【 リライト】『夢のフィールド』「第21話 雨上がりのデート」

【作品タイトル】『夢のフィールド』

【作者】三杉 令 さん

【作品URL】https://kakuyomu.jp/works/16818622174199934330

【原文直リンク】第21話 雨上がりのデート の一部https://kakuyomu.jp/works/16818622176276612913/episodes/16818622176277037168

【リライト者コメント】

 むむ、恋愛ものですか……。カクヨム甲子園に向けての肩慣らし(サボりまくっていたものが何を言っているのやら)も兼ねまして甘くなりすぎないように頑張ってみます!

 どうか、解釈違いはご勘弁でお願いします。


◇◆◇

 僕が担当できる最後の日はあいにくの小雨だった。けれども僕はどこか落ち着かなくて、レブル250のストッパーを蹴り上げてエンジンを震わせた。

 家から公園までの距離は長いなりにも、もう慣れてきた。それなのにいつもよりもその道のりが長く思えるのは天気のせいか、このはやる気持ちのせいか。誰もいなければそのまま帰ろうと公園の前の曲がり角に差し掛かった時、小さな藪からサッカーボールが覗いて見えた。

 僕の期待はいい意味で裏切られて、バイクの排気音に気が付いた明日香がフルフェイスを外す僕へジャンプしながら手を振ってくれた。


(可愛い奴だ)


 僕は思わず微笑みながら明日香の方へ近づいていく。あたりを見渡してみても彼女以外は見つけられなかった。


「雨なのに来てるの?」

「はい。だって柊さん今日が最後でしょ?」

「まあ滞在はそうだけど、来週以降も月に何回か会いに来るからね」

「やった!」


 明日香はまた、僕の前でぴょんぴょんと跳ねる。同時、彼女の練習着の裾から水しぶきが飛んだのを僕は見逃さなかった。


 いけない、これでは風邪をひく。


 柊は明日香の少し濡れた頭をポンポンと叩くと優しく言った。


「雨がパラついているから、今日はサッカーは止めような」

「でも……」


 明日香は少ししょんぼりした表情になった。……そっか、でもたまには息も抜かないと。

 僕は入り口に停めていたバイクへ戻って、その後部座席に手を伸ばす。


「ほら、これかぶりな」


 僕はバイクの後部座席に括り付けておいたフルフェイスをぽわんと明日香へ投げた。

 そしてそれはマイクとカメラで無駄に鍛えた腕力で力んだか、ほんの少しゆがんだ放物線を描いて明日香の頭上に飛んだ。


「ふふ、へったくそー」


 明日香がヘディングを決める要領で高く飛んで、パシッと華麗にフルフェイスを受け止めてから、僕を小馬鹿にするようにへっ笑った。

 僕はそれに負けないくらい不敵に笑って、彼女を手招く。


「隣町のショッピングモールに遊びに行こう。映画でも見ない?」

 

 十数歩離れた先で、明日香は棒の様に突っ立ったまま、きょとんとしていた。まるで僕が摩訶不思議なことを言ったかのように。


「え? 連れていってくれるんですか?」

「ああ、君のお母さんにも言ってある。夏休み最後だから少しはサッカー以外のことも楽しもうよ。どう? 行く?」

「嬉しい! 行きます!」


 「お母さん」の言葉が出たとたんに明日香は笑って僕の方へ走ってくる。

 はは、本当に可愛い奴め。

 僕はジップロックの中に入れておいたタオルとカイロを彼女に手渡した。


 信号に引っかかったり、道を間違えたりで隣町に行くのに30分もかかった。もっとも、明日香が初めてのフルフェイスに騒いでいたり、バイクの生で速さを感じる感覚に叫び声をかみ殺していたりと後ろが賑やかで、僕は全く退屈しなかったけれど。


「バイクって気持ちいいですね!」

「まあね、寒くはなかった?」

「はい!」

「じゃあ良しとしよう」


 僕は濡れたウインドブレーカーを脱いで水を切った。明日香はむしろバイクが切った風を受けて髪の毛の先が乾いている。街中では雨も上がったようで辺りはキラキラ輝いていた。


「柊さん、あっち見て! 虹!」

「本当だ、綺麗だね」


 僕たちは約束通り、明日香が選んだ恋愛映画を観ることにした。小学生にはちょっと早いのではないかと僕は思ったのだけれど、明日香は「これがいい!」と言って譲らなかったのだから仕方ない。

 二人でポップコーンとジュースを買って、来場者の列に並ぶ。あんなにサッカーにはストイックなくせしてポップコーンはキャラメル味、ジュースは甘ーいサイダーを選んでいたのが微笑ましかった。

 彼女だって、いっぱしの小学生なのだ。


 映画の中では南の島が出てきた。女性がビーチで青く美しい海を見ながら彼氏を待つシーンが流れた。ふと明日香を見ると目を見開いて食い入るように見つめている。

 全く、やっぱり早かったんじゃないか。僕は彼女に見えないようにこっそり微笑んだ。


「柊さん! 私、やっぱり外国に行きたい! 英語とかたくさん覚えるね!」


 映画を観終わった後、興奮した面持ちで明日香が宣言した。


「あのリゾートは本当に行きたくなるよね。アフリカの近くだったっけ」

「うん。将来あそこには絶対に行くから! あんな夢の様な場所があるんだね!」

「サッカーやりたい子供はいるかな? 観光客だらけのような気もするけど」

「絶対いるよ! あういうビーチには可愛い子供が似合うし!」

「だといいいね」 


 映画の中で「やっぱり早かった」なんていうことを考えていた自分が恥ずかしくなった。僕はこんな純粋な女の子に何を……。

 僕たちはちょっとしたショッピングをしたりクレープを食べたり、最初で最後になるかもしれないデートを楽しんだ。


「柊さん、会うのは月一とかでもいいけど、連絡はまめに取り合おうね」

「ああ、疑問とかあったらいつでも連絡して」

「するする! 柊さんも何か新しいサッカー情報あったら送ってね」


 別れ際、明日香はやっぱり明日香だった。サッカーが大好きで、ちょっぴりお茶目な可愛い奴。

 僕はこっそり、週末の時間が取れるときには明日香に会いに来ようと、硬く決心するのだった。

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