13.気功術-7-






『レオンハルトよ、今のそなたは三週間前のそなたとはまるで別人のようだぞ』


「そ、そうなのか?」


「ええ。レオンの生命エネルギー・・・気も増えているし、貴方の体内に流れている気が安定しているわ」


 予想よりも早いレオンハルトの仕上がりにワタガシとシェリアザードが驚きの声を上げる。


「ワタガシ、そろそろレオンに硬気功を教えてもいい頃よね?」


 ふむ


『問題ない。では、これより硬気功の修行に入る!』


(やったー!)


「硬気功とは自分の生命エネルギー・・・気を纏う事で肉体を強化させる気功術なの。魔力を使わない身体強化魔法のようなものになると言えば分かるのではないかしら?」


 気の使い方次第で水面や雪の上を普通に歩いたり走ったり、己の拳や蹴りでオーガを倒したり、剣を折ったりする事も、刃物を使った相手の攻撃から身を護る事も、ゴースト系のモンスターに取り憑かれるのを防いだり、抜いた髪の毛や雑草を暗器のように使用する事も出来るのだ。


 ワタガシの言葉に心の中でガッツポーズを取りながらシェリアザードの説明に耳を傾けていたレオンハルトであったが、ある一言で気功術の危険性に気づく。


「シェリー?シェリーは抜いた髪の毛や雑草を暗器のように使えると言わなかったか?」


「言ったわよ」


「それってつまり・・・硬気功で強化した一本の髪の毛に毒を塗ってライバルを毒殺したり、他人の体調を整える為に自分の気を注ぐ外気功で徐々に体調を悪くさせる事も・・・」


「ええ。包丁は食材を切る道具に、鋏は裁縫の時に布や糸を切る道具にもなると同時に人を傷つける道具にもなる。薬だってそう。適量を服用していたら病を治すけど、決められた量以上を服用したら毒にもなるでしょ?」


 それと同じ事が気功術にも言えるのだと、シェリアザードがレオンハルトの言葉に肯定の意を示す。


「どうする?気功術の修行・・・止めるという選択もあるわよ?」


(・・・・・・・・・・・・)


「いや、俺はシェリーを護る騎士で盾だ。言葉だけは立派でも力が無ければシェリーを護れない」


 だから俺に気功術を教えて欲しい


「分かったわ」


(レオンの心の強さと純粋さ・・・私にはないものだわ)


『シェリアザードよ。明日・・・来週に冒険者ギルドに赴いてレオンハルトにオーク討伐をさせるのだ。レオンハルトが危機に陥ればそなたが手を出しても良いが、それまではあくまで補佐に徹せよ』


「ワタガシ?どういう事?ワタガシがオーク肉を使った料理を食べたい為にオーク討伐の依頼を受けさせるの?」


 レオンハルトが持つ心の強さと純粋さを羨ましいと思っていたシェリアザードにワタガシがオーク討伐の依頼を受けるように指示を出す。


『シェリアザードよ・・・そなたは我を何だと思っているのだ?』


「頼りになる父親や師匠のようだと思っているわ。ワタガシに対してそう思うのは畏れ多いと分かっているけどね」


 ワタガシに嘘が通用しない事が分かっているシェリアザードは正直に答える。


(ワタガシって魔獣ではなく聖獣か神獣の類、だったりするのか?)


『ならば良い。我がレオンハルトにオーク討伐をさせようと考えたのは、気功術の成果を見る為だ』


 騎士という立場にあり実戦の経験があるからなのか、或いは幼い頃から鍛えていたからなのか、レオンハルトは人間にしてはかなりの実力者の部類に入る。


 ゴースト系は無理だが、大抵のモンスター・・・人型モンスターで最強と謳われているオーガ種だって倒せるだろう。


 しかしそれは魔法を使うという前提の話だ。


『気功術の達人であるシェリアザードならともかく、今のレオンハルトではオーガは無理だ。どう考えてもオークが精一杯であろうな』


「つまりワタガシは俺の修行の成果を見る為と気功術での戦いの経験を積ませる意味でオーク討伐をさせようと・・・?」


『そういう事だ』


「ワタガシの意図は分かったけど、それならば冒険者ギルドを通さない方がいいのではないかしら?」


 依頼が達成出来なかったら本来貰えるべき報酬金額を払う事になるからリスクを避けた方がいいと思っているシェリアザードはそう提案するのだが、ワタガシは二人の冒険者としてのランクをアップさせる為に冒険者ギルドを通す主張を曲げないでいる。


