第20話 やっぱり声にでてましたか
私の慌てぶりに話ができないとふんだグレイ王子は、ショック療法だとばかりに私を抱き上げて視線を合わせた。もしかしたら、身長差で腰を屈めているのに疲れただけかもしれないけどね。
「うひゃ!」
高い&近いです!
「確かにおまえは独り言が多いが、おまえがステラだって気がついたのは、独り言のせいじゃないぞ。専属侍女に指名したのだって、エステルがステラだって知っていたからだし、アレキサンダーに目をつけられていたみたいだったから、見つかる前にと思ったんだ」
「じゃあ!あのパンツの持ち主が私だって知ってたんですか!?」
「おまえ、気になるところはそこか。……まあ、子猫になった時に落としたんだろうなと思っていたが」
「大事ですよ。あのパンツは私の父親が唯一私に残したもので、別に私の趣味とかでは決してないですからね」
グレイ王子の鼻先に人差し指を当ててビシッと言うものの、足はプランプランしているし、高い高いの一瞬前みたいな体勢は、いまいちかっこつかない。
「ああ、そうなのか」
「本当に本当ですよ。あんなデカパン、好き好んではいてませんから」
「わかった、わかった。で、一つ確認なんだが……」
「なんですか?」
グレイ王子は周りを確認し、会話が聞こえる距離に誰もいないことを確認すると、抱き上げたまま私の耳元に顔を近づけた。
近い!近い!近い!
「ステラは獣人のスパイじゃないよな。獣人国が人間国を攻めようなんて考えてないよな?」
「え!?私がスパイに見えますか?」
「見えない。全くもって見えない」
即答したグレイ王子は、一応確かめただけで、そんなことは思ってもいないと言ってくれ、私は胸を撫でおろす。
「私は人間の父親と、獣人の母親のハーフです。あっちでは、満足に獣化できない半端者扱いでしたよ。満足に獣化できないし、獣化したらしたで子猫のままだし、さらには人化している時に毛がないハゲだってバカにされて……」
私は俯いてあの時のことを思い出す。
「ステラ……?」
多分だけど、虐められた惨めな過去を想像したんだろうグレイ様が、私を抱え直すと、下から私の顔を覗き込んできた。
「……知ってます?」
「何をだ?」
私はニタリと笑ってグレイ様に視線を合わせた。いやね、やられっぱなしじゃなかったし、やられたらやり返す。それが私の信条ですから。
「獣人って、かなり単純なんです。自分の力の強さを過信してますし。だから、直接攻撃しかしてこないんですよ。武器とか使わないし、遠距離攻撃にはやたらと弱い」
「おい、そんなこと俺に話していいのか?」
私が話したことは、獣人のウィークポイントだもんね。実は他にも色々あるのよ。獣人は人化している時はそれなりに人に近い知能を持っているけど、獣化すると知能よりも本能に支配されがちで、若干考える力が落ちる。だから、巧妙に仕掛けられた罠(匂いが残ってなければ大抵わからない)とか察知できないし、落とし穴なんか落ち放題とか、嗅覚が優れているから、逆に強烈な匂いにはパニックになるくらい弱いとかね。
「よっぽどの弓の腕前がなきゃ、獣人には当たらないし、距離を詰められたらアウトだから。それに、獣人は……まあ種類によりますけど、夜目がきくから、夜に行動を起こすことが多いんです。だから、同じくらい夜目がきく人じゃないと、矢を命中できないでしょ。だから、別に大した弱点ではないです」
獣人国には……というか、母さん以外の獣人には良い思い出はほとんどないけど、別に人間国とやりあって滅んで欲しいとまでは思ってない。人間国は人間国、獣人国は獣人国、今まで通りお互いに不可侵でいればいいんじゃないかな。
「なるほど。じゃあすばしっこいステラは、彼らの弱点をついて反撃していたんだろうな」
私はもちろんと頷く。
「私は夜目がきくし、弓やパチンコは得意だし、何より獣化してもあいつらよりは賢いから、馬鹿にされたら返り討ちにしてやってましたけでね」
家の周りには罠を沢山しかけ、落とし穴も掘りまくり、自衛には万全の注意をはらっていた。子供の喧嘩も、獣人同士は命がけなのだ。たまに、父さんが罠にかかったりしてたけど。
「ハハハ。今度、おまえの弓の腕前を見せてもらおうかな」
「パチンコなら、今日は持ってますから、見せてあげますよ」
下ろして欲しいと意思表示すると、グレイ王子はそっと地面に下ろしてくれた。私はスカートをパッとめくってガーターベルトからパチンコを引き抜くと、落ちている小石を拾って道端に落ちていた空き缶を狙った。さらに跳ね上がった空き缶を狙い、連続で小石を当てる。空き缶は石に弾かれて、地面に落ちることなく色んな角度で吹っ飛んで行く。
ふふふ、私の類稀な動体視力と、百発百中のパチンコの腕前を見たか!
