第5話「熱とドラゴン」

ファイヤシルバー地方に来てからしばらくたったある朝。外からカンカンと金属音が聞こえてくる。その音でスピカは目覚めた。

起きて間もない足で外へ出る。スピカを朝の暖かく包みこんでくれる光に体を任せ、深呼吸。それが最近のスピカの日課となった。

「おう!おはようスピカ!」

「ガイト!おはよう!」

家の裏手からガイトが話しかける。

「朝から鍛冶?」

「おう!腕は鈍らせたくないからな!!」

ガイトのめくり上げた袖から腕にかけて流れる一縷の汗が努力を物語る。

「こんなに努力しても…まだ伝説の武器の作り方が分かんねぇんだ。」

ガイトはファイヤシルバー地方に来てから、大きな図書館。教会内にある図書室をおとずれたり、地方の有名な鍛冶屋に出向いたりして修行内容である「伝説の武器の作り方を覚え、全種類作る。」を達成する第一歩。伝説の武器の作り方を探している。

「どうすればいいのやら…。まぁ今日もひたすら聞き込みとかだな!!」

「うん!」

これだけの短い話でも二人の顔には汗がにじみ出るほど外は暑い。

「今って…秋だよな…??」

「うん…。一応…。」

夏のように照りつける太陽。

「眩しっ…」

「中にでも入るか。」

二人で中に入って朝食を食べる。今日の担当はイレフ。毎日日替わりで誰かが家事一つをこなす。という約束のもと四人で暮らしている。そこでスピカたちには欠かせないチーム力を少しでも養っている。

「リチャードさん見ませんでしたか??」

「いや、見てないな」

「そうですか…。本日リチャードさんは洗濯当番なのですが…」

「まだ寝てそうだね。僕行ってくるよ」

「ありがとうスピカ!」

スピカは二階に上がってリチャードの部屋を訪ねる。

「リチャード」

「うっ…うっ…」

リチャードの顔は赤く、息苦しそうだ。

「リチャード…!」

リチャードの額に手を当てるととても熱い。すぐにイレフを呼んで診てもらうと…

「熱ですね…。私が薬を調合しましょう。」

「ありがとう」

「ですが…材料がほとんどなくて…」

「じゃあ、俺らが調達してくるぜ!」

「いや…でも…大変なのが一つ…」

「大丈夫だよ!」

心配な顔でイレフはスピカとガイトをみる。

「では…」

イレフはメモをガイドに手渡す。

ー材料ー

・聖水

・薬草

・ファイヤドラゴンのウロコ


「ちょ…ちょっと待てよ!ファイヤドラゴンのウロコ…??熱なら薬草と聖水だけでいいんじゃねぇか…??」

ガイトが目を丸くしてイレフを見つめる。

「はい。本来なら薬草と聖水だけでいいのですが、ドラゴンのウロコを使うとこれから熱にかかりにくくなるんです。ドラゴンのウロコもノーマルでもいいのですが、リチャードさんの体質上これからを考えると一番効果が強く持続するファイヤドラゴンのウロコが良いと思いまして…。」

