27話 もう一人の夜間活動者

「予定を大幅に超えちゃったわね……」

「今回の夜間任務は少々面倒だったのよね。」


独り言が零れる。

夏の始まりって感じの風が吹き付ける。

夜間飛行って私あまり好きじゃないのよね。

鳥も何もいないし。


「まぁ夜景は綺麗だけどね。」

「む?」


なんとなく異変を感じたので止まる。


「三式かな?」

「その近くに違う反応もある。」

「ただそっちは式力が弱いね。」

「仕方ない、倒してから帰りますか。」


また一つ仕事が増えた。

私は式を感じる方を目指してスピードをあげる。


「あそこか。」

「少し大きめだね。」


まぁ問題はあまりないけどね。

大抵三式くらいになると、みんな姿を大きくしたがる。


「……あれま。」

「誰か倒れてる?」


時間はかけれないね。

討伐した方がいいんだけど、負傷者がいるっぽいしな……


「力の調整を考えると使わない方が良さそうだけど、仕方ないね。」


式霊に向かってスピードをあげる。

空中でゆっくりと刀を抜く。

空気抵抗で刀が大きくブレる。


「疾風切りッ!」(はやてぎり)


ライバルである友人からインスピレーションを受けた技。

空中から急降下し、スピードがついたところで刀を振る技。友人はそのまま正面から殴るけどね。

この技のデメリットは力の調整。

1番威力が出た時で、建物を一刀両断してしまうことがある。

ちょうど技をぶつけた式霊も真っ二つになった。


「すごい……」


そうだった!

けが人がいるんだった。


「あなた大丈夫……ではなさそうね。」


私と同じくらいの女の子。

握っている刀は半分程の刃しかなく、砕けた痕跡もある。

本人は擦り傷やらもあるが、頭部から出血している。


「すぐ運んであげるね。」


確かカバンに色々入ってた気がする。

カバンの中から包帯と太い紐を出した。

出血箇所を包帯で巻く。


「痛いだろうけど頑張って。」


同じ制服。うち学校の生徒……こんな子いた?

そんなことを考えながら応急処置を終える。

少し痛む顔をしたが、声を上げることはなかった。強い子だね。

少し無茶な運び方ではあるが、学園までそこまで離れていない。

それに、式霊が多いここで待つのは正しい選択ではないかな。

横たわっている状態の彼女をゆっくりと起こし、体に縄を巻く。

締める前に私にも巻き、運ぶ準備が出来た。

彼女の腕を首の前で交差させて背負う。


ゆっくりと立ち上がり、空中へと飛び立つ。

おそらく数分で学園まで行けるはずだ。


「あなた学年は?」


「多分1年生だと思います。」


「多分って?」


「配属が決まってなくて……」

「二学期から通うことになってます。」


「二学期からってことは、転校生?」


「そうなります。」


転校生にも夜間任務……?

そもそも1年生で私以外に数人しかいないはずじゃなかった?


「助けてくれてありがとうございます……」


彼女はそう言うと、交差した腕の力を抜いた。


「ちょっと?!」

「危ないわよ?!」


「…………」


返事がない。

だいぶまずい状態ね……

やっぱり運んできたのは正解だったかもしれない。


「大丈夫よ。」

「もう少しで学園に着くから。」


ポケットから携帯を取り出す。

空挺都市の正門に人を呼んだ方が良さそうだからね。


「……あ、もしもし。」


「その声は、風間さんですね。」

「夜間任務お疲れ様です。」

「何か問題がありましたか?」


「お疲れ様です。」

「負傷者を見つけました。もう少しで着くので、学園じゃない方の正門で対応をお願いしてもいいですか?」


「了解しました。」

「すぐ向かいます。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


学園は目の前。

誰かが走ってきているのが見える。

学園都市には2つの病院がある。

だから、到着数分前に連絡しても意外とどうにかなる。

ゆっくりとスピードを落として垂直に降下する。


「よいしょっと。」


「お疲れ様です。」

「救助ありがとうございます。」


「この台に下ろして大丈夫ですか?」


「はい。手伝います。」

縄を外してもらい、少女を下ろす。


「意識はあったんですけど、途中から返事が無くなってしまって……」


医師が呼吸を確認し、ライトで目を照らす。


「待っていたら間に合わなかった可能性が高いですね。」

「大丈夫です。まだ回復できます。」


「わかりました。」

「あとはお願いします。」

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