最終章:この悲しみが僕への罰だったとしても
春の終わりが、少しずつ近づいていた。
制服の襟元が、肌にぬるくまとわりつく季節。
校舎の屋上から見える街並みは、
何も変わっていないようでいて、確実に、少しずつ変わっていく。
俺は今日も、ノートを持って屋上に上がった。
風が少し強い。ページがふわりとめくれる。
書きかけのページには、途中で止まったままの言葉があった。
“あのとき、君が言いたかったことを、俺はまだ全部知らない。”
真尋の最後の言葉を、俺は知らない。
けれど、その沈黙の向こうにあった気持ちを、
今なら少しだけ、想像できる気がしていた。
「愛してる、って……君は言おうとしたのかもしれないな」
言葉にしてみると、思っていたより、柔らかかった。
胸が痛む。でも、もう涙は出なかった。
真尋。
もし、君がほんとうにあのとき、
俺に最後の声を届けようとしてくれていたのだとしたら――
俺は、その想いをずっと持って、生きていくよ。
この悲しみが、もし俺への罰だったとしても、
それで構わないと思えるようになった。
だって俺は、君を愛していた。
心の底から、どうしようもなく。
君を失った痛みは、今も生々しくて、
時折、どうしようもなく孤独に襲われる。
でも、君を忘れずにいることが、
俺の生き方を変えた。
君がいた世界を、君のいない世界として受け入れること。
それが、こんなにも苦しくて、それでも希望になるなんて、
知らなかった。
ノートを閉じる。
風が止み、空の色が変わる。
また春が来るだろう。
君のいない春が、何度でも。
でも俺は、それでも歩いていく。
この悲しみが僕への罰だったとしても、
君を愛した証として、俺はそれを受け入れたい。
そしていつか、
胸を張って、誰かに言える日が来るだろう。
「彼女は、俺の大切な人でした」
と。
『この悲しみが僕への罰だったとしても』 漣 @mantonyao
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