8.ドールハウス-2-
「や、やっと終わりました・・・」
「私の方も終わったわ」
切り落とした耳を皮袋に入れ、それを手にシャドーの森を抜けた時、辺りはすっかり暗くなっていたので、王都・グロリオサに続く門は閉じられている。
(今日は野宿か・・・)
ふと夜空を見上げると星が銀砂のように煌めいていて、ミルク色の星の河が流れていた。
「綺麗・・・」
(こんな幻想的な光景、現代の地球でも交通手段が徒歩か馬車しかなく、空気が澄んでいる田舎でもない限り見る事が出来ないでしょうね・・・)
『シェリアザードよ、我は一刻も早くそなたが作った料理を食べたい!湯浴みをしたい!』
「ワタガシ?」
・・・・・・折角、美しい星空を堪能していたのに気分が台無しになった。
まぁ、別にいいけど。
『シェリアザード、そなたと行動を共にしている・・・レオンハルトとやらが作ったドールハウスで家を作るから少し離れるがよい』
「レオンハルト様。今からワタガシが、レオンハルト様が作ったドールハウスを使って家を作りますのでここから離れて下さい」
「シェリアザード王女?家を作る?えっ?ワタガシの言っている事が分かるのですか!?」
という事はワタガシと会話が出来るのでしょうか?
それ以前にワタガシって本当にただの小犬なのですか!?
小犬に変身しているだけで、その本性はワーウルフ、ケルベロス、オルトロス、ガルムといった類の狼系のモンスターなのであれば従魔登録をする必要があります!
「違う!ワタガシはモンスターじゃない!ワタガシは・・・ワタガシは・・・」
シェリアザードは咄嗟にレオンハルトから護るかのようにワタガシを庇う。
ワタガシの正体が全ての神々の父であるのだと打ち明けたとしてもレオンハルトは信じないだろう。
「レオンハルト様、何時か・・・全てをお話いたします!その時にワタガシの事も・・・!」
「・・・・・・・・・・・・分かりました。シェリアザード王女がお話しして下さる時が来るのをお待ちしております」
ところでワタガシは私が作ったドールハウスで何をするつもりなのでしょうか?
シェリアザードの言葉を信用してくれたのかどうか分からないが、レオンハルトは話題と雰囲気を変える意味もあったのか、今からワタガシが何をするのかと尋ねる。
「さぁ・・・?ワタガシは家を作ると言っていたけど、どうやって家を作るのかしら・・・?」
「「え゛っ?」」
シェリアザードとレオンハルトは同時に声を上げて驚く。
だって、レオンハルトが作ったドールハウスをそのまま大きくした───本当に人が住めるくらいの家が目の前に出現したのだから。
『我の能力で厨房だけではなくパウダールームもバスルームも我が家に居る時の感覚で使えるようにしておいた。寝台でゆるりと身体を休ませる事が出来るぞ』
レオンハルトとやらよ、そなたのおかげで今宵は野宿をせずに済むだけではなく、シェリアザードが作った料理を堪能する事が出来る
感謝するぞ
「は、はぁ・・・。褒めて頂き光栄です・・・?」
小犬に感謝の言葉を言われるなんて初めて・・・というか普通に考えれば有り得ない。
レオンハルトが戸惑うのは当然だった。
『シェエリアザードよ。我は此度のゴブリン討伐による疲れを癒し、そなたが作った手料理を堪能したいのだ』
「分かったわ。夕食の前にバスルームでワタガシを洗うという事でいいかしら?」
(ワタガシ・・・私とレオンハルト様がゴブリンと戦っていた時、ただ見ていただけだったのだけど・・・その辺りについてツッコミを入れた方がいいの?)
『それで構わぬぞ』
ワタガシを先頭にしてシェリアザードとレオンハルトは、ワタガシの魔法で具現化(?)した家の中に足を踏み入れる。
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