第4話「非才無能、魔剣を振るう」
「もう、避難は行われてるみたいだな……」
人の気配がまるでない。
ゴーレムは手当たり次第に家屋を倒壊させているらしい。
冒険者たちが次々と魔法攻撃を行っているが、まるで効いていない。
ちょうど、冒険者の一人がほどの大きさの氷塊を作り出し、ぶつけた。
それ自体は、まず間違いなく偉業だ。
だがしかし、
『提案。マスター、私をお使いください』
「君を?」
『はい、私ならアレを斬れます』
腕の立つ冒険者が攻撃してもなお壊れないゴーレム。
それを、斬れると、アンドロマリウスは俺に告げた。
なら、俺のやることは決まっている。
「信じるよ」
ゴーレムに向かって駆け出した。
金属でできた、丸太ほどもある足に剣を振り下ろす。
『《断》』
瞬間、ゴーレムの足が裂けた。
俺が剣を振った場所が、衝突音もなく、空を切ったかのようで手ごたえすらもなく、ただ結果だけがそこにはあった。
誰も傷つけられなかったゴーレムの体は、魔剣によって断たれていた。
「な、なんで?」
『警告。離れてください』
「どうわっ!」
ゴーレムの胴体が変形し、棘を生やす。
とっさに後ろに下がったから当たらずに済んだが、そうでなければ今頃串刺しになっていただろう。
『解説。断罪魔剣アンドロマリウスの権能は、万象両断。どのような物であろうと、強度を無視して斬ることが出来ます』
「万象両断……」
なるほど、それならば斬れるはずだ。
眼前のゴーレムがどれほど硬かろうと関係ない。
この刃が触れた時点で、あらゆるものは断たれる裂かれる斬られるのだ。
「これなら、勝てるか?」
今までの俺にはこんなことはできなかった。
当然だ。
ステータスは上がらずスキルも覚えず、俺が持てるような安物の武器では魔物の皮膚にすら弾かれる。
「GOOOOOOOOOO」
ゴーレムは、機関音のようなうなり声をあげて、俺を見据える。
その足は、修復していた。
切り落とした足が変形し、再びゴーレムの体と癒合したのだ。
ゴーレムは錬金術によって作り出された人形。
自然発生だったり人為的に作られたり、あるいはモンスターによって生み出されたりと要因はさまざまだが――強力なゴーレムなら錬金術を応用しての変形や再生が可能である。
ゴーレムを葬る方法はただ一つ。
体のどこかにあるであろう、コアを壊せばいいのだ。
「すみません!」
「おう、兄ちゃん、兄ちゃんも冒険者かい?いい一撃だったぜ!」
「ありがとうございます。それより、お願いしたいことがあるんですけど」
「うん?」
「コアがどこにあるのかを探知してくれませんか?俺にはそういうスキルがなくって……」
あるいは、急所を見抜く《達人》のスキルなどを取得していれば問題なかったのだろうが、ないものねだりをしても仕方がない。
結局のところは自分が配られたカードで勝負するほかないということだ。
「わかったよ、おーいみんな!手伝ってくれ!この兄ちゃんがゴーレムを殺してくれるってさ!」
「魔法系は拘束系の魔法を使い続けろ!変形で脱出されても、一瞬は動きを止められる!」
「回復・支援系はバフかけまくれ!あの剣士をサポートしろ!」
「……ああ、すまない、俺体質でバフ弾いちゃうので、他の方の回復を優先していただけると」
【非才無能】のせいで、バフは効かないのだ。
「兄ちゃん難儀な体質してるなあ!」
「あはは……」
「じゃあ、回復魔法は効くのか?おーい誰か、継続回復の魔法かけてやってくれ!」
「ああ、ありがとう」
冒険者と言葉を交わして連携を取るのも初めてだ。
これまで、パーティメンバーにされてきたのは暴力と侮蔑、あとは無視ぐらいだったから。
だから、こんな当然のことが酷く嬉しく感じてしまう。
「じゃあ、やるか」
魔術を使い、誰かがコアの位置を表示してくれたらしい。
ありがたい。これで。
「こいつを、殺せる」
『肯定。私達ならあのゴーレムを斬れます』
俺は、アンドロマリウスを強く握りしめた。
「GOOOOOOOOOO」
ゴーレムは、両腕をこちらに向けつつ、変形。
五本ある指が伸長し、枝分かれし、尖り、相手を貫く無数の触手となる。
それは、当たれば俺なんてひとたまりもないだろう。
だが、当たらない。
『《断》』
俺は、触手にあわせて魔剣を振るう。
万象両断の剣は、一切の手ごたえも空気抵抗もなく、こちらに迫る触手を斬り飛ばす。
「GO……」
ゴーレムは、ならばと自分の胴体部分の金属を変形させて、触手を増やそうとする。
文字通り手数を増やし、こちらの対応力を超える攻撃をぶつけようというわけだ。
しかしそれは、対応するのが一人だけなら通じる手段だ。
「《フリーズロック》!」
「《マッドハンド》」
「《アイビーグロウ》!」
魔術師たちが一斉に拘束系の魔法を行使。
氷結が、泥の腕が、大地を割って伸びる蔦が。
ゴーレムに纏わりつき、その変形と移動を一時的に封じる。
むろん、足止め、時間稼ぎでしかなく、ほどなくして、ゴーレムは変形で拘束を破壊する。
だが、その程度の時間稼ぎで十分だった。
「間に合った!」
触手を全て断ち切った俺が、ゴーレムの足元にまで到達していた。
「ぶったぎれろお!」
『《断》』
ゴーレムの足元を走り抜けながら、アンドロマリウスを振るう。
両足を断たれ、バランスを崩したゴーレムは地面に倒れ伏す。
すぐに再生が始まるが、構わない。別にダメージを与えることが目的ではない。
俺の狙いは、頭を下げさせること。
「GO」
『《断》』
頭部にアンドロマリウスを振り下ろし。
一閃。
ゴーレムの頭部に納まっていた、赤いコアが砕けるのが見えて。
それで、決着だった。
◇◇◇
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