第18話「非才無能、遠距離攻撃する」
準備を整えたのち、俺たちはダンジョンに潜った。
ナナミの斥候としての腕は確かで、罠にかかることは一度もなかった。
「見つけた」
先行していたナナミが手招きするので岩陰から敵を覗き見る。
岩肌のような見た目の羽毛をした、ハゲワシのような鳥。
人間よりさらに大きい。
「ロックバードか」
「だねえ。Cランクモンスターでもある」
飛行能力と切れ味のするどい爪による攻撃が特徴である。
加えて、岩を掴んで落としてきたりもする厄介な相手だ。
だが、問題は攻撃手段ではない。
このダンジョンの天井は十メートルはある。
つまり、空を飛ぶ相手には俺の攻撃が届かない。
試してみたいこともあったが、それがうまくいくかは未知数だ。
「アタシに任せな!」
ナナミは、ロックバードに向かって駆け出していった。
「KIIIIIIIIIIIIIIIIIII」
ロックバードはナナミに気付き、応戦する。
なぜ馬鹿正直まっすぐ突っ込んでいったのか、そこで俺はようやく気付いた。
「俺の為か……」
斥候の役割は仲間の安全を確保すること。
だから、彼女は前に出たのだ。
それは決して自己犠牲などではない。
パーティメンバーにはそれぞれ果たすべき役割がある。
今ロックバードに対処するのが彼女の役割だと自負しているからである。
「《バインド》!」
ナナミはロープを取り出して、ロックバードへと投ずる。
ロープはロックバードのいる高さまで到達し、そのままロックバードの翼に巻き付いて動きを封じる。
「KI?」
ロープを媒介にして、『拘束』の状態異常を付与するスキルだ。
さらに、短剣を構えて、落ちたロックバードに斬りかかる。
「《ポイズンエッジ》!」
切りつけた相手に『毒』の状態異常を付与するスキルだ。
「KI」
相手を拘束し、毒でじわじわと仕留める。
それこそが彼女の戦術であるらしい。
接敵してから5分ほどでロックバードの体力はゼロになったようで。
爆散して、光の粒子へと変わっていく。
あとには、ドロップアイテムだけが残った。
ダンジョン内でモンスターは死ぬと光の粒子に変わり、ドロップアイテムだけを残す。
「すごい……こんなにあっさりと」
手際が良すぎる。
「KIIIIIII」
「新手」
「三体目……」
「《裂》」
万象両断。
それこそが、アンドロマリウスの能力である。
もちろん、何でも斬れるわけではない。
剣の射程外にあるものは斬れないし、同時に複数のものを斬ることもできない。
ちなみに同時に複数の斬撃を出すスキルもあるが――【非才無能】の俺には関係ない話だ。
逆に言えば、刃の届く範囲なら何でも斬れる。
硬い金属や外皮、炎や雷撃、そして、空気。
もちろん空気を斬ったところで、意味がないように思えるかもしれない。
だが、空気を斬れば真空が生まれる。
アンドロマリウスの刃が空気を割けば、そこに生まれるのは刃の形をした真空である。
つまり、俗にいう鎌鼬である。
「《裂空斬》とでも名付けようか」
「遠距離攻撃手段があるなら先に言ってほしいんだけど」
ナナミがジト目でこちらを見てくるが、許して欲しい。
何しろこの技、今日思いついたばかりでまともに試す場がなかったのである。
ぶつけ本番で技を使うなど、ここまで追い詰められでもしなければ絶対にやらない愚行である。
「まあ、何はともあれ討伐できて何よりだねえ」
「おお、そうだな」
ダンジョンでは、モンスターを殺しても死体が手に入るわけではない。
倒されたモンスターはすべてドロップアイテムへと変換される。
それを持ち帰り、冒険者ギルドに買い取ってもらうのが冒険者の主な収入源となっている。
「ロックバードの羽根、ロックバードの嘴、おっとこっちはロックバードの心臓じゃないか。こりゃ、色々期待できるねえ」
「そうだね」
正直なところ、俺自身は金は割とどうでもいい。
ただ、より強力なドロップアイテムを冒険者ギルドに売れば、ランクアップに有利になる。
なので獲得するに越したことはない。
「……それにしたって妙だねえ」
「何がだ?」
「同意。ぜんぜんわかりません」
「そうだね、まあぶっちゃけると敵が多すぎるのが気になってね」
「そうなのか……」
「ロックバードはこんな上層に出てくるモンスターじゃないはずだよ。だから、何かがこのダンジョンに起きているんだろうなと思うんだがね」
先日のオリハルコンゴーレム事件を思い返す。
ゴーレムそのものは確かに俺が倒した。
だが、ゴーレムが出現した原因まではわかっていない。
強力なモンスターが、いるはずのない場所で出てくる。
これを、どう考えるべきか。
ひょっとすると、これは単なる氷山の一角に過ぎないのではないだろうか?
もしかしたら、まだほかにも強力なモンスターがダンジョンの外に……。
「ありゃ、ネオジムドラゴンじゃないか」
そんなナナミの言葉でおれは我に返った。
少し離れたところに、それはいた。
黒い、骨の鎧を纏った四足歩行の地竜。
ネオジムドラゴン。
確か、磁力という特殊な力を使って攻撃してくるドラゴンだったはず。
ランクはA。
ランクとしても実力としても、今の俺達より遥かに上だ。
ひょっとして、ロックバードはこいつから逃げてきたのだろうか?
「どうする?」
「やろう……」
ネオジムドラゴンは磁力を使った攻撃と、金属でできた鱗の防御力が持ち味のモンスターだ。
その反面、動きは鈍重であり、俺でも捉えることが出来る。
そして攻撃を当てさせすれば――アンドロマリウスの刃で斬れない敵など存在しない。
「任せな!《バインド》!」
先ほど使っていたのと全く同じスキル。
拘束で隙を作り、攻撃を当てて仕留める。
パーティを組んでわずか一日目だが、俺達は勝ちパターンを築きつつあった。
「GOOOOOOOOOOO」
「あ?」
そう思っていたのに。
俺の手からアンドロマリウスが弾かれて。
「何これ?」
俺は、ネオジムドラゴンを見たことはない。
磁力という、よくわからない能力で鉱石を操って攻撃することは知っている。
だが、磁力がどこまで作用するかは知らなかった。
もしも、剣や防具などの金属にまで作用するとしたら、それは。
「俺たちの、天敵……」
ネオジムドラゴンはマリィを天井まで磁力で持ち上げて。
落としてきた。
「逃げろおっ!」
剣が落ちてくる。
落ちて、来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます