100万回捕まった最弱の怪盗が異世界に転生したら無双過ぎて国まで盗むことになった?
イングリッシュティーチャー翔
第1話:100万回捕まった男
パシャッ、パシャッ……
カメラのフラッシュが、まるで雷のように鳴り響く。
「ただいまー。はい、記念すべき100万回目のご逮捕、ありがとさん」
両手に手錠をかけられた男が、にやりと笑った。痩せ型でやや猫背。髪は少しボサついているが、どこか整っていて清潔感がある。白いシャツに、黒いジャケット。だが、手首にはピカピカの銀色のアクセサリー──警察製。
名を、レオン。
それは皮肉でも、比喩でもない。事実として、彼は“100万回”捕まっている。
「バカな……この男、また……!」
「伝説だな。あんなにドジなのに、なぜか毎回話題になる……」
報道陣も呆れ気味だ。SNSは「またアイツかよw」「もはや文化財」と騒然。
だが、警視庁の一室だけは静まり返っていた。
取調室。そこに座るレオンと、向かいの椅子には、疲れ切った中年刑事が座っていた。
「また、お前か……レオン」
「よう、根津さん。今回で30万回目の取り調べ、一緒に祝おうぜ?」
刑事・根津は、長い付き合いのレオンにため息を吐く。
何度も同じやり取りをしてきた。それでも、彼の言葉には、なぜか憎めない味がある。
「何が目的なんだ? 毎回ヘマして捕まって……何を盗もうとしてる?」
「そうだなあ……“笑顔”とか、“退屈”とか、“つまんない空気”とか? 盗まれて嬉しいモノもあるって、知ってたか?」
「……お前なぁ」
根津は頭を抱えながらも、どこかで口元を緩めた。
それがレオンという男だった。どこまでも軽口、どこまでも本気の“ふざけた人間”。
取調室に小さな沈黙が生まれたときだった。
──ピィ……ン……
電子音のような、どこか異質な音が鳴る。天井の照明が明滅したかと思うと、突然、部屋全体が青白い光に包まれた。
「っ……! なんだ、地震か!?」
「いや……違う、なんか来るぞ!?」
バチバチとスパークする空間の中で、レオンの体が浮かび始める。
彼の周囲だけが光に吸い込まれ、異常な現象が起こっていた。
そして、声が響いた。
《異世界適合者、確認。ユニークスキル“怪盗紋章”を授与。転送を開始します》
「……え? なに? 俺、ついに神に選ばれた? いやいや、ちょ、待──」
レオンの姿は、まばゆい光の中に消えていった。
その直後、取調室に静寂が戻る。根津は無言で天井を見つめていた。
「……ったく、最後までふざけたヤツだ。次は何を盗む気だ、あいつは……」
どこか、嬉しそうなような、呆れたような──
そんな表情で、刑事は机の上にレオンの100万回目の調書を置いた。
⸻
そして世界は変わる。
気づけば、レオンは草原の上で目を覚ました。
空は高く、風は甘く、遠くには空に浮かぶ城と、翼を持ったドラゴンが飛んでいた。
「……ここどこ? 警視庁って、草原に移転したの?」
そう呟いたレオンの胸には、赤く輝く刻印が浮かんでいた。
だが、その能力は──もう、彼のものではなかった。
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