【自主企画参加用】みんなでリライトしよう♬

バリー・猫山

私の作品

【作品タイトル】

 『昼行燈の無能警邏官は裏の世界で一目置かれる始末屋でした』


【作者】

 バリー・猫山


【作品URL】

 https://kakuyomu.jp/works/16818023211881917847


【該当話直リンク】

第27話 満開の恨み花(5/5) より一部抜粋

https://kakuyomu.jp/works/16818023211881917847/episodes/16818023212842129996



【作者コメント】

 戦闘シーンが主ですが、よろしくおねがいします。

 どんな感じになるかとても楽しみです!


――――

登場人物紹介

・ベルーガ=デクティネ

 本作の主人公。表の顔は昼行燈な無能警邏官。しかし裏の顔は法では裁けぬ悪人を始末する『始末屋』


・カーラ=シェリダン

 始末される悪役。




==▼以下、本文。============


 総隊長ともなると豪勢な屋敷に住むことができるようになる。

 平の警邏官をはるかに凌ぐ給金が支払われるし、何より数多くの付け届けが懐に入ってくる。

 後ろ暗い者達はあらかじめ賄賂を差し出し、お目こぼしを願うのである。

 南地区総隊長、カーラの屋敷も多聞に漏れず豪勢な屋敷だった。

 質素ながらも広い敷地面積を誇り、庭は隅々まで手入れが行き届き、母屋もきれいに掃除がされていた。

 ベルーガは人目につかぬよう、裏門から敷地へ侵入し、静かに庭を突き進む。


「――これは珍しい客だ」


 カーラは庭で花を愛でている最中だった。自宅だというのに帯刀しており、その用心深さがうかがえる。

 静かで穏やかな時間を邪魔されて若干機嫌を悪くしていた。


「お休みの所失礼します。私は警邏隊南第一支部、警邏官のベルーガ・デクティネと」

「知っているよ。やる気もなければ能力もない、無能警邏官の噂は私の耳にまで届いている」


 ベルーガは照れくさそうに頭を掻くもカーラの目は笑っていない。


「その癖、切られそうになった途端に活躍するから切るに切れない。狙ってやっているなら相当に性質が悪い」

「いやぁ……運だけが自慢なもので」


 カーラの冷ややかな視線を受けてもベルーガは怯まない。そういった視線は義母のおかげで慣れっこだ。


「それで、私に何の用かね?」

「いや、一つお聞きしたいことがありましてね」


 ベルーガは昼行燈の仮面を脱ぎ捨て、始末屋としての顔を露にさせる。


「悪事をもみ消してる奴の、その胸の内がどんななのかを」

「……成程。どうやら噂は当てにならないようだ」


 それを見たカーラは全てを察する。

 警邏隊は権力に弱い生き物だ。多くの貴族に忖度し、商人からの付け届けで悪事を揉み消す。

 それゆえに人の恨みを買いやすい。

 警邏隊が腐っているのは今に始まったことではないが、それでも許せない時もあるだろう。


「私を始末したところで何も変わりはしない。私のような人間は掃いて捨てるほどいる。どれだけ君が頑張ろうと堂々巡りさ」


 カーラはゆっくりと刀の柄に手をかける。


「最も、君に私が始末できればの話だがね」


 抜刀し上段で構える。刀身が月光を反射して煌めいている。


「こう見えて私の祖先はサムライでね。君のとは違う、本物のサムライの末裔さ」

「へぇ……だとしたら、あんたのご先祖様は楽園で泣いている事だろうよ」


 ベルーガも応えるように抜刀し下段で構える。


「手前の子孫が、大悪党に成り下がっちまったんだからな」

「……ふふふ。威勢がいいのは嫌いじゃない」


 空気がピンと張り詰める。


「“レッカ”流、免許皆伝の腕前。存分に味わうと良い」


 ひらり、と花弁が舞い落ちる。

 それを合図にカーラが仕掛ける。

