探偵役は事件前からすべてを知っている……!

 探偵事務所を経営する夜加部ロウ。彼には人の「役割」を見ることのできる特殊な力があった。そんな彼と助手の日裏みみこは道に迷った末に、あるペンションを訪れる。すると、宿泊客の中に【被害者】と【犯人】の文字が浮かび上がっているのを発見してしまい……。

 一目で誰が犯人がわかるという破格の能力を持つ夜加部だが、決められた役割を覆すことはできないし、仕掛けられたトリックの内容まではわからない。決して万能な力ではないのだ。しかし、あらかじめ犯人がわかっていることを利用して、事件の発生前に解決への布石を打つという独自のスタイルは実にユニーク。

 会話文が多めでテンポよく進む推理パートは読みやすく、犯人が用意したアリバイを崩す手つきも実に鮮やかと、この時点でミステリーとしてよくできているのだが、本作はそこに「役割」を利用したギミックがさらに魅力を上乗せしていく。

 終盤で「役割」に関する意外な真実が次々に明かされ、物語は二転三転する。独自の設定をフル活用する稚気に富んだ内容でいながら、きっちりとどんでん返しも決めてくれる、特殊設定好きなミステリファン垂涎の一作。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

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