草原の言霊師

@watakasann

第1話 始まりは女医

 

若くて美人で優しい精神科医と聞けば、誰でも受診はしたいものだ。


この、すべてが簡単に生きていけるような大都市で「生き抜く」には

意外に簡単なことではない。上を見ても下を見てもしょうがないと思っているが、

どこか男特有の「プライド」が捨てきれないのかもしれない。


いつだったか何かの心理テストをテレビでやっていて

「あなたは様々な動物を持っています。犬、トラ、馬、牛、羊、ラクダ。

ですが、この中のどれかを手放さなければならない状況に陥りました。

一番最初にあなたは何を手放しますか? 」


その質問に男の僕でもうらやましい多彩な男優が答えた。

「トラですね」

僕もそうとは思った。

他のものは交通手段にもなるし、友にも、まあ食料にもなる。


するとその質問をした若い女性タレントが

「え! そうなんですか? トラって「プライド」なんだそうですよ」


 答えが一緒でうれしいとかそんなことではなくて、この類まれな人ですら真っ先にプライドを捨てるのだから、自分などは当たり前、秒で投げ捨てなければいけない。

とはいえ、まあまあの学校を出て、会社に入っていろいろな物事を経験すればするほど、疲れしか残らなくなった。趣味もないわけではないけれど、どんどんそれに割く時間も無くなればそうなる。体調も悪くなったので病院を受診しても体に異常はない。

「多分、精神的なストレスからですね」

逃げ口上のような気もしないではなかったが、自分と年がそう変わらなくて、親身になってくれる先生から、


「僕が精神科の紹介状を書いてあげましょう」


と、珍しい手書きのものを渡された。そこのあて名を見た僕に

にっこりと先生は笑った。


「男性の場合、彼女の病院の名前を見ただけで、症状が劇的に回復するそうですよ。性ですかね」


そう言われて、久々に顔の筋肉がすごく緩んでいる自分に気が付いた。






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