『そなた達は知らぬであろうが、ワイバーンと竜の肉はオークとコカトリスの肉など足元にも及ばぬレベルで非常に美味なのだ!!!』


「「はい?」」


 ワタガシの言葉にシェリアザードとレオンハルトは間の抜けた声を上げて驚く。


『ワイバーンの肉は部位によって異なるが、腿の部分は適度な弾力があってジューシーでコクと旨味があるし、胸の部分は淡泊であるが故にどのようなソースにも合うし、調理法によってはしっとりとした食感でありながら噛み応えのある肉料理となるのだ!!!』


 在りし日のルチルティーガ帝国では、ワイバーンの腿の部分の肉を食べる時は魚醤というソースで照り焼きにしていたし、胸の部分の肉は卵黄のコクとニンニクの風味を感じるソースを絡めていたな


 ワイバーンの照り焼き、ワイバーンのマヨンソース・・・美味であった


 今一度食べたいものよ


「「はぁ・・・」」


『首の部分はプリプリとした食感で噛む度に旨味が溢れ出すし、骨付きの部分の肉は油で揚げれば肉のジューシーさと皮のパリッとした食感が楽しめるのだぞ!!!』


「「・・・・・・・・・・・・」」


『竜の肉も部位によって異なるが、背中の部分は脂が甘く肉はきめが細かく舌の上で溶ける程に柔らかい!腹の部分の肉は柔らかいが適度に噛み応えがあるし味は濃厚なのだ!!!』


「なぁ・・・シェリー?俺達は何時までワタガシの肉談義に耳を傾ければいいのだろうな?」


「ワタガシがワイバーンと竜の肉が如何に素晴らしく美味しいかを語り尽くすまでではないかしら?」


 うふふふふ~


 あはははは~


 顔を見合わせたシェリアザードとレオンハルトは互いに乾いた笑い声を上げる。


『肩の部分は脂が少ないのに焼けば肉は適度な歯ごたえがあるし、煮込めば口で噛めるくらいに柔らかくなる。腿の部分は万能で焼いても煮込んでも美味なのだ。焼いた牛肉、或いは牛系のモンスターの肉にソテーにした肝臓の部分を乗せて一緒に食べるとだな、香ばしいだけではなく濃厚なコクのある絶品の料理となるのだ。テリーヌにしても──・・・』


((こ、これって新手の拷問だーーーっ!!!))


 シェリアザードとレオンハルトが生まれてから一度として食べた事がない肉が如何に美味であるかを恍惚の表情で語っていくワタガシ。


(お、美味しそう・・・)


((ワイバーンと竜の肉で作った照り焼き、ナゲット、カツレツ、ワイン煮込み、トマトシチュー、ソテー、味噌漬けが食べてみたくなってきた・・・))


 話を聞いただけで空腹感を覚えてしまったのか、次々と料理が思い浮かんでしまい思わず生唾を飲んでしまうシェリアザードとレオンハルトであった。






※ワイバーンの照り焼きは照り焼きチキン、ワイバーンのマヨンソースは鶏マヨのようなものだと思って下さい。

ワイバーンの肉は鶏肉、竜の肉は鴨肉と栄養面的なものは烏骨鶏をイメージしています。

竜の肉って牛肉みたいな描写を見るのですが、竜は色々な動物が混ざっているけどベースは蛇やトカゲといった爬虫類。

蛇の肉は鶏肉に似ていると聞いた事があるので本当に竜が存在していたらその肉は鳥系かな~?と思い、風味は鶏肉や鴨肉に似たものにしました。





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