ひきこもり妄想野郎はNPCに恋をする!〜フルダイブ型VR MMORPG -β版-のテスターに選ばれた男の英雄冒険譚〜
ろきそダあきね
第1話 ご当選おめでとうございます
『ご当選おめでとうございます。貴方様は《
斗真はモニターを見つめたまま、眉をひそめた。
「……はい?なんのこっちゃ。」
宛名は【Shingen Interactive】。言わずと知れた超有名ゲーム会社だ。
当然、スパムメールではないはず。安心してクリックした瞬間——内容を読んだ斗真の顔が固まった。
「βテスターに当選しました——?」
そんな覚えは……ない。申し込んだ記憶もなければ、応募した形跡すらない。
むしろ今までの人生で「当選」という響きに縁すらない。
机をコンコンと指先で叩きながら考え込む。だが、答えは出ない。
誰もいない部屋で、気づけば斗真はつぶやいていた。
「……おおっと、これはまさかの異世界召喚フラグ?」
もちろん、PCの画面が異世界の扉に変わることはなかった。
だが、斗真の脳内ではすでに壮大な妄想が展開されている——。
➖➖妄想➖➖
「ふぅ、これですべてのモンスターは一掃出来たかな?お嬢さん。怪我はないかい?」
「あ、あなたは……?」
「俺は斗真……しがない冒険者さ。」
「斗…真…さま。素敵!あなたの強さはまるで王国騎士様のようです!」
「ふっ……王国騎士か……それもいいかもな。だが、どうせなら君だけの騎士になりたいな。」
「えっ?わたしなんて、そんな——」
「そんな君がいいのさ!」
「——わたし、そんなこと言われたの初めてです。」
「そう?じゃあ、君の初めて……全部、僕のものだね!」
キュン♡
「斗真さま……」
「お嬢さん……」
んむぅ〜♡
➖➖➖➖
ガチャッ。
扉が開く。
「うっわぁ、なにその顔……とそれに……。」
——現実世界へ強制帰還。
二つ下の妹、
自分の姿を確認すると——何故か自らをハグしている。ちょっとモミモミとしていたかもしれない。
「――おまっ!!これは違う!一人で変なことしていたわけじゃなく――ってノックぐらいしろ!」
斗真は反射的に叫んだが、すでに手遅れ。
結月はすでに、へぇ〜、ふぅ〜ん、みたいな顔で見ていた。
「ハァ……相変わらずキモいんだけど。で、どうだった?」
「はぁ?どうってお前……まだキスもしてなかった――」
「――バカ!テスターよ!テスター!ウチが応募してあげたやつ!メール来てない?」
斗真は一瞬、理解が追いつかなかった……が――。
「――なっ!お前か!?勝手に俺の名前とアドレスを使ったのは!?」
「そうよ。まぁ、どうせ当たんないだろうけど……結果来てるでしょ。《
斗真は画面をもう一度確認する。確かメールには「当選」の文字が踊っていたはず……。
「ああ……なんか当選って書いてあるぞ。」
「――えぇぇぇ!!当選!?」
次の瞬間、結月が斗真の頭を押しつけるようにPCを覗き込んできた。
「い、痛い……コイツ……兄への敬意がなっとらん……!」
「ウソ、マジで!?ヤバい……ヤバいよ!おにぃちゃん!ううん、ごみぃちゃん!」
「いや、言い直したほうが間違ってるから。」
「もぉ〜!うるさいなぁ、オ⚪︎ニーちゃん!」
「――うぉい!それだけはやめて――さっきもそんな事してたわけじゃないからな!ってお前、そんなこと言って恥ずかしくないのか!?このエロ娘!」
「――誰が、エロ娘ってぇ!バカ、アホ、ブス、ウザい、キモい!」
こいつ、兄に対する遠慮ってものを知らないのか?
そして、ブスはやめて。ガチで傷つく。
……そんな心の叫びはさておき、一通り罵倒を浴びせたことで結月は落ち着きを取り戻したらしい。
そして、いつものように話題を切り替えた。
「あのね、おにぃちゃんが《
「へぇ〜。……は?」
「は?じゃないよ!マジでヤバいんだよ!SNSでも今のところ当選した人って見てないよ!」
突然のテンション爆上げ。なんだこの熱量。
「これの凄いところが、フルダイブ型のVR MMOで、VRヘッドギアとテスラスーツが脳波コントロール技術と触覚フィードバック技術を駆使して――」
「うぉい!ちょっと待て!」
「は?なに?」
結月の怒涛の会話を制止させた斗真は、睨まれながらも考え込む。
結月が根っからのゲームオタクなのは知ってるが、斗真はせいぜい「そこそこゲームをする程度」。
……でも、テスターって結構ヤバいんじゃないか?
