第41話「非才無能、改めて手を伸ばす」

「無事。ご主人様は無事でしょうか?」

「ああ、何とかね」



 俺は苦笑しつつも、ふらふらと立ち上がる。

 最後に剣を振った際に起きた反動は誇張でも何でもない。

 倒れ伏してしまうほどの虚脱感があった。



「最後の一撃、お前何をしタ?」

「え?」

「オレは、お前の攻撃速度を見切っていた。つまり、お前の攻撃は見てから避けることが出来るはずだったんだヨ」



 リップはA級冒険者であり、俺たち《裁断の剣》四人に対して優勢だった程の実力者。

 こいつの言うことには、信頼性がある。

 であれば、考えられる可能性はただ一つ。



「土壇場で、速度があがった?」

「そうなるナ。というか、そうとしか考えられン」

「いいじゃんお兄さん!成長してるってことでしょ?」

「ぎゃ、逆境で覚醒するなんて英雄みたいです!」




 しかし、それはあり得ない。

 俺という人間が成長することだけはあり得ない。

 そのことを、俺は誰よりも理解している。

 であれば、可能性はたったの一つしかない。

 


「マリィ……君なのか?」

「肯定。私とご主人様の力です」

「どういう、ことだ?」

「合技。ご主人様と私の愛の結晶といえます」

「待って本当に何を言ってるのかわからない」

「後述。詳細についてはまた後ほどお話しいたします。今はむしろ、話し合いをすべきかと」



 メイドらしく、恭しく頭を下げるマリィ。

 彼女をみていると何でかはわからないけど安堵してしまって。

 思うに、安心させる何かがマリィにはあるのだと思う。

 包容力というやつだろうか。



「やれやれ、まさか君が負けるとはね。手加減したわけじゃないんでしょ?」

「ああ、四対一ならまだしも、一騎打ちで負けちまったからなあ。完敗だゼ」



 

 改めてリップの方を見ると、メルティーナがリップに回復魔法をかけ、ちぎれた腕を治していた。

 



「《ヒール》、はいモミトくんもお疲れ様。まさかリップに勝てちゃうとはね。すごいじゃないか」

「勝てると思ってなかったんですか?」

「まあね、うまく引き分けくらいに持ち込んでくれればリップも認めてくれるかなって」

「モミト、謝罪をさせてクレ」

「どういうことだ?」

「侮ったことに対して、ダ」


「オレは強い。ソロ冒険者の中ではトップクラスに入る自信があるし、Aランクパーティにも劣らないと思ってル」


 髑髏マスクの中の表情はうかがい知れない。

 けれど、声音にふざけた色は欠片もなかった。

 彼なりに、悔いているのだと思う。



「だから、オレはそもそもとしてお前らには期待してなかったんだヨ。もっと言えば、メルティーナと組めるならほか四人が大したことなくてもいいと思ってタ」

「なるほど」



 メルティーナはもとAランク冒険者であり、ヒーラーとしてはいまだにトップクラスである。

 ゆえに、他のメンバーが戦力外であったとしても、リップとメルティーナの回復さえ機能していれば、どうとでもなると踏んでいたのだろう。

 つまるところ、格下だと思っていたわけだ。

 まあ別に誤りではない。

 実際のところ、俺達は格下でしかないし。



「けれど、オレはお前に負けた。どんな手品を使ったのかはわからんが、腕を取られた時点でもはや降参するしかない」

「ああ、それアタシ気になってたんだけど、なんで降参したの?」

「結構ギリギリだったからナ。腕落とされたらお前らの波状攻撃に対応できなくなって詰む」

「言われてみればそうかもですね」

「ともあれ、俺はもう負けてるんだヨ。だから、俺としてはお前らに従うサ」





「改めて、よろしくナ、モミト」

「ああ、こちらこそ」



 俺は、装甲で覆われた籠手を握った。

 改めて、俺たちは握手した。

 こうして、最強の新人が、《裁断の剣》に入ってきた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る