第14話 うしろ姿の遠くなりゆく

さっきまで体育館の向こう側で部活をしていたはずなのに、いったいいつこっち側に来たんだろう。


「ところで、書道部さんは、なんでダンスの練習なんかしてんの?」


気づけばチカが隣に座っている。しかし、疲れすぎて横に動く余裕もない。


「8月に書道パフォーマンス大会があるの。それの練習」


「あ、知ってる。それって、着物とか着てデカい筆で字書く奴だろ?」


「着物…あーまぁ、袴とか着てるのもあるね」


「くるみ、踊れんの?」


少しずつ呼吸が落ち着いてくると、チカの体が近いことが気になる。


「全然…壊滅的。体力無さ過ぎてヤバいと思う」


笑いながら手に持ってたタオルで仰いでくれている。


「週末とか走れば?あー急に走るとダメだよな。ウォーキングとか?」


確かに、歩くとこから始めないと。


「…ホントだよね。週末、河川敷歩こうかな」


「おーそうしろ、そうしろ。なんだったら、うちのコロをお供に貸すよ」


コロ!懐かしい。そういえば、小学校4年の時に、一緒に学校帰りに見つけたんだった。


「コロ、今いくつだっけ。6歳?」


「長いこと会ってないだろ?母さんとユウにも言っておくし、マジでコロと散歩すれば?」


確かに、久しぶりに会いたいかもしれない。しかし、家までウォーキングの為に犬を借りに行くほど親しくして良いものか…


「ちょっと、チカ!見つけた。先輩が探してたよ。サボってちゃダメじゃん」


どう返事をしようか考えていたら、佐奈ちゃんの声が後ろから降ってきた。


「あ、隣のクラスの…高梨さん、だっけ?なんか大事な話でもしてた?」


佐奈ちゃんは、めちゃくちゃ可愛く笑っている...けど、なんか、ちょっと、言葉に棘ある?いや、気のせいか。疲れてて頭が働いてない。


「あ...別に大事な話、じゃないよ...」


モソモソと答えると、佐奈ちゃんは「だったら。ほら、チカ、行くよ。休憩の邪魔になってるから。ね、高梨さん?」そう言ってチカの腕を引いて立たせようとする。


「わかったから。行くから」


チカは、ため息を一つ吐いて、しょうがないな、というように立ち上がって、「じゃぁな、くるみ。コロの散歩の件マジで考えといて」と言って体育館のコートの方へと、佐奈ちゃんに腕を引かれていった。


佐奈ちゃんと腕を組んで、去って行くチカの後ろ姿をぼんやり見つめる。


息は落ち着いてきたはずなのに、動悸が半端ない。


コロの散歩はまぁおいといて、ホントに基礎体力つけないと、書道パフォーマンスの大会がマズい。


いや、動悸が激しくて、全然、休んだ気にならないのは、体力のなさよりもチカのせいだ。


ヨロヨロと立ち上がって、ようやく練習に合流することができた。

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