「そうなんだな…。」

沈黙が流れたが決心した顔で

「わかった。俺らが取りに行くぜ!」

「うん!僕らに任せて!」

勢いよく家を飛び出し、スピカとガイトは薬の材料を取りに行く。

イレフはスピカとガイトを見送った後、リチャードの看病や家の仕事をこなす。


スピカたちは見送られた後、教会に向かった。

「エル様!!」

「ガイトさんにスピカさん!今日はどうされましたか?」

エル様はにっこりと笑う。エル様とはファイヤシルバー地方の女性神父様の呼び名である。本人から後日そう呼んでくれるとうれしいと言われたため呼んでいる。

「実を言いますと…リチャードが熱にかかってしまい、聖水を頂きたいと思ってまして…」

「また…ファイヤドラゴンのウロコも必要なんだが、どこに行けば取れるのかを知りたくて…」

「まぁ!!そういうことでしたのね。少し待っててくださる?聖水と地図持ってきます!」

エルはそのまま物を教会の奥に取りに行ってしまった。その間スピカとガイトは椅子に腰掛け待っていた。

「おまたせしました!どうぞこちらへ。」

教会の小部屋に案内されると、机の上には大きな地図が広がっていた。

「こちらがファイヤシルバー地方の地図となります。こちらが現在地の教会となります。

そして、この教会から北にみえる灰色の山。『シンデレラ』と呼ばれる岩山です。」

エルが指した教会から北にあるのは、自らでもわかるほどの強いオーラを放つ山だった。

「この山の洞窟から奥に進んでいくとファイヤドラゴンがいます。ファイヤドラゴンはドラゴンの中でもウロコが生え替わる種なのですが、生え替わったウロコは全て残しておく習性を持っている変わったドラゴンです。」

エルはスピカたちにファイヤドラゴンが描かれた本を見せた。

「残しておくウロコは隅に置いてあるのですぐに見つかると思います。」

「ファイヤドラゴンに襲われることって…」

「大丈夫ですよ。ファイヤドラゴンは基本的に寝ているので襲ってはきません。ただ……。」

__話を聞き終わったスピカたちは神の加護を受けて、シンデレラに向かった。

シンデレラはとても離れているわけではなかったため、行き交う馬車に乗り込んだり、歩いたりしたら昼時には麓についていた。

「これは…すげぇな…」

「うん…魔力が強い…」

見上げると、灰色の大きな岩が何個も空へ高く積み上がっているようにみえる。

「よし…いくぞ…!」

「うん…!」

意を決して、洞窟に入っていく。

ぽつ…ぽつ…と鍾乳洞から水が滴る音が聞こえる。滴る水からも微かに魔力が伝わってくる。足音が洞窟に響く。

「このまま進めばいいんだよな…?」

「うん…。まだ一本道だからね…」

息を殺すように歩いていく。しばらくすると開けた場所に出る。

「これ…だよね…?」

スピカが指を指した方には赤い小さな山があった。ファイヤドラゴンのウロコの山だ。

「待てよ…こんなにたくさんあるってことは…相当なやつがここにいるってことだよな…?」

「そうみたい…」

スピカとガイトの身長を合わせても全然足りないぐらいに積み上がっている。

「ここが…部屋の隅なら…ファイヤドラゴンは…?」

後ろを振り向くと、壁の方にくり抜かれた大きな穴に大きなファイヤドラゴンが眠っている。

寝ているだけでも相当な魔力を感じ怖気づきそうだ。

「すぐにとって戻ろうぜ…」

「うん…」

二人はウロコの山から十個ほどいただく。

すぐに来た道を引き返そうとした時。

「スピカ。あれなんだと思う?」

「あれ?」

ガイトの目線の先には古びた宝箱が入る。相当年月が経っているものだろう。

「少し気にならないか…?」

あの宝箱は至って普通だが、何か引き寄せられるものがある。

コクリ、と頷く。

「だけど、ファイヤドラゴンの目の前だよ…?」

「大丈夫。襲わない限り襲ってこない…。あと…なんか…言ってたような…まぁいっか!」

「危険すぎるよ!」

「大丈夫だって!俺は一応マジックシー国深淵の森のダンジョンは最下層まで攻略してある!

ダンジョンとかの宝箱は全て開けていくのが俺流だ!」

自信満々にグッドポーズをする。

「それじゃあ行ってくるぜ!」

ガイトはお構い無しに宝箱へ足を運ぶ。

スピカはガイトから目が離せなかった…。

『深淵の森を攻略できてても…この洞窟は比べ物にならないよ…』

ガイトは宝箱の目の前にたどり着くと、手を擦って宝箱全体を期待の目で見る。

『よし…さぁ…この中は何があるかな…??』

ギィ…。と年季の入った音を立てると、そこには一つの古びた本が入っていた。

ガイトは埃をフッ…。