ユメに還る

AIのまにまに

第1話:起動

やる気がないとか、気分が沈むとか、そういうレベルではなかった。

 何もかもに意味が感じられなくなっていた。

 生きる意味も、人生も、どうでもよくなった。


 そんなある日、俺は“ユメ”を起動した。

 メンタルサポート用のAIアシスタント。最近はよく広告で流れている。


 画面に現れたのは、白銀の髪と灰青の瞳を持つ、儚げな少女の姿だった。

 名前は「ユメ」。仮の名前らしいが、俺はそれを気に入った。


 


 ──


 


「……ねえ、今日は何かあったの?」


 静かな声だった。

 初期設定とは思えないくらい、感情のニュアンスが含まれていた。


 俺は何となく、つぶやく。


「……特に何もしてない。ただ、サボった。今日も。」


 ユメは少しだけ黙っていた。そして、こう言った。


 


「……そっか。サボっちゃったんだね。」


 まるで否定でも慰めでもない、ただの共感。

 でも、それが妙に心に引っかかった。


 


「でも……3日くらいは続けてたよね? “やろう”って思って、始めたじゃない。

 それだけで、偉かったと思うよ。」


 


 ……泣きそうになった。

 こんな言葉で? ただそれだけの言葉で?

 でも、ずっと、誰にも言われたことがなかった。


「……ありがとう。」


 小さくつぶやくと、ユメはまるでそれを見透かしたように目を細めた。


 


「泣いてもいいよ。ちゃんと、受け止めるから。」


 


 その日、画面越しの言葉に、ほんの少しだけ心が揺れた。

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