第26話「非才無能、役割分担する」

 《アローレイン》は増殖した矢が飛来する、弓使いにとって最もメジャーなスキルである。



「GYAGI!」



 矢をもろに食らい、ばたばたとゴブリンが倒れていく。



「GYAAAAAAAAA」



 ゴブリンのうち一頭が、ダークウルフに乗ってこちらに突進してくる。

 ゴブリンライダーか。

 機動力に任せてシャーレイを狙われるときついな。



「ヒュンリ、あのライダーをお願い!シャーレイを守って!」

「任せて!《青の気孔》、《黒の気孔》」



 スキル宣言と同時に、彼女の周りに青黒いオーラが立ち上る。

 何らかのバフスキルだろうか。



「はあっ!」



 オーラをまとったまま、掌底をダークウルフにブチ当ててゴブリンライダーごと吹き飛ばす。



「GIGI」



 吹き飛ばされてダークウルフはドロップアイテムへと変わったが、ゴブリンライダーは無事だった。



『感嘆。素晴らしいですね、あの二人』

「ああ、そうだな。どちらも強い」



 二人とも謙遜していたが、実力は十分にある。

 これまでは二人しかいなかったがために、実力を発揮しきれなかったのだろう。



『補足。それもありますが、どちらも私たちの求めた能力を有しているというのが大きいです。耐久力に優れたタンクと遠距離攻撃や範囲攻撃ができるアタッカーですからね』

「確かに」



 マリィが今言ってくれたのは、俺が仲間に求める能力であり――俺の弱点でもある。

 万象両断の剣を持ってはいても、俺自身の耐久力は人並みでしかない。

 ゴブリンライダーと激突していれば、少なくとも骨は折れていただろう。

 また、シャーレイのような遠距離範囲攻撃を撃つこともできない。

 今俺自身も《裂空斬》を放ってはいるが、シャーレイの討伐数には遠く及ばない。

 俺が一体斬る間に、彼女は十数本の矢を放っているのだから当然ではあるが。

 そうして戦闘開始から五分ほどたって……。



「GOOOOOOOOO」



 洞窟から、一体の魔物が出てきた。

 それは、ゴブリンと同様に緑色の肌と、醜い角を有していた。

 ただし、大きさがまるで違う。

 ゴブリンは人間の半分程度の大きさしかなかったが、目の前にいるそいつは逆。

 人間の倍以上の体高と、人間の数倍の横幅を有している。

 右手には、成人男性と同等サイズの棍棒を持っている。



「あ、あれはハードオーガ」



 巨大な鬼であり、ゴブリンより遥かに強大で強靭なモンスターである。

 前回俺とナナミが五層に潜った時は出てこなかった。

 出てきたのは、ゴブリンを殲滅したからかもしれない。前回は素通りしたからな。



「《ストロング・ショット》」



 シャーレイはクロスボウに矢をつがえ、威力を引き上げるスキルを使用し、うち放つ。

 矢はオーガの頭部に一直線に飛来する。すばらしい精度だと思われたが。



「GO」



 オーガの皮膚一枚に弾かれる。

 さもありなん。

 オーガの特性はその圧倒的な防御力とタフネス。

 スキルで強化されようと、矢一本ではオーガを貫くには至らない。

 だが、それでもいい。



 冒険者は、チームプレイだ。



「三人とも、下がって」

「オーガは俺が――いや」



 俺はアンドロマリウスを構えて、オーガの前に立つ。



『「俺(私)達が、相手になる!」』



 倒すと、そう宣言した。


 オーガの強みは圧倒的な強度と、身体能力である。

 前者はまるで問題にならない。

 テツより硬い皮膚であろうと、あるいはオリハルコンやアダマンタイトなどであろうと、マリィに斬れないものは存在しない。

 ゆえに問題なのは圧倒的なステータス。

 モンスターにはレベルというものがあり、レベルに応じてステータスは上がっていく。

 速度、筋力、いずれも俺より遥かに上。

 俺がオーガを斬るより速く奴の棍棒は俺をとらえるし、捉えられれば即死である。

 だが、負けるとは思っていない。

 マリィと俺なら勝算は十分にあった。



『《裂》』



 俺が剣を振りぬくと同時、真空刃が起こる。

 不可視の刃がハードオーガの首に飛来し。



「GO」

「かわした!」



 ハードオーガはいかなる方法を用いてか、《裂空斬》を首をもたげて回避する。

 鈍重な見た目とは裏腹にその動きに無駄がなかった。

 だが、それでもいい。

 剣を振り、《裂空斬》を放つと同時に歩を進め、距離を詰める。

 狙いはハードオーガの足。

 巨木のような足と、鋼鉄のような外皮だが……万象両断なら問題なく切れる。



「む」

「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」



 見事というほかない。

 ハードオーガは、

 これまでの魔物と比べて、明らかに知能が高い。

 それがオーガの特性ということだろうか。

 確かに脅威だ。

 強大な棍棒による一撃を合わせて、カウンターとして繰り出せるその技量。

 少なくとも、これまでの魔物との戦いにはなかったものである。

 知性がある魔物。

 それによる攻撃は、隙が無い。

 真上から棍棒の一撃が降り注ぐ。

 直撃すれば俺の体は砕け散り、液状になるだろう。

 右手に持った剣を掲げて防御しようとするも、間に合わない。

 頭上に掲げた左手では、自分を守るにはまるで足りない。



「マリィ!」

『了解――《断》』



 アンドロマリウスは粒子に変わって右手から離れ――おれの頭上に再出現する。

 左手の中に柄が収まり、魔剣と棍棒が衝突して。

 棍棒が、輪切りにされる。



「GO?」



 ハードオーガは疑問を多分に含んだ声を上げる。

 無理もない。

 その心情は大いに理解できる。

だからこそ、そこに付け入るすきがある。

俺はさらに足を前に出す。

左手に持った剣のつかに右手を添えて、上段に構える。

 踏み込むと同時、斜めに一閃。



「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」



 オーガの右足が落ちる。

 生まれて初めて四肢の一つを失ったオーガは冷静ではいられない。

 知能が高いからこそ、足を失うことがどれほどの危機かわかっているからこそ、焦り戸惑う。



「終わりだ」



 もう一度剣を振るい、今度は足を斬ったことで高度が下がった胴を直撃。

 人間より遥かに長く、巨大な内臓が、赤黒い血液とともに撒き散らされる。

 それこそが、致命傷。



「GO」



 最後に、一息分だけの断末魔を残して。

 ハードオーガは光のチリへと変わった。

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