バカ主の兄とその執事


 とある貴族の屋敷。そこには優秀な兄と落ちこぼれの弟がいました。

 兄は幼少期から様々な功績を残し、家の者として数々の期待に応えていました。弟はそんな兄と比較され日々苦しんでいました。

 時刻は3時。おやつの時間だ、この国に住むものなら誰でも休む。兄は執事と自室でホットミルクを片手にクッキーを嗜んでいた。


「執事」

「はい。なんでございましょうか、坊ちゃま」

「このクソ甘いホットミルクは誰がいれたんだ?」

「弟様でございます」

「そうか……」


 手に持っていたホットミルクをグイッと飲み干す。

 甘い、甘すぎるが……。


「丁度いい甘さだったな」

「坊ちゃま、先程と言ってることが違っております」

「黙れ、クビにするぞ」

「横暴過ぎでございます。お父上に報告いたしますよ」

「それを父上が信じるとでも?」


 平然とした顔で坊ちゃまが答える。

 民間企業なら裁判物ですが、ここは貴族の屋敷。貴族の権力を使えば簡単にもみ消される。わたくしは使える主を間違えたのでしょうか。


「ところで執事、一つ相談なのだが」

「何ですございましょうか、クソガ……坊ちゃま」

「今、クソガキって言ったか?」

「いえ、めっそうにもございません。きっと坊ちゃまの耳の奥にどでかいミミクソの塊がございますのでしょう」

「喧嘩売ってる?」

「それで相談と言うのは」


 いまいち会話が噛み合ってない気がするが、どうでもいいか。


「重要な相談だ。誰にも言うなよ」

「かしこまりました」


 坊ちゃまがかしこまっていると言うことは余程重要な事なのでしょう。

 ここは順々なる召使いとして給料……評価をあげねば!。


「どうすれば弟に好かれるか教えてくれ」

「わたくしの力では無理でございます。ご自分でお考え下さい、坊ちゃま」

「返答するまでが速すぎるぞ執事、クビにするぞ」

「理不尽でございます」


 首にされると言われても実際問題難しいのには変わらない。

 なぜなら、主である兄の貴方の功績が大きいから。


「そもそも、坊ちゃまの功績が凄すぎて弟様が嫉妬しているんですよ」

「バカを言え。俺がやった事と言えばせいぜい、家の金を100倍に増やした程度だ」

「それでございます、バカ坊ちゃま」

「でも、俺の弟は天才なんだぞ。こないだなんて似顔絵を描いてくれたし」


 そう言って坊ちゃまが取り出した紙には写真の隣に赤文字で「クソ兄貴殺す」と書かれている。


「目が節穴なんですか。どう見たって写真ですし殺意の塊でしょう、その呪物」

「お前今、呪物って言ったか?」

「どう見たってそうでしょう」

「ふざけるな、どう見たって尊敬する兄に送る立派な似顔絵だろ!」

「ならよかったじゃないですか、弟様に好かれている証拠ですよ」

「違う、違うんだよ……」


 頭を抱える。執事の言う通り初めは呪物と思っていたが見ていると段々可愛く思えてきたんだ、その夢を壊すな。


「…………」


 え、なんか、坊ちゃまガチで落ち込んでね?もしかして本気でクビになる感じ?。

 ちょ、ちょっと、それだけは全力で回避しないと……!。


「坊ちゃま、遊びに誘うと言うのはどうでしょうか」

「今、社交界のダンス行ってるよ……」

「わたくしの方であのバカメイドに言っておきますので、ね」

「……わかった、そっちは執事に任せておくとしよう」


 ふぅ、どうやら機嫌は元に戻ったようですね。


「それでは、この後の予定にある会合の準備をしてください。わたくしは車の手配をして参りますので」

「ああ、それと執事の給料カットな」

「……は?」

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