進化のバーゲンセール

「それで訓練場の方はどう?・・・オクス的に村の防衛レベルは上がっている感じ?」


「まだ一ヶ月だからな。そんなに目に見えた成果とは言えないが、少なくとも元々戦闘能力が高かった人達の生存率は向上している。」


 オクスはこの一ヶ月、村周辺の調査、縄張りの主張を行ってもらっていた。

 その道中は三馬の身体に慣れる為に、ひたすら魔物を狩っていた。


 森の浅い場所と荒野の浅い場所しか見回っていないので、出てくる魔物は最弱ムステラクラスか、それより一つ上程度の魔物としか戦っていなかった。


 生前はあれだけ戦闘を避けて来たってのに、今ではこの身体が栄養を求めているってのもあるが、それよりもこの身体でどこまで出来るのかを試して仕方ない。と思う程オクスは自分の性能と技術の進化を楽しんでいた。


 村の森での狩りの殆どはうさぎサイズの魔物だった。

 この前の戦いでも分かる通り、弱っていても、最弱クラスでも、メートル級の魔物は村の総力戦の死闘なのだ。


 それを今のオクスは一撃で葬る事ができた。

 耐久に関しても前のムステラクラスなら何発か受けても死にはしない程度の耐久性もあった。

 流石に一つ上の強さになると一撃でもくらったら当たりどころによって即死、多くの場所では致命傷である。


 村の連中も訓練場の成果を試すのを兼ねて森で山菜や木の実の採取を再開していたが、今の所魔物と遭遇していても死者はゼロどころか、重傷者も出る事なく、しっかり逃げ切れていた。


「調子に乗って元街道を外れたらいけませんよ。」


「わぁーっているよ。マリア、俺はそんな愚かじゃない。ちゃんと村周辺と街道沿いしか探索していない。」


 オクスの今の任務は村周辺の安全を守る為の縄張り決め、そして、他の村との交流を再開させる為の街道調査だが、これはおまけである。

 そもそも昔、交流があった村が生き残っている可能性は低いと考えていた。


 街道は活用出来る時が来たにすぐに使える様に整備しておいておくくらいの気持ちであり、オクスに他の任務が出来たら、街道調査は先送りにする程度の重要度だった。


「そろそろアイツらを訓練場に出しても良い頃合いだと俺は考えているが、ご主人はどう思う?」


「・・・・・・良いんじゃない。あの子達も訓練場で遊びたいだろうしね。クワコに言って定期的に放し飼いにする様に調整しておこう。」


「了解。それで俺が外で出稼ぎしている間、中はどうなんだ?」


 サボっていないよな。と睨んでいるオクスにトップは試しに作ってみた椅子から立ち上がって製糸場の扉に向かった。


「耳で聞くより目で見た方が確かだよ。」


 確かにそうだな。とトップに付いていくオクスは明らかに果樹園になっている大広間を横目にしながら、マリアを見ていた。


「あら、私に惚れましたか?ダメですよ、私の身体、心、魂全てはトップ様の物ですよ。」


「ぬかせ、なんで篭っているだけの筈のお前がそんな強くなっているんだよ。」


 この部屋に入って来た時から分かっていたが、部屋の大きさが大きくなっているのは前から拡張するとトップが言っていたので驚きはしなかったが、それよりもトップの側で常に待機しているマリアの力がこの一ヶ月で信じられない程、増幅していた。


「私の力はトップ様の欲望、ダンジョン、に直結しています。あの方の成長こそ、私の成長。つまり、私がこれほど成長しているって事はそれだけこのダンジョンの発展を示しています。」


 果医楽園かいらくえんの他にもう一つ能力に目覚めるほど、マリアの力は増していた。

 素の力もダンジョン1にランクインする程のパワーも手に入れる事が出来ていた。


「それじゃあ、その発展を見せてもらおうか。」


「ふふ、私も驚いています。まさか一ヶ月でここまで成果が出るなんてね。あなたのその継ぎ接ぎの服も今日で見納めですよ。」


「ふざけんな、他人からしたら見窄らしいかもしれないが、俺は・・・気に入っているんだ。」


 オクスの服はあれから継ぎ接ぎの服を着続けていた。

 毎日着替えれる様に他の死体の服を使って替えの服も用意する程だった。

 継ぎ接ぎの服から何処となく一緒に亡くなった仲間達の意思みたいものを感じるとオクスは語っていた。


 最初に着ていた服は一番のお気に入りの為、この一ヶ月の戦闘で継ぎ接ぎの服は解れたり、破れたり、返り血で汚れたりした。

 その度にトップがクワコの糸で直し続けた。


 その結果、継ぎ接ぎの服は不完全の服としていつの間にか名前が変わっていた。

 服のスキルにも変化が生じた。


 継ぎ接ぎの服(上着)→不完全の服(上着)

 体力上昇1→青息


 継ぎ接ぎの服(人馬仕様のズボン)→不完全の服(人馬仕様のズボン)

 力上昇1→無力


 青息、無力共にメリットがないデメリットスキルとなっていたが、オクスは気にする様子もなく、それどころか、洗濯が終わり次第、誰の前でも直ちに不完全の服に着替える様になっていた。

 その様子はまるで何かに取り憑かれている様だと村の人達は語っているとマリアは巫女のクロエから聞いていた。


 マリアからしたらただ単にお気に入りの服に着替える女子にしか見えない為、これが感性の違いか、と人と天使の違いを面白がっていた。


「オクス、どうよ!」


「・・・・・・全員進化したのか?」


 ゴーストは目に見えて分かるのに、スケルトン、肉塊はよく分からん!