1:バグ発見 → 「予期せぬ挙動や不具合を見つけて報告する。」
2:動作検証 → 「ゲームがスムーズに動くか、プレイにストレスがないか確認する。」
3:プレイヤー視点の評価→ 「操作感やゲームの難易度など、ユーザー目線でチェックする。」
特にβ版のテスターは、開発者が気づかない問題を発見する貴重な存在。
例えば——
『このスキル、強すぎてゲームバランス崩壊してる!』
『このダンジョン、難しすぎて誰もクリアできない!』
『NPCのセリフがバグって、ずっと『こんにちは』しか言わない!』
こういう問題を事前に見つけて修正することで、正式版の完成度がグッと上がるわけで——。
「うん、無理!」
静かな部屋に斗真の言葉が響いた。
「はぁぁぁ!?」
その瞬間、結月が再び全力で噴火した。机が揺れるほどの勢いだ。だが、斗真の心は微動だにしない。
「俺は、まあ自慢じゃないけど、そんな責任重大なポジションに向いてる人間じゃない!」
結月は眉間に深い皺を刻みながら、バンッと机を叩いた。
「――バカじゃない!あの『Shingen Interactive』からの依頼なのよ!?ただでさえ何の役にも立ってないのに、こんなチャンスを棒に振るなんて信じられない!ほんとバカ!」
「いや……バカ言いすぎ……。それに俺、あんまり詳しくないし……。」
「きっとそういう、ど素人の意見が欲しいのよ!いちおう、おにぃちゃんの履歴書も送ってるし、条件が合ったんじゃない?」
斗真は一瞬、聞き間違いかと疑ったが、妹の表情を見る限り、どうやら本気らしい。
「――おまっ!勝手に……履歴書は恥ずかしいって。」
「でしょうね。十七歳で友達ができずにひきこもりって。」
「――バカ、お前!逆だ逆。引きこもってるから友達がいないんだ。勘違いするなよ!」
「…… 一緒じゃない。」
斗真は頭を抱えた。妹に言い負かされるのはいつものことだが、これは……。
「とにかく、断ったら兄妹の縁切るから!必ず行くこと!わかった!?」
「……はい。」
まるで運命を決めるかのような空気の中、斗真は力なく返事をした。どうやら選択肢はなさそうだ——。
※※※
斗真は硬い表情で説明を聞いていた。
「――という感じで、事前に申し上げた通り約ニ週間ほどかけて行わせていただきますので、よろしくお願いします。」
『Shingen Interactive』本社開発部。やることはシンプルだ。一度のダイブで最大12時間、週5日。
10日間稼働。それが課せられた試練だった。土日は休みだが、引きこもりな俺にとってはブラック感満載だ。
さらに仮想現実では体感時間が10倍になるため、12時間のプレイが向こうでは5日間の感覚。
つまり、10回のダイブで約7週間を過ごすことになる。ただし、大きなイベントをクリアすると、一時帰還が義務付けられているらしい。
「……まあ、運営の指示通りってことでいいか。」
細かい数字を並べられても、実感が湧かない。とりあえず遊べるなら問題はない。
白いテスラスーツを着込み、カプセル型のリクライニングに横たわる。VRヘッドギアを装着すると、スタッフの声が聞こえた。
「では、良いトリップを。」
その瞬間、意識が暗闇へ沈み込んだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
【仮想現実ラビスへようこそ。さあ、冒険の始まりです。世界に散らばるオーパーツを探し出し、メガラニカを目指そう!】
メガラニカ?……何のことだ。
しかし、β版という肩書が警戒心を緩める。あれこれ気にするより、自由に遊ぶほうが楽しそうだ。
【アバターと職業はAIが自動で適正を割り当てます。】
「えっ!?勝手に決まるのか!?イケメン騎士になりたかったのに……。」
【ガチャを回してください。一人につき一つずつ『スキル』と『加護』が与えられます。生涯一つずつしか持つことができません。変更もできません。】
「……おぉ!?これはめちゃくちゃ重要なやつじゃん!変なスキルだったらリセマラしたいんだけど……。」
覚悟を決めてボタンを押す。
【『スキル→妄想 lv MAX』『加護→
「……は?」
頭が真っ白になった。
【『妄想→ことあるごとに妄想する性癖』です。】
「いや、意味が分からん!戦闘に全然関係ないんだけど!?」
絶望を振り払うように、もう一つの加護に目を向ける。
【『稀血→血液にマナが含まれており、血を流すとモンスターを引きつける』レベルが上がるほど引きつけます。】
「……待て、待て待て待て!強そうな名前だったのに、めちゃくちゃデメリットしかないじゃん!?戦えないのに敵が寄ってくるって、どう考えても即死コースだろ!」
【死亡すると二度と同じアバターには戻れません。持ち物は全部ロスト、人間関係もリセットして別のアバターでのスタートとなります。】
「いや、これハードすぎるだろ!!」
【現在のモードは『パーマデスモード』です。身体的なレベルも存在しません。現実世界と同じく鍛えれば鍛えるだけ強くなります。では仮想現実ラビスをお楽しみください。】
斗真はVRの中で空を仰いだ。
「……いや、鬼かよ。」
★アバター名『セブン・ウィークス』
職業:旅人(フェンサー)
スキル『妄想 lv MAX』
加護『稀血 lv5』
【Trip Shift initiated!】
ここは『始まりの街・ルーメリア』。
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