とある風見鶏の自語り

風見 黄鵝

第1話 風呂で荒ぶった心を書くことで鎮ました

私は風呂に入るのが好きだ。


1日の中で1番頭が回る気がするから。


風呂の中でいろいろと思考を巡らせるのが趣味である。


今日も頭を洗いながら思考を巡らせていた。


事件が起きたのはそんな時だった。


タイルの間の黒ずみが動いた気がした。

私は目が悪いからか、

よく幻覚のようなものを見るので気にしなかった。


また、動いた。


流石に目を凝らして見た。


スルスルとこちらへ這い寄るその姿に身の毛がよだつ。

私は事件性のある悲鳴を上げながら、自分でも有り得ない速度で風呂に飛び込んだ。


「え、なになに、あれ!なに!幻覚か、そうだ、うん」


もう一度、風呂の中から覗く。


「いるぅ!やんけぇ!バカぁ!幻覚?」


目をつぶって、頬をぶっ叩き、前を見る。


「いる……え?なに、なにあれ」


その細長い紐のようなフォルムは生理的嫌悪感を催すようなクネクネとした動きをする。

しかも、そこそこのスピードで動いている。


「きっっっしょ」


吐き気がする。

ヤバい、何あれ、ミミズかしら。おほほほほ。


「いや、ミミズじゃないやろ、あれ」


風呂場をスルスルと動く細長いミミズとか有り得ない。

メガネをかけてないから全然見えないだけでミミズじゃない可能性もあるか。

……っていうかどこから来たん。


床も壁もタイルでツルツルである。


「はッ!天井か!」


天井は一面ツルツルであった。


「どこから来たんだよぉ!」


とりあえず、上からシャワーを浴びせながら考えを巡らせる。


「窓?窓しかないよな?窓からミミズ?窓ミミズ?」


ちなみに窓があるのは湯船側である。

つまり、段差で囲まれた洗い場にいけるとは思えない。


なんなら、周りは段差だしどこからも入れないし出られないのでは?


「密室ミミズもどき事件?」


これは難事件である。

私の平穏が脅かされているので解決しなければ。


「あれ?」


ミミズの姿が見えない。


ドクドクと早鐘がなるように心臓が鳴る。


まず、風呂の中……いない?いないよね?

洗い場には?

シャワーで満遍なく探すが見当たらない。


「密室から消えた?」


もっとちゃんと見ておけばよかった。

こんなことになるなんて思わなかった。

……※ミミズもどきの話です。


「どこいったんだろう」


もしかして、排水溝か?

排水溝の下ってどうなってるんだろ。


「今頃、下水で流れてる?」


私はビクビクしながら身体を洗い、風呂から出た。






「右、左、いない!いない?いないね!」


次の日、私はまずクリアリングから入った。


「チェック!おーけーおーけー」


口火をつけてシャワーをぶっぱなす。


「オールクリア……」


床の隅から隅までシャワーを当てたがいなかった。


「いない……か」


私の平穏は保たれた。

またメガネを持ってくるのを忘れたが問題なさそうだ。

やはり、下水に流されたのだろう。


「ふぅ……」


あいつ、結局なんだったんだろう。

シャワーで頭を洗いながら考える。


「幻覚だったのかな」


私は幻覚を見たり、自己記憶改竄をしてしまうことが割とあるので有り得る。

いや、でもミミズもどきはリアリティがあった気がする。

少なくともあの恐怖は夢ではなかった。


ふと、背筋が冷える。

その第六感を気のせいだと思いつつ後ろを向いた。


壁のタイルの間の黒ずみがスルスルと上に上がっていた。


「ファッー!」


私は事件性のある悲鳴を上げながら、自分でも有り得ない速度で風呂に飛び込んだ。


「え、なに、幻覚?壁登る@ミミズもどき?」


壁のタイルの隙間を器用に動くそれはミミズにはとても見えない。


「いるやんけぇ、お前生きとったんかワレェ」


全然嬉しくねぇ、地獄に落ちてくださいませ。


「っていうか壁登るなんて聞いてないんですが?」


そして、ヤツは何を思ったのか壁を伝ってこちらに向かってくる。


「ファッ〇」


シャワーで撃退する。

これで撃退できるのは素直にありがたい。


「地味に早いのキッショ」


壁をスルスル移動する姿はミミズとは思えない。

もしかして、あいつ窓から壁伝いに入ってきたのか。


「とりあえず風呂から出るか」


目が見えずらい状態だと不利だ。


私は戦略的撤退を決意した。






私はメガネを装備して戻ってきた。


「覚悟しろやぁ」


全ては私の平穏のため。


「……いない」


扉を開けた先にはミミズもどきはいなかった。


「……寒い」


私は撤退を余儀なくされた。






私は服とメガネの完全フル装備で帰ってきた。


「ふぅ、なんか疲れてきた」


扉を開けるがやはりいない。

床を隅から隅まで探すがやはりいない。

壁を探すがどこにもいない。


「おらんやんけぇ!」


そして、ふと湯船と壁の隙間を覗く。


そこにいたのは暗くてよく見えないながらも気色悪い紐のようなボディだった。

それは、ナメクジというには細長く、ミミズというには水っぽく、まるで大型生物に寄生する寄生虫、大きな線虫のような見た目をした冒涜的な生き物だった。

SANチェックです。


「メガネかけたせいで余計キショさが増してる」


最悪すぎる。


「とは言っても届かない場所にいるしどうしようか」


目の前のシャワーが目に入った。

私はシャワーをひたすらかけ続けた。

流されていく線虫もどきを眺めた。

キショかった。


私は悲しい気持ちで湯冷めのくしゃみをした。


「二度と私の前に出てくるな」

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