第14話 お疲れさまでしたパーティー
「お疲れさまでしたパーティー?何それ」
一週間のパーティー地獄から解放されて、やっと新業務に入るのかと思いきや、第一王子の発案で、今回のお見合いパーティーに参加した令嬢達を慰安するパーティーを開くと言う。いやいや、一週間パーティーやらお茶会尽くめだったでしょ?慰安ならば、ゆっくり過ごさせてあげれば良くない?私達はゆっくりしたいよ、切実に。
「ご令嬢達の中には、婚約者候補の次点選びなんじゃないかって、色めき立っている方々もいるみたいよ」
「ええ?これ以上滞在なさるご令嬢が増えたら、また侍女を増やさないと回らないわ」
「確かに。でも、侍女の数だけ増やしても、質が下がれば文句を言われるのは中堅どころの私達よ。教育がなっていないってね」
「やだわ。せっかく見習い侍女の教育係も終わったのに」
私が南宮の二階から落ちた時に掃除の仕方を教えてくれた先輩と、私が鶏と格闘した時に玉子係だった先輩が、食堂で朝食を食べながら話していた。
その会話を背中で聞きながら、教育係りも大変なのね……と、他人事のように聞いていた。
「これは内緒よ。次点選びと言えばそうなんだけど、ラインハルト様がどうしても探したい令嬢がいるらしいのよ」
話に横入りした他の先輩が、内緒だと言いながら声をひそめるでもなく、逆に声を張って言った。
「まあ!王子様の中でも、最多の五人の候補者を選んだのに、まだ足りないのかしら?」
「一晩で四人のご令嬢と閨を共になさるくらいパワフルな方だから、あと数人はいけるんじゃないの?」
「四人も!さすがねぇ」
何がさすがなのかわからないが、先輩達の話はラインハルト王子の女性関係の話になっていき、私は食事も終わったから席を立った。
その日の朝礼で、先輩達の話していた通り三日後にパーティーが開催されることになったと伝えられた。ただ、規模はかなり縮小されており、令嬢全員を呼ぶのではなく、(ラインハルト王子により)厳選された令嬢を数十名と、すでに婚約者候補になった十一名のご令嬢を招待するらしいとのことだった。
私はグレイ王子様付きになったから関係ないかと思いきや、当日の給仕の手伝いを言い渡された。また、グレイ王子の婚約者候補の二人も参加するから、その付き添いもしないといけないらしい。
仕事を増やしてくれたラインハルト王子に微かな殺意を感じつつ、仕事だからと笑顔で拝命した。
そして三日後。バタバタと忙しくパーティーの準備をしつつ迎えたパーティー当日。
「えっと……、なぜ私もドレス姿なんでしょうか?」
給仕の手伝いをしていたら、アンネロッテ様に呼び出されて、ドレス(アンネロッテ様の少女時代のドレス)を着せられて、銀髪の鬘(今回は髪の毛を結う時間がなかったから)をかぶらされ、そして化粧をされた。美のトータルコーディネーターを目指すと言うだけあって、何方様?と言いたくなるくらい別人に仕上がった。元の自分が残っているのは、身長と目の色くらいじゃなかろうか。
「それは、私達の付き添いをしてもらうからよ。お仕着せじゃ楽しめないでしょ」
「……なるほど。この姿なら、食べ放題ってことですか!」
「まあ、私達にはそれくらいしか楽しみはないわね」
「ターニア様、眼鏡は?」
美しく着飾ったターニア様は、眼鏡をしていなかった。見えないせいでか、眉を顰めた表情は艶めかしい。あまりに綺麗過ぎてポーッと見つめていたら、ふとターニア様に違和感を感じたが、いつもしている眼鏡をしていないせいだろうと、気に留めなかった。
アンネロッテ様も、婚約者候補を決めるパーティーの時よりもゴージャスになっていた。いつも美しいけれど、慎ましさの中にも色気が漂い、この姿をラインハルト王子が見たら、絶対に食いついてくるだろうなと心配になる美しさだった。もうグレイ王子の婚約者候補になったから、さすがに女好きなラインハルト王子でも手を出しては……こないよね?
「アンネロッテ様が、眼鏡は駄目だとおっしゃるんですもの。エステルさん、腕を組んで歩いてもいいかしら。転びそうで怖くて」
「そりゃいくらでも。でも、その役目はグレイ様なんじゃ?」
「二人を一度にエスコートはできないからな。ラインハルトみたいに器用じゃないんだ」
控室に現れたグレイ王子は、全身黒で統一されたタキシードを着ていた。差し色で胸に紫のハンカチを入れていたが、紫はアンネロッテ様の目の色でも、ターニア様の目の色でもなかった。婚約者候補の二人も、グレイ王子の色をまとっておらず、まだそこまで親睦は深まっていないと示しているのだった。
「あの……、お二人が銀糸や赤の刺繍のドレスなのに、私が金糸の刺繍のドレスってまずくないですか?」
金はグレイ王子の髪の色だ。
「それはまぁ……しょうがないわ。あなたが着られるドレスがそれしかなかったんだから」
「エステルは小さいからな。今度、エステルのドレスを作らせておこう」
私のドレスをグレイ王子が作るのは、何か違くないですか?子猫のステラの洋服ならまだしも。いや、絶対に着ませんけどね。人化した時にビリビリに破けるだけだから。
「それなら、私がデザインしますわ」
「アンネロッテ嬢はデザインまでできるのか。へえ、それは凄いな」
和やかに会話をしているが、二人の間には色恋の雰囲気は一ミリも流れていない。そんな時、パーティーの入場時間になったことを侍従が告げに来た。
「では行こうか」
グレイ王子が先頭に立ち、私を真ん中に美女二人。この構図、合っているのかな?