誇らしげにグレイ王子を振り向くと、王子は片手で目を覆い、赤くなって俯いていた。
「グレイ様、ちゃんと見ていてくれないと駄目じゃないですか」
「おまえな……いつもあんなとこにパチンコを仕込んでいるのか」
グレイ王子は手を下ろし、険しい顔つきでため息交じりに言う。
「いえ、さすがに王宮では持ち歩きませんよ。グレイ様が街は危険だみたいなこと言うから、一応護身用に」
「持ち歩く場所を再考しろ。ポケットに入れるとか、鞄に入れるとか」
「えー。これ、パチンコ挟む為に自作したんですよ。いかに早く取り出せるか、持っていて邪魔にならないか試行錯誤して、出来上がった逸品なのに」
「おまえは、パチンコを取り出す度に、パンツを披露するつもりなのか」
パンツ……、今日は父さん作のデカパンじゃなく(あれは封印したよ。だって、くしゃみをしなくても、自分の意志で獣化はできるようになったからね。人化はまだだけど)、侍女に支給される下着を履いている。レースヒラヒラの可愛い下着ではないけれど、デカパンよりは可愛らしいから、最近は常にこっちだ。そのうち、レースヒラヒラにもチャレンジしようかな。
私は、グレイ王子に一歩近寄りその顔を見上げた。
「グレイ様は、どんなパンツが好みですか?色とか形とか素材とか」
どうせ買うなら、グレイ王子の好きなパンツを買った方がいいよね。お互いに好き同士なら、パンツを見せるような状況になるかもだし、……って、王子と番っちゃっていいのかな?人間は本能だけで生きてるわけじゃないって、父さんが言ってた。本人は、人間国に半獣人の娘を置いて、ふらふら気の向くまま旅に出ちゃうような、獣人以上に本能で生きている人間のくせに。
「それは大変だったな」
グレイ王子の神妙な顔つきに、またもや独り言連発だったことに気付く。
「あ、また……」
なぜこんなに考えていることが口に出てしまうのか……。もう、こうなったら、思ったことをすぐに口に出しちゃえばいいか。もしくは、言わなくても通じる的なことだと開き直るとか。うん、開き直ろう!
「で、どんなのがタイプですか?清純派?お色気派?」
「いやいや、待て。勝手に開き直って話を進めるな。下着のタイプの前にだな、パチンコはそこじゃないと隠せないのかって話だ」
「ここが一番取り出しやすいんです」
スカートをめくってガーターベルトを見せつけると、グレイ王子はまたもや手で目を覆い、さらには横を向いてしまう。赤らんだ耳を見る限り、嫌がってはいないと思うんだけど。
「ただ、他の奴にステラのパンツを見せるのが嫌なだけだ」
「なるほど!」
確かに、私もグレイ王子のあられもない姿を、他の雌に見られるのは嫌だ。私はスカートから手を離して手を打った。
「なら、ガーターベルトをつける時は、短いズボンを履きます。それならパンツは見えないですよ」
「いや、足が丸出しだろ!」
でも、長ズボンじゃスカートから見えちゃうしなぁ……。
結局、短いズボンの丈を膝丈にすることで話に折り合いがつき、グレイ王子の好みのパンツについては聞き出すことができなかった。
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