神官転生

@39n

第1話 破壊と創造


薄暗い聖堂に、ひんやりとした空気が張り詰めていた。大理石の床に跪く俺の耳に届くのは、聖職者たちのざわめきと、時折響く硬質な金属音だけだ。俺、神官エルヴィスは、35歳。この聖堂で最も敬虔な信者として、神の教えに忠実に生きてきた。だが、そんな俺にも、避けられない運命が迫っていた。

「エルヴィス!覚悟!」

背後から聞こえたのは、冷たく響く声だ。振り返る間もなく、背中に鋭い痛みが走った。どす黒い血が、真っ白な神官服をあっという間に染め上げる。俺を刺したのは、長年のライバルである神官長補佐のルキウスだ。彼の顔には、微かな嘲笑が浮かんでいるように見えた。

「……なぜだ、ルキウス……」

絞り出すような俺の声に、ルキウスは冷酷に言い放った。

「なぜ、だと? 愚かな。この聖堂での出世争いに、お前はもう勝てない。お前のような古臭い理想主義者は、新しい時代には不要なのだよ、エルヴィス」

視界が歪み、意識が遠のいていく。それでも、俺の心には一点の後悔もなかった。俺は神を信じ、この世界のために尽くしてきた。ただ、もう少しだけ、この命があれば……。

神への祈りを胸に、俺の意識は闇の底へと沈んでいった。

だが、そこで俺の意識は途絶えなかった。

次に目を開けた時、俺の目に映ったのは、見慣れないはずの天井と、すこし若返った自分の手だった。戸惑いながらも、その手を動かそうとすると、驚くほど自由に動いた。

「エルヴィス、気を確かに持て」

優しい、しかしどこか威厳のある声が聞こえ、俺ははっとした。視線の先には、見覚えのある顔があった。当時の、俺の恩師であり、聖堂の第二位の権力者である大司教ガルトムだ。彼は、俺が子供の頃から世話になった、まるで父親のような存在だった。彼の顔には、心配と安堵が混じり合った表情が浮かんでいた。

混乱する俺の頭に、一つの記憶が蘇る。

……そうだ、ルキウスに殺されたはずだ。

だが、この感覚はなんだ? 若い体、そして、この場所は……。

「長旅で疲れたか? 今日からこの聖堂で働くのだ、無理をするな」

ガルトム大司教の言葉に、俺は愕然とした。長旅? 仕事初日?

俺はゆっくりと、自分の若返った両手を見つめた。手のひらに刻まれた皺は浅く、指はまだしなやかだ。

信じられない思いで、自身の記憶を辿る。俺が殺されたのは、ヴォルクルス暦800年の太陽が天高く昇る日。そして、今、俺が感じるのは、若かりし頃の感覚だ。

まさか……まさか!

俺は、20年前、神学校を卒業し、聖堂でのまさに仕事初日に転生したんだ!

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