小ホールにつくと、婚約者候補になりそこねた令嬢達はすでに会場入りしており、私達は王族の席に案内された。私はアンネロッテ様とターニア様の後ろに控えた。
「何か……違和感がある気がするんだけど、気のせいかしら」
アンネロッテ様が首を傾げながらホールを見渡す。私達が案内された席はホールの一階上にある観覧席で、ホールが一望できるようになっていた。
「違和感ですか?」
ターニア様が目を細めてホールを見下ろす。
「駄目ですわ。やっぱり何も見えません。ただ、皆様暗い髪色だなくらいしかわかりませんね」
「それよ!」
私も二人の後ろからホールに目を向けると、令嬢達は色とりどりの衣装を着ているが、暗い髪色の令嬢ばかりだった。
「グレイ様、ホールに降りてきてもよろしいですか?」
「別にかまわない」
「じゃあエステル、行きましょう。ターニア様はグレイ様のお相手をよろしくね」
「ええ。誰にもぶつからなくて歩ける自信がないから、私はここにいますわ」
ターニア様に見送られ、アンネロッテ様とホールへ降りた。
「まぁ、さらに異様だわ」
「どうしました?」
アンネロッテ様は、ホールを見渡して眉をひそめる。
「みんな似通っているのよ。髪色だけじゃなく、なんとなく体型とか身長とか……目の色まで」
目の色?令嬢達の目に注目して見てみると、確かに黄色っぽい瞳の令嬢ばかりだ。
「ラインハルト殿下が集めたわりには……あれですわね」
アンネロッテ様の言いたいこともわかる。彼女の視線は参加者のバストに向かっていて、参加者は皆、体型がいまいち……私が言うのもアレだが、そう!スレンダーなのだ。主にバストが。
「私、あのお知らせを見て、すぐに髪色を染めましたのよ」
「あら、私も。他の条件はそろっておりましたので」
「私はコルセットでお胸をつぶしてますのよ。もう、苦しくて苦しくて」
令嬢達の会話に、アンネロッテ様は首を傾げ、話していた令嬢に声をかけた。
「ごきげんよう、あなた、お話よろしいかしら?」
「ごきげんよう、サバン伯爵令嬢。もちろんでございます」
胸をつぶして苦しいと言っていた令嬢は、若干青白い顔でお辞儀をした。
「このパーティー、参加資格でもありますの?ちょっと、皆様のお話が耳に入りまして」
「そうなんです。こちらが配られた招待状なんですが、暗めの髪色で黄色っぽい瞳、スレンダーな体型で小柄な令嬢のみ参加可能とありますの」
つまり、アンバーとか黄みがかったヘーゼルの瞳で小柄な令嬢が、髪色を変えたり体型を操作したりして参加しているということか。瞳の色と身長だけはどうにも変えられないから。
「これ、いただいてもよろしいかしら?」
「はい、もちろんです」
アンネロッテは招待状を譲り受けると、私をホールの端まで連れて来て囁いた。
「これって……エステルさんも当てはまりますわね。今は銀髪の鬘をかぶっていますが」
「え?」
そこに、ファンファーレが鳴って、ラインハルト王子と婚約者ご一行の入場を知らせる声がホールに響いた。グレイ王子のいる観覧席の隣の席のカーテンが開き、ラインハルト王子が顔を出して手を振っている。
「ジーク様の時は、ファンファーレなんか鳴らなかったのに!」
何か差をつけられたようで気分が悪い。私が頬を膨らませて文句を言うと、アンネロッテ様がクスクス笑う。
「ジーク様はあんな派手な登場は好まれないでしょうよ。私も嫌だわ」
続いてアレキサンダー王太子ご一行も現れ、パーティーは開始となった。
「あなたが目をつけられたら大変だから、観覧席に戻りましょう」
「まさか私なんて……」
そう言って観覧席を見上げた時、ラインハルト王子とガッツリ目が合った。
「おまえだ!」
ラインハルト王子が観覧席から身を乗り出して叫んだ。
え?誰?
ラインハルト王子は明らかに私を指差しており、思わず後ろに誰かいるのかと振り返る。しかしあるのは出入り口の扉だけで……。
「エステルさん、とりあえず逃げなさい」
アンネロッテ様に言われて、私は反射的にホールを飛び出して走り出した。
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