 殆どのスケルトン、肉塊はオクスの視覚には前と違いは分からなかったが、雰囲気?死霊としての格?そんな感じのが前とは別物になっていると感じていた。


 フィラメントン

 それがスケルトンの進化した魔物の名前だった。

 骨しかない身体なのは変わらないが、糸に関係する動作に本能的な補正が掛かるようになっていた。

 これによって糸車、織り機、製糸場を十全に扱えるプロとなっていた。


「・・・・・・・って?!なんだ?!!や、やめ!!!はぐっ!むーーーーー!!」


 脂肪

 それが肉塊の進化した魔物の名前だった。

 肉塊と脂肪の違いは一つだけ。

 脂肪はある物質を生産する。

 それは肌、髪の保湿に特化したクリームである。

 このクリームはそのまま使っても保湿に効果があるが、古代の高級化粧品の材料として要に位置する重要な物であり、高値で取引されていた。


 脂肪は清潔な場所を好む為、自分の周りの場所や生物を綺麗にしようと自身の生み出したクリームと消化液を使って汚れを取ってくれる。

 その為、製糸場は常にワックス掛けをした後の様にピッカピカに輝いていた。

 よく見たらスケルトンの骨も、トップやマリアの髪・肌艶もキラキラと磨かれた様に綺麗になっていた。


 そんな性質を持っている為、今し方外から戻って来た大変汚れているオクスに脂肪達は親の仇の様に全身に群がって、髪、肌だけじゃなく驚きの声を上げた瞬間、口内にも入って来て、全身脂肪まみれになっていた。


「うわぁぁ・・・貴方、そんなに汚れていたのですね、今度から私たちに会う時は脂肪達に現れて来てくださいね。」


「っ!!!!ーーー!!!」


「何言っているか、分かりません。」


 そんな状況にさっきまで自分の近くで言葉を発していた人が汚物だった事に気づいたマリアはオクスを本当に汚物を見る目で軽蔑していた。

 トップは触手プレイのエロ同人みたいになっているオクスを見て爆笑していた。


 話は戻り、ゴーストの進化は分かりやすかった。

 前と同じく宙には浮いているが、前までは半透明だったのが、今は完全に実体があるようなくっきりとした姿をしていた。

 それに掴めない筈の糸や布、ガーゼを手で掴んで運んでいた。


 ポルターガイスト

 それがゴーストが進化した魔物の名前だった。

 半透明の身体は生身の身体の様にくっきりとした姿。

 何より掴めない筈だった物質を掴めるようには・・・・・・・・・なっていなかった。


 実際には掴んでいるみたいに見えるが正しい。

 前と同じく遠隔で物を動かす事も出来るが、手の付近のポルターガイストの力が何よりも強くなっている為、生前の様に物を掴む様な動作を取る様になった。

 器用な個体は手で持ちながら、遠隔でも物を運ぶ様になり、運搬効率は大幅に上がった。


 力の上限も上がったので、より重い物も持てる様に鍛えることが出来る様になった。

 要するに人とゴリラが同じ時間筋トレしたとしてどっちの方が握力強くなるかなんて分かりきっている。

 それと同じでゴーストとポルターガイストではポルターガイストの力がまるで違っていた。


「糸、布、ガーゼ。うちの主要産業が1ヶ月前とは桁違いの生産速度、生産量、質になった。問題は村へ流れるのはまだ先というところかな。」


 訓練兵達はダンジョンの景品特産として、糸、布、ガーゼを村に持って帰っているが、初動で景品に辿り着く人自体が予想より少ない結果になっていた。

 今は予想通りの数になっているが、進化のお陰で1日の生産量の方が大幅に増えた。

 そのせいで、在庫の数が減る速度より増える速度の方が圧倒的に上だった。

 かと言って、無料で配るなんて事は出来ない為、別の方法で消費量を増やす事にした。


「・・・・・・・・それがあれか?」


「この1ヶ月のダンジョンによる成果による報酬、言わば給料だね。その大半を費やして揃えた製糸場追加施設・・・裁縫屋だ。」


 ダンジョンチュートリアルが全世界で終わった事でアップデートされた仕様。

 それが月給。

 ダンジョン内の訓練施設、マイスペースなどを充実させるのに使う通貨をダンジョンの成果によって給与される。


 本当なら訓練施設の充実を優先しないといけないが、折角のこのダンジョンの長所である糸と布の資材を無駄に死蔵させておくわけにいかない為、裁縫屋に今回の給料の殆どを注ぎ込んだ。

