王子全攻略じゃないですか。もちろん本命はグレイ様だろうけれど」

「本命って……いや、まあ、グレイ様のことはそうなんですけど、王太子や第一王子は私のことが好きなわけじゃないですよ」


 アンネロッテ様の本命発言に照れながら、王太子達が自分に好意を持っていることを否定する。アレキサンダー王太子からしたら研究対象なだけだろうし、ラインハルト王子は女性に拒否されたのが物珍しかっただけだろう。もしくは、私に踏みつけられて新しい扉が開いたか……。


「……では、あの噂のデカパンはエステルさんのなんですね」


 噂のって……。本物のパンツは私が回収したから、今はパンツの無駄に精巧なイラストと説明書き付きのお触れ書きになっているけれど、いまだにお触れ書きは撤去されていなかった。なんなら、私の描写より、パンツの描写の方が詳しくて長いから、パンツのインパクトが絶大で、私を見つけられないんじゃ?と思わなくもない。それだけは父さんに感謝かもしれない。


「あれは父親からもらったから履いていただけで、気に入って履いていたわけじゃないですよ。なんなら、それしかなかったからしょうがなくです」

「女性は下半身を冷やさない方が良いのは確かですが……、あれは駄目です。タイトなドレスを着た時に、下着のラインが出てしまいますし、何より男性ウケがよろしくないですわ!ねぇ、グレイ様」

「アンネロッテ嬢、そこで俺に同意を求めないでくれ」

「デカパンを履いたエステルさんと、スケスケレースのTバックを履いたエステルさんなら、断然後者の方がよろしいに決まってます!エステルさん、今度私に全身プロデュースをさせてくださいませ。あのデカパンはなしです。私の美意識が許せませんわ!」


 アンネロッテ様の下着に対する熱量が凄いな。凄すぎて、話が脱線しているのにも気が付かなかった。


「今は支給されている下着をつけてますから、あれは忘れてください」

「支給品なんて、どうせ機能重視の可愛らしくないものでしょう?」

「でも、あれよりは面積少なくて、可愛いリボンが一つついてますよ」

「リボンも良いのですが、男性の好みはスケスケです!」


 デカパンに慣れた身としては若干スースーするけれど、履き慣れればなんとかいけた。次はぜひにアンネロッテ様の言うスケスケレースにもチャレンジしたいと思う。それがグレイ様の好みならば是非に!


「アンネロッテ様もエステルさんも、ここにいるのが女性だけじゃないことを忘れていませんか。グレイ様が困られておりますよ。それに、今はジスロ公爵令嬢のお話をしてたんじゃないのですか」


 パンっと手を打って話しを軌道修正したのは、ターニア様だった。


「ううん!そうだな、今は下着のことよりジスロ公爵令嬢だ」

「だから、私が囮になります。私なら、毒を盛られても気が付かないってことはないし、ニーナがいなくなってから同じようなことが起これば、ニーナの冤罪だって主張しやすいですよね」

「しかし……」


 グレイ王子はグッと拳を握る。そして、深いため息をついた。


「今回のことといい、おまえは何だって自分から危険なことに首を突っ込みに行くんだ」

「私にできることはやりたいし、ニーナのこともターニア様に毒が盛られたことも、元凶は私みたいだから」

「……わかった。それなら、おまえの存在を周知する場所を、二週間後に用意しよう。それまで、アンネロッテ嬢とターニア嬢に頼みたいことがある」

「「はい、なんなりと」」


 二人が姿勢を正して頭を下げると、グレイ王子はとんでもないことを言い出した。


「二週間で、ステラに淑女教育を施してほしい。とりあえず、見た目と簡単な所作だけでいい。二週間後、ステラを俺の正式な婚約者として発表する」


 なんと?

 正式な婚約者!?しかも、私の教育を自分の婚約者候補者に頼むって、アンネロッテ様達が不快に思うんじゃ……。


「お任せください!二週間で、完璧な淑女を作り上げてみせますわ。完璧な美は、装いだけででなくその立ち居振る舞いに宿ると言われております。エステルさんは体幹がしっかりなさってますから、すぐに会得なさることでしょう!」


 え?アンネロッテ様、のりのりですね。


「では、私は主に知識関連ですね。国の歴史や貴族として必要な常識、あとは受け答えとかですね」


 ターニア様まで、やる気満々じゃんか。いいの?それで。


「ああ、頼む」

「「かしこまりました」」


 お二人共、良いお返事ですね。でもその前に、確かにグレイ王子とはお互いの気持ちを確かめ合った仲ですけど、まだ……チューもしてないのに、いきなり婚約ですか?獣人は、連れ添いを見つけたら、まずはお互いの匂いをつけ合うもんです!


「あ……うん、そうだな。アンネロッテ嬢、ターニア嬢、少し席を外してもらえるだろうか」


 私の心の声が聞こえたのか、私がまたもや考えていることを口に出していたのかわからないけれど、グレイ様の言葉にお二人は席を立って部屋から出て行った。



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