 気迫の籠められた上段からの振り下ろし。決まれば一撃必勝の苛烈な攻撃だ。

 ベルーガは滑る様にして初太刀を躱す。だがカーラの攻撃は止まらない。二太刀、三太刀と烈火のごとき猛攻を仕掛ける。

 彼の修めたレッカ流の神髄は“攻め”にある。

 攻めて攻めて攻める。打つべし打つべし打つべし。その思考に攻撃以外の一切は無く、反撃も許さぬ猛攻で相手を攻め落とす。

 愚直であるがゆえに対策が難しい、攻撃は最大の防御を体現した流派だった。


「シァアアッッ!」


 カーラの猛攻は綺麗だった庭を荒らし、綺麗に咲き誇っていた花々が散らされ花弁が吹き荒れる。

 ベルーガは攻撃を紙一重で躱し続ける。

 体の重心をずらすような、独特な歩法で攻撃をいなし――一気に間合いを詰めて刀を振り上げる。

 初めての反撃にカーラは咄嗟にそれを刀で受け、鍔迫り合いに持ち込む。

 レッカ流の神髄は攻め、鍔迫り合いに持ち込まれてもそれは変わらない。

 ベルーガの刀を押し返し、そのまま彼を斬り伏せてしまおうと力が籠められる。


「くっ……!」


 たまらず押し返されたベルーガは体勢を崩す。好機とばかりにカーラは斬りかかるも、間合いを見誤り切っ先が空を切る。


「……?」


 初歩的なミスに戸惑うカーラだったが、その程度で怯む男ではない。すかさず次の太刀を繰り出そうとするも、再び間合いを誤り空ぶる。


「なん、だ……?」


 疲労だろうか? 否、ようやく体が温まってきたところだ。

 こんなにも間合いを見誤ることなど、初心の頃すらなかった。


「――レッカ流免許皆伝か。そいつはすごいな」


 ベルーガは構えを崩さぬままカーラの隙を伺う。


「こう見えて、俺も免許皆伝だぜ」

「……ほう。ただのサムライかぶれではなかったか」


 カーラは余裕を見せつけようとするも、頬を冷や汗が伝うのが分かる。

 ここまで間合いを見誤る原因はベルーガの歩法だ。体の重心が一切ぶれず、滑るような動きのせいで距離感がつかみにくい。

 おまけに攻撃に至る“気”が読めず、いつ仕掛けてくるかすらわからない。

 まるで霞に惑わされているかのような感覚だった。


「どうだい、俺のカスミ流は?」

「! なん、だって……?」


 イーストエンド500年の歴史は決して順風満帆ではない。戦の中で様々な戦法が編み出され、多くが平和の世の中で消え去った。

 ベルーガの修めたカスミ流は戦乱の最中に編み出された流派だ。

 その神髄は――“騙し討ち”

 相手を油断させ、確実に殺しきる。時にセコいとも言われる小細工を弄して相手の命を奪う。

 卑怯、卑劣、不意討ち上等、サムライが最も嫌った流派である。


「勝負ってのは、強い奴が勝つんじゃねぇ――」


 太刀筋が全く読めない。

 カーラのレッカ流はあくまで相手が攻撃に付き合ってくれるからこそ成り立つ猛攻である。

 決して間合に近寄ってくれず、隙を突いて打ち込んでくる。

 レッカ流の強みを完全に潰された立ち回りにカーラはなす術がない。

 そしてその戸惑いは敗北を引き寄せる。


「ウグッ!?」


 間合に潜り込むと同時にベルーガの刀が振り抜かれる。

 隙を突いた動きに反応できず、カーラの脇腹が斬り裂かれる。

 刹那、初めてベルーガから攻撃の“気”が起こった。明確に相手を斬るという意志が初めて生まれたのだ。


「――殺しきった奴が勝つんだ」


 刀が素早く振り下ろされる。ちょうど、振り向いて迎撃しようとしたカーラの急所が斬り裂かれた形となる。


「胸の内なんざ聞くまでも無かったぜ。いつも通りの腐れ野郎か」


 崩れ落ちるカーラを皮肉る様に鼻で笑うと、ベルーガは血振るいし納刀。

 静かにその場を去っていくのだった。

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