意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎

バイバイ

 私はいつも田んぼや畑の多い田舎道を、自転車で通学している


 舗装されていない道は凹凸が酷いが、青々とした自然の中を走り抜けるのは気分が良い




 道中出会った人と挨拶を交わすのも田舎ならではだ


 よく出会う人はだんだんと顔を覚えてくる


 いつもあぜ道で寝転がっているおじいさんもその1人だ




 私が下校するくらいの時刻になると、農作業にひと段落して休憩しているのだ


 大きなイビキをかいている日もあれば、にこやかに手を振ってくれる日もある




 今日も近くを通りかかると、あのおじいさんがあぜ道で横になっている姿が見えた


 顔には日よけのためかタオルを乗せていた


(今日は寝てる日かな)


 そう思ったが、おじいさんはグッと身体をひねり、手をパタパタと振ってくれた


 私も自転車のハンドルから片手を離し、手を振り返して挨拶した


 挨拶くらいたいしたことではないが、少し嬉しい気分だ




 次の日から雨が続き、そのおじいさんを見かけることはなかった




 1週間が経ったとき、祖母づてにあのおじいさんが亡くなったことを知った


 亡くなったのは最後に手を振ったあの日だった


 心臓発作だったそうだ


 名前も知らない人だったが、心にぽっかり穴が空いたようだった


 せめて最後の日に挨拶できてよかったと、そう思うことにした




―――――――――――――――――――――――

(解説)

 あの日、本当におじいさんは手を振っていたのだろうか


 まさにあの瞬間、心臓発作で苦しんでもがいていたのではないか


 声も出せないほどの苦痛の中で、かろうじて腕だけを動かしていたのではないか


 もしも『私』がすぐに救急車を呼んで、心肺蘇生を行なっていたなら……

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