 そのおかげで、この古代において破格の性能を誇る衣服が誕生した。


「シルクロード・・・・・・誰が使うんだ?こんな服。」


「今は私とトップ様専用です。実戦導入したいので貴方には早く強くなって貰いたいですね。」


「まだまだ弱くてすみませんね。」


 シルクロード(セット(帽子、靴以外))

 大理石の様な真っ白なジャケットとズボンにサファイアの様な蒼いシャツと靴下、ルビーの様な真っ赤なネクタイによるワンセットスーツであるが、革を使う靴と毛皮や草を使う帽子の素材の質不足により未完成セットである。


 シルクロード(ジャケット)

 スキル

 柔らかな身体3

 体術2

 セットスキル

 シルクの王1/5


 シルクロード(ズボン)

 スキル

 滑らかな脚3

 体術2

 セットスキル

 シルクの王1/5


 シルクロード(シャツ)

 スキル

 蒼き身体3

 頑強2

 セットスキル

 シルクの王1/5


 シルクロード(靴下)

 スキル

 蒼き足3

 快速2

 セットスキル

 シルクの王1/5


 シルクロード(ネクタイ)

 スキル

 紅きチャームポイント3

 束縛2

 セットスキル

 シルクの王1/5


 破格の性能と言っていいスキル群である。

 その上、これはまだ未完成である。

 まだまだ改良の余地もあるのだから、クワコとゴージャス蚕(ストーン蚕の進化先)の糸と布の可能性は無限大である。


 そんなスキルの中でも今までの衣服類にはなかったスキル。

 セットスキルである。

 一定の職人技量と高い素材の質を持った衣服一式の中でも低確率で産まれるレアスキルの一つである。

 一式を着ていないと発動しないスキルの為、その効果は絶大。


 ただこのスキル量となると、着ていない時と着ている時との差が激しい上に、このダンジョンで一番スキルに慣れているオクスの意見としては・・・・・・過剰なスキルは身を滅ぼす。


 スキル頼りの戦法と戦闘になってしまう。

 スキルは衣服の破損度によって効果は低下していき、全損でスキルは無くなる。

 スキル頼りだと全損どころか、低下でも死亡率が爆上がりするというのが、オクスの見解である。


 なので、スキルは身の丈にあった量であり、素の状態の技量も高めておくのが必要。

 天使を除いた村を含めたダンジョン技量一位であるオクスでもシルクロードは過剰も過剰の技量と勘を狂わせて、腐らせる代物だった。


 その為、スキル頼りでも問題ないトップやシルクロードと唯一釣り合うマリアしか現状着れるものは二人しかいなかった。


「まぁ、あんなオーバースキルの服なんてあれだけだけどね。それよりこれなんてどう?」


「・・・・・・ふむ、悪くない。」


 トップはムステラの毛皮で作られた帽子をオクスの頭に被せた。


 白い毛皮で作られた帽子は芦毛のオクスに合っていた。

 何よりオクスに似合うかな?と思って作った為か?スキルが今のオクス向きになっていた。


 白いムステラの毛皮帽子

 スキル

 記憶力1


 効果はその名の通り、記憶力が良くなる。

 昨日の朝飯を覚えられない人がこの帽子を被れば昨日の朝飯の味を詳細に覚えているくらいには記憶力が良くなる。


「馬なら蹄鉄が欲しいよね。・・・・・・あれ?オクスのはどうしているの?」


 オクスの蹄には長年使われていると分かるほどの年季を感じる蹄鉄が着いていた。


 オクスが蹄鉄を着け出したのは初めて村から帰って来た時だった、その時は足元は土や泥で汚れていた為、気が付かなかったが、脂肪によって全身洗浄されたオクスの蹄はピカピカに磨かれていた。

 その輝きの中に明らかに金属の輝きが混ざっていることで、トップはオクスの蹄に蹄鉄が着いている事に気がついた。


「これか、昔、外と交流があった時、外から来た職人が作った物らしい。ここら辺には鉄が採れる場所もないし、それの加工技術もない。」


 村の蹄鉄の数は破損、紛失で年々数が少なくなっていった。

 その為、通常は乾燥させた草の繊維によって編まれた草履を履いていた。

 蹄鉄は森や荒野に行く人、つまり、魔物と遭遇する確率が高い人が履く事になっている。


 オクスは現状村の防衛にとって最高戦力の為、常時蹄鉄を履く事が許可された。


「ここら辺は森か、荒野で鉄がありそうな場所ないしね。・・・・・・原始から古代にランクアップするのに製鉄もあったな。」


 村にはランクがあり、これを上げると報酬が貰える事になっていた。

 今の村のランクは原始。


「まぁ、一つ一つ上げていくしかないか。今の目標はを村、いや、国の一部にしようかな。」


「・・・・・・・・・はぁ〜相変わらずの大言壮語だことで安心たよ。じゃあ、俺はまた村に行ってパトロールしてくる。俺らコイツらに栄養をあげないといけないんでね。」


「世界樹は数多くの古代文明が挑戦して敗北、未だ領地にしたという記録はありません。・・・やはり、貴方は面白い。」


 世界樹まで後10,000km

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いきなりダンジョンマスター!配下の魔物が全然進化しない?!まぁ、可愛いからいっか!! 栗頭羆の海豹さん @killerwhale

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