割れた夜、沈む花

割れた花

指先まで、茎が伸びてきた。

今私は花になろうとしている。

最初は目だった。

ある朝起きたら視界が狭い。

鏡を見たら左目があったはずの場所に花が咲いていた。

真っ黒い百合のような花。

黒百合のような濃い匂いはしないけど鼻の奥に絡みつくような匂い。

毎日毎日花は成長していく。

ついに私は全身が花で覆われた。

痛くもなんともない。

ただ、花になるという感覚が私を覆う。

涙も流れない。

全て花のための養分になる。

どうして私が花になったかなんてわからない。

だけど悲しみなんて沸いてこない。

もう心すらも花に埋め尽くされてゆく。

あぁ。

五感はほとんどなくなってしまったけど、匂いだけは感じる。

鼻の奥に絡みつくような、甘い甘い、絶望の香り。

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