第47話「非才無能、壁の向こうに」

「《ハーベストラッシュ》」



 リップがまず、範囲攻撃スキルを使用。

 斬撃を分割し、四方八方にばら撒くスキル。

 分割した分だけ魔力を消費し、威力は数に反比例していくが十分。

 さらに、シャーレイの矢の数を増やすスキルと追尾スキルの重ねがけ。

 いずれも威力はさほど高くなく、倒し切るには至らないがそれで十分。

 プレーンホッパーの《次元分身》は、並行世界に干渉して自身を複製するスキル。

 つまり、



 実際、今いるプレーンホッパーの分身は全員左肩から右脇腹にかけてざっくりと傷が見える。

 俺が斬りつけた傷口が分身にも共有されているのだ。

 なので分身してしまったプレーンホッパーへの対処法はこと。

 理想は全ての分身に四肢欠損かそれ以上のダメージを与えること。

 分身能力を持つ相手に対しては一体を集中して狙い、数を徐々に減らしていくのがセオリーとされているがこいつに対しては悪手だ。

 むしろダメージを徐々に蓄積させるのが理にかなっている。



「「「「JUUUUUUUUUUU」」」」




 プレーンホッパーもこちらの狙いを看破したのだろう。

 一斉に殺到してくる。狙いはこちらに攻撃される前にこちらを殺すこと。

 蹴りが、拳が、速度と転移によって出どころを探らせない無数の打撃が四方八方から襲いくる。

 だからそれに対しても対策済み。



「《黒の気功》」

「《オートリバース》、《ハイヒール》」





 ヒュンリによる防御力を引き上げるバフスキルを全体に付与。

 さらにメルティーナが回復魔法で負ったダメージを回復する。

 こちらの防御を抜いて致命傷を与えることはできず、受けたダメージもすぐに回復する。

 防御を固め、回復して、じわじわと削る。

 これが俺たちの考え出した作戦である。



「A3、A5、D1、E2」

「了解!」




 ナナミが感知スキルで分身の位置を把握し、その都度俺に教えてくれる。

 この状況、彼女が攻撃面においてできることはほとんどない。

 ナイフもロープも、ナナミより早く動き転移まで使ってくる相手には効かない。

 故に彼女ができるのは、気配を隠して脆いナナミへの攻撃が来るのを避けるのと、位置を教えることだけ。

 教えてくれるだけで、十分だ。



「マリィ!」

『《裂》』



 《裂空斬》による斬撃を指定された位置へと飛ばす。

 


「JUUUUUUUUUUU!」




 大半の分身は危機を察して逃げたが、一体だけ反応が遅れた。

 真空刃をくらい、右腕が落ちる。

 これでいい。

 徐々に、徐々に相手は削れていく。

 やがて、その時は来た。




「JU」

「F2!」




 《次元分身》が解除され、プレーンホッパーが一体に戻る。

 ナナミが同時に位置を教える。

 一体に戻ったプレーンホッパーは満身創痍だった。

 四本ある腕のうち二本が絶たれ、俺がつけた左肩から右脇腹にかけての傷もいまだに塞がっていない。

 触覚は二本とも途中から断ち切られており、あちこちに矢が刺さっている。

 虫型のモンスターは再生力が低く、傷の治りが遅いことが多い。

 ゆえにSランクモンスターといえど十分に深傷を負っているといえる。




「JUUUUUUUUUUU」



 プレーンホッパーはまだ勝利を諦めない。

 転移を使い、体制を整えんとするが。



「《ハーベストラッシュ》」

「……《アローレイン》」

「《発勁》!」

「《ワイヤーシュート》」



 あらゆる遠距離、範囲攻撃が空間を埋め尽くした。

 これで、やつは転移できない。転移すれば攻撃が体内に直接当たってしまう。

 致命傷になるとわかっているから、選択できない。




「《パラライズダガー》」




 気配を消し、プレーンホッパーの足元にいたナナミがダガーで斬りつける。

 同時に状態異常スキルを付与して、動きを止めた。

 麻痺が解除されるまでのわずかな時間、プレーンホッパーは転移も行動もできない。

 だが、それでも問題はない。

 麻痺が解除されれば分身もできる。

 範囲攻撃はもうないから、転移もできる。

 だから、問題はない。

 きっと、プレーンホッパーはそう考えたのだろうと思う。




「だから、これで終わりなんだ」



 プレーンホッパーの眼前に、剣を脇に構えた俺がいた。

 ナナミの《バインド》で引き寄せてもらい、一瞬で距離を詰めた。

 あとは、ただの一撃を当てるだけ。




「俺の願いの糧となれ」

『《裂》』



 万象を両断する一撃。

 それは、狙いをあやまたず、Sランクモンスターの首を刎ねとばし。

 瞬間――塵になってプレーンホッパーは消滅した。



「おや、死にましたか」




 同時に、声がした。

 ダンジョン三十階層、そのさらに奥から、何かが現れた。




「誰だ、お前は?」



 尋ねたのは誰の声だったか。



「私は、錬金魔人ハーゲンティ」




 その人物は、そう名乗った。

 そう、名乗ったのだ。

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