消える
「ねぇ、クティ、聞きたいことがあるんだ!」
左腕でドアを押し開け、無表情のまま叫んだ。クティはうんざりした顔で答えた。
「またかよ。今度は何だ?もう邪魔しないでくれよ」
その時、クティはさっき俺と同じ場所に座っていたので、俺は元の席に座り直して言った。
「ごめん。でもさっき聞き忘れた、とても大事なことがあるんだ」
「大事なことを忘れてたって?バカじゃないのか?」
さっきよりイライラしている様子の彼女を見て、なぜそんなに怒っているのか尋ねた。会議室から出ていった彼女に向かって、
「なんでさっきより怒ってるみたいに見えるんだ?」
「別に問題ないわ。で、あなたが聞きたいことって何?」
「じゃあ、どうしてみんな移住してしまったんだ?」
俺は話を遠回しにせず、本題に入った。クティも同じように答えた。
「800年前、世界中に魔力の放射線を遮断する結界が張られたの。今、このフォエニシアを含むいくつかの国では、その結界が時間とともに弱まっているわ。王の公式文書によると、彼らは郊外や未発達な国境地域の結界を切って、領土の深部に結界の力を集中させて持続時間を延ばそうとしているの」
「この結界は誰が作ったんだ?そしてなぜ新しい結界を作らないんだ?」
俺の質問にクティは驚いた表情を見せて答えた。
「それも知らないの?当然神様よ。新しい結界を作れないのは、あれほど広くて強力な結界を作れる人がいないからよ。でも最近、ペンドラゴン帝国が魔法学院の研究で、神様の結界に似た人工結界を85%の精度で成功させたらしいわ」
クティの話を聞いて、神様が俺の思っていたような悪者ではないかもしれないと思った。でも俺はアバンベルンを信じて、さらに探りを入れるために聞いた。
「じゃあ、なんでフォエニシアはその技術を借りないんだ?」
「フォエニシア王国とペンドラゴン帝国は仲の良い国で、パンノニア大陸の北の国境を共有しているわ。でも最近、ペンドラゴン帝国は大司祭のクーデターで混乱しているらしくて、その結界技術を貸す余裕がないみたい」
「最後の質問だ。今飛んでいるオレンジ色の気流は魔力の放射線なのか?それとこの強烈な臭いは何だ?」
「まるで尋問されているみたいな口調ね」
確かに、俺はまるで警察官が容疑者を問い詰めているみたいに質問していた。
「すまない。知らないことが多いから聞かせてくれ」
「はあ…」彼女はため息をついて続けた。
「そう、あなたが見ているオレンジ色の気流は魔力の放射線で、あなたが感じている強烈な臭いは、腐ることのない死体の臭いよ」
俺は目を見開き、その臭いの真実を聞いて気持ち悪くなった。
「なんで死体の臭いがするんだ?そもそも魔力の放射線はどこから来たんだ?」
「あなた、本当に変わってるわね。基本的なことも知らないなんて。はあ…」
クティはまたため息をつき、天井を見つめた。
「これは2000年前の話よ。当時、勇者たちは魔王を倒すことに失敗し、逆に魔王に殺されてしまった。知らせを聞いた時、その勇者に生命の力を授けた神、シフェラが人間や他の種族と共に魔族を永遠に滅ぼすために降臨した。でも残念ながら、その神は魔族の四天王の一人に簡単に殺されてしまった。その頃、人間の皇帝も捕らえられて公開処刑され、人類は降伏し戦いを諦めた。他の種族が魔族の領土拡大を防ごうと抵抗したが、最終的に降伏した。しかしその時、魔王が突然理由もなく死に、唯一の子も謎の死を遂げた。四天王の一人、ガンナーはその機に乗じて魔王となり、彼女を支持する勢力の賛成を得て自らを魔王に据えたが、他の四天王はそれに反対し内部対立が起きたため、魔族は世界征服を一時停止した。彼女は俺の話をじっと見て言った。」
「あなたにだけ話す秘密があるわ」
俺は喉を鳴らし、彼女が続けるのを待った。
「人類も他の種族も魔王を本当に倒せたことは一度もない。勇者はいつも魔王に敗れ、魔王は何か理由があって死ぬだけよ」
「本当に?勇者はそんなに弱いのか?」
俺は無表情のまま言った。彼女は答えた。
「弱いのではなく、魔王が強すぎるのよ」
俺は言葉がなく無表情を続けた。彼女は俺の心を読んだのか、説明を続けた。
「魔力の放射線と死体の臭いは、魔族が世界の1/3を支配してから500年後、支配された種族が魔族の圧政に耐えられず反乱を起こし、支配されなかった種族も参戦し、700年にわたる最も暗い戦争が起きた。その間魔法が大量に使われ、魔力の放射線が生まれ、死体は処理しきれず腐敗して永久に臭いが残っている。私たちは今まさに死体の山の上に座っているのよ」
俺は足元の床を見つめ、心に疑問が浮かんだ。
「じゃあどうしてその戦争は終わったんだ?」
「戦争が終わりに近づいた頃、偉大な賢者が現れた。自らを創造主と名乗り、幸福と平和を約束し、その約束は守られた。魔族は魔力の放射線から守る結界を作り、魔界へ退いた」
「神様は本当に良い人なんだな」
彼女は小さな声で答えた。
「そうね。でも一部の種族にしか良くないわ」
「どういうこと?」
彼女は少し悲しそうに笑って答えた。
「気にしないで。さあ、あなたの番よ」
俺は驚いて言った。
「質問するのか?」
「もちろん。あなたが知りたいことは全部教えたわ」
「いいだろう。聞いてくれ。何も知らないけど」
彼女は可愛い顔を両手で覆った。
「私が紹介した宿は安いと思う?快適?」
「正直、安いかどうかわからない。でも部屋は快適だ」
俺は通貨体系がわからず困惑し、さらに質問した。
「じゃあ貨幣制度を説明してくれ」
「本当に驚かないわね。ここには6つの大陸があり、それぞれ違う通貨を使っている。今いるパンノニアでは100コイン=1シルバー、100シルバー=1ゴールド、100ゴールド=1プラチナ、プラチナが最高価値よ」
「なるほど。じゃあ1週間20コインの部屋は安いんだな」
「そうよ」
「仮の書類作成に15コイン払ったけど、高い?安い?」
俺がそう言うと、クティは驚きの表情で真剣に答えた。
「この町の行政はもう閉まっていて、職員もみんな移住してるはずよ。どこで作ったの?」
俺は驚き、もう一度聞いた。
「え?昼に城壁内で作った。メキラという女性とメリオという兵士が門を守ってたぞ」
「メキラ?メリオ?この町の騎士はもう全員逃げてしまったのに。城壁に入るのは無理なはずだ。どういうこと?」
「知らない」
そう言って俺は急いでギルドを飛び出し、城壁へ向かい愕然とした。
城壁の門も、兵士も、メキラも消えていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます