第1章:AWAY

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 道府県を跨いだ捜査活動が可能な広域警察が勤務先とは言え、福岡県出身で九州内の支局にしか配属された事が無い私が北海道について知っているのは、九州と四国を合わせたよりも広いという事ぐらいだ。

 同じく、新潟について知っているのは……中学か高校の頃まで「東北」だと思っていたが、実は「北陸」だった事と……あとは、戦国時代に有名な上杉謙信が治めていた事ぐらいだ。

 なのに、何故か、北海道警の公安関係の部署の人間と……あと、広域公安の新潟県統括部の人間が、この広域公安の熊本県統括部にやって来ていた。

 それも、渡された名刺を見る限りでは、捜査官でも、通称「K−SAT」と呼ばれる私達と同じ「殴り込み部隊」でもない、言わば監査や内部統制が専門の役職らしい。

 警察官サツカンは長く居る部署によって顔付きや雰囲気が変る。

 いわゆる「マル暴」の人間は、段々とヤクザっぽい感じになり……最終的には、あくまで稀にだが……あ〜……稀にだと信じたいが、ヤクザとつるむようになる場合も有る……らしい。

 対異能力犯罪広域警察機構こと通称「レコンキスタ」の「レンジャー隊」は……いかにも前世紀の戦隊モノの主役達のような感じになり……これまた、あくまで噂だと信じたいが、「正義の味方」と呼ばれる事も有る「犯罪者狩りやテロリスト狩りをやる風変わりなテロリスト」とつるんでしまう事も有るようだ。

 公安の捜査官は、一般人のような顔付き・雰囲気となり、つるむとしても一般人とだ。公安の捜査官が捜査対象とつるんだりする確率は、県警の捜査一課の奴が、連続殺人鬼とお友達になる確率より更に低いだろう。

 だが、私の目の前に居るのは……。

 おい……私は漫画の世界にでも迷い込んだのか?

 ホントに、こんなのが実在したのか?

 製作費(脚本家への報酬とキャスティング担当者への給与を含む)をケチったドラマに出て来そうな「警察の鼻持ちならないエリートのキャリア組」そのまんまの奴が実在してる。「ひょっとして御兄弟で?」とか訊きたくなるほどに……何と言うか、雰囲気やら何やらがソックリだ。多分、かけてる眼鏡や着ている背広の値段も同じ位だろう。

 全財産賭けるなら、「こいつら2人とも、捜査現場に出るのは年に2回でも多い方だ」に賭ける。

「で、何の御用ですか?」

「捜査に御協力願いたい。貴方の上司の許可は取っている。可能なら、貴方だけでなく、貴方の部下全員にだ」

「容疑者や参考人じゃなくて、捜査官としてですか?」

「そうだ」

「いや、当り前だ。何故、そんな事を訊く?」

「あの……私はいわゆる『殴り込み部隊』の人間ですよ。……公安の捜査なら……一般人のフリをしなきゃいけない可能性が高いが……見ての通りです。女にしては多い筋肉量。ハリウッド女優のフローレンス・ピューのスタント・ダブルだって出来る自信が有る位のね。やさぐれた雰囲気。見る奴が見れば……何かの戦闘訓練を受けてるのが丸判りな仕草……。無理です。向いてません」

「他を当りたくても捜査官が居ない」

「そんな馬鹿な事が有りますか?」

「広域公安の各支局と、各県警の公安部局の『特事』担当の捜査官達が大規模な共同捜査を行なっていたらしいのだが……」

「それで人手が足りないんですか?」

「いや、違う」

「じゃ何です?」

「行方不明になった」

「誰が?」

「だから、その『大規模な共同捜査』に関わっていた全国の公安関係の捜査官、ほぼ全員がだ」

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