第1話:皇楽聖律団”第8番隊”ですっ!

面接の日からしばらくたった、ある日のこと。

カノンはその日、のんびりと、何をするでもなくぐっすりと眠っていた。

そんな時。

「カノン、カノン!カノン宛ての手紙が届いたよ!」

その声で、カノンはハッと目覚めた。

「ほ、ほんと!?お母さん、はやくちょうだい!」

ダダダっとベッドから転げるようにして降り、お母さんから手紙を受け取る。差出人は、”オクターヴ皇国立皇楽聖律団”だ。

「わ、わーっ・・・とうとう来ちゃった・・・よ、よーし、読むぞー・・・」



「カノン・パッヘルベル。

あなたは実技テスト、面接、そのどちらにおいても優秀な成績を残し、我ら皇楽聖律団にとって実に将来性のあるものと判断しました。つきましては、皇楽聖律団の入団テストは合格ということで、明日の12時、皇楽聖律団本部に来ていただけますよう、よろしくお願いします。」



「・・・・・・はぁーーーっ!!お母さん!合格、合格だよ!」

「あぁ、よかったぁ。私も心配してたんだよ、さ、はやくお父さんにも報告しておいで。」

「うん!」

そう言ってカノンは、手紙を手に家のドアを開けて、裏庭へと向かった。

そこには、ひとつの墓石がある。墓石には父の名、”ファター・パッヘルベル”が刻まれている。

カノンはその墓の前で、手紙を広げて言った。

「ねえ、お父さん!私、皇楽聖律団に合格したんだよ!あの日見た煌びやかな音楽隊のメンバーになれたんだ!夢、叶っちゃった!」

少し興奮ぎみにそう墓に向かって話すが、次第にその語勢は落ち着いて行った。

「・・・ねえ、見えてるかな?お父さん。お父さんは今、もう遠い遠いお星さまになっちゃったんだよね。きっと、お父さんもあの日見た煌びやかな楽隊の様に輝いてるんだと思う。けどね、私、絶対誰よりも輝く楽隊員になる。・・・そうあの日、決めたから。だから、何があっても頑張るね。・・・見ててね、お父さん。」


それから、次の日。


「つ、着いたー・・・。ここが、ここが・・・!」

オクターヴ皇国、その中央に位置する大きく荘厳な建物の前に、カノンは居た。

「ここが、皇楽聖律団本部・・・!」

色とりどりの制服を着た何人もの団員が、開かれた大きな門と戸を出入りするのが見える。その中には、カノンと同じく新しく入団するであろう私服の人もうかがえた。

「ここで私、頑張るんだ・・・!えっと、手紙に同封されてた地図によるとー・・・”第8控室”に向かえばいいのかな・・・?」

カノンは恐る恐る、大きな戸をくぐり、中へと入って行った。


途中、何度か迷いそうになったが、制服を着たいわゆる先輩たちに道を尋ねながら、ようやくくだんの第8控室へとたどり着いた。

「ここで、私の夢が叶う・・・」

そう小さくドアの前で呟くと、力に任せて一気にドアを開いた。

「あ、あのっ!」

カノンが部屋の中を見ると、既に4人来ていたのだろうか、その全員がジッとカノンを見る。

「え、えーと!私、新しく入団することになった・・・」

「カノン・パッヘルベル。勿論わかるよ。新しい隊に入隊する子で来ていない子は君が最後だ。」

そう言ったのは、奥にあるデスクに肘をつき手を合わせて椅子に座る制服を着た男性だった。

「え、え!えっと!ち、遅刻してすみません!」

「いや、遅刻ってほどでもないさ。初めて来たんだもんね。そりゃ迷うさ。・・・よし、じゃあ全員揃ったことだし、始めようか!」

男はそう言って立ち上がる。他の3人もソファに座ったまま、カノンを待っているようだった。・・・よく見ると、その中の1人に見覚えがある。

面接が終わった後に話しかけてきた、アンナ・シチェドリンだ。

アンナはカノンにだけ見えるように、まるで”ほらね”とでも言わんばかりのピースサインを見せた。


カノンがアンナを見つけ、横に座る。アンナの顔は笑顔で溢れていた。

制服を着た男が、話し始める。

「はじめまして、みんな。僕の名前は”リスト・ラ・カンパネラ”。君たちの直属の上司だ。というのも、皇楽聖律団では、1から数百までの楽隊を擁している。君たちはその中の1つ、”第8番隊”に所属する事になるんだ。数字が若いから覚えやすいだろ?まぁ、これから気楽に、やっていこうね。それじゃあひとりづつ、自己紹介から始めようか。じゃあ、最初に来た君から。」

と、リストは青年を指さした。青年は気だるげに答える。

「俺は・・・俺の名はジャン。”ジャン・フィンランディア”。ここで担当する楽器はトランペットとかの金管楽器。・・・よろしく頼む。」

ジャンの自己紹介が終わるとアンナがパチパチと手を叩いた。つられて、カノンもちいさく手を叩く。

「じゃあ、次は君ね。」

と、リストが指をさす。今度はカノンやアンナ、ジャンよりもひとまわりほど小さな少年だ。

「え、えっと、ぼくは”ロベルト・トロイメライ”っていいます・・・あ、えっと、担当楽器は打楽器を・・・あ、えと、よろしくお願いします!」

アンナがまた手を叩く。そうしてリストが「次に・・・」と言い始めた時、アンナがすわっと立ち上がった。

「はーい!次アタシの番!アタシはアンナ!”アンナ・シチェドリン”ね!生まれはモノフォニア連邦の田舎村、担当楽器はピアノとかでーす!あ、そうそう、さっきの2人は言ってなかったけど、アタシ17歳ね!」

「えっ?」

と、カノンが小さく声を漏らす。まさか、自分と同じくらいだと思ってた人が、ひとつ年上だったとは。

「うん。元気がよくてとても結構。じゃあ最後、遅れてやってきた君だね。」

リストは落ち着いてそう言った。カノンは緊張しながら、立ち上がって話始めた。

「え、えーと、私、”カノン・パッヘルベル”です。担当・・・というか専門の楽器はバイオリンとかの弦楽器で、歳は16です。よろしくお願いします。」

カノンの自己紹介が終わると、またアンナが元気よく手を叩いた。その後に、

「これで全員の自己紹介が終わったね。」

と、リストがまとめた。


「ホントは皇楽聖律団のトップの人とかにあいさつ回りしなきゃいけないんだけどね。トップの命令で、そんなあいさつ回りよりも隊の親交を深める方が大事だ、ってので、こうやって集まってるわけだけど・・・まぁ、いくつか伝えなきゃいけない大切なこともあるし。」

「伝えなきゃいけないことって何です?」

アンナが言った。それを少し抑える様に、リストは話す。

「まあ、落ち着いて聞いてよ。えっとね、第8番隊のリーダーのことなんだけど。ウチのリーダーは同僚とかと話し合った結果、カノンちゃんに決まったんだ。」

「・・・え?」

カノンが目を丸くする。

「いやー、ホントはジャン君になる予定だったんだけどね。この中じゃ年長者だし。でも僕は、カノンちゃんの名前と経歴を見て、あ、これは若い才能を育て上げるべきだな、と思ったわけだ。」

「経歴・・・?」

ジャンが呟いてカノンを見る。

「カノンだっけか。お前、どこの学校出身なんだ?」

「あ、えっと・・・皇国立プレリュード音楽院で・・・」

「えぇ!?」

それを聴いた途端、アンナが驚きの声をあげる。

「あ、あのプレリュード音楽院!?毎年受験生が多くって、それでも門は狭くて、倍率も高いエリート校じゃん!カノンってばすごいんだね!」

「い、いや、それほどでも・・・」

カノンは少し照れ笑いをする。それを見るジャンは、少し煙たげだが。


「で、もうひとつ。ウチの活動方針だけど、しばらくは僕の指示に従って動いてもらおうかな。結構仕事の依頼も多くてね。他の隊がこなせない仕事なんかも回って来てるから、楽しみにしておいてよ~?」

と、リストはにやにや笑った。

「え、えっと、その、初仕事って、いつになるんですかね・・・?」

これまで静かだったロベルトがリストにそうたずねた。

「うん、一応明日を予定してるよ。急な話になって悪いけどね。それで、今後の寝泊まりなんだけど、この控室がある棟の裏に寮棟りょうとうがある。そこの第8部屋を使ってくれ。あ、あとそれぞれの制服なんかも、今はそこに置いてあるから、後で確認して、着てみるなりしてみるといい。・・・今伝えることはそれぐらいかな。じゃ、一応この後は自由行動ってことで!僕も仕事があるんでね。そんじゃね~。」

リストはそう言って部屋を去って行った。控室を静寂が包む。

「・・・と、とりあえず、向かいますか?寮棟の第8部屋。」

カノンがそう言った。アンナが「うんうん!」とうなずき、ロベルトとジャンも静かにうなずいた。


そうして一同は、第8部屋を目指すこととなった。

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