秋野てくと氏は神を細部に宿す作家である。氏の代表作である「デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?」は、悪役令嬢ものでTCGをする作品だが、個々のカードの能力やデッキテーマの動き、特殊ルール、そしてそれらを総合的にふまえてどう魅力的なデュエルを演出するか、隅々まで考えられている。秋野氏の作品は、見た目はライトでありながらその実非常に緻密でディープな作品なのだ。
この作品は「怪異撃滅クラブ」という珍妙な名の部活に所属する女子高生たちが怪異の裏にいる人間を暴く、ホラーにみせかけたライトミステリである。
1話や1章ぶんがほどよい長さでキャラの掛け合いも楽しいため、非常にスイスイ読める。読めてしまう。
それではもったいない、この作品は(特に3章は)秋野氏がミステリとして読者の度肝を抜いてやろうという真剣さがこれでもかというほど伝わってくる一大傑作である。私はとても面白いとは思っていたが最初は鈍いゆえにそれを感じ取れず、さっさと続きを見て、もっと謎を解こうと努力すればよかったと後悔した。私は読者として秋野氏の真剣さに応えるべきだった。
ミステリは謎が解かれればそれきりである。真相を知らなかったころには戻れない。これを読んでいて、まだ3章の4話以降を読んでいないあなたには、すべてを捨てて目の前の謎にのみ集中し、命懸けで謎解きに挑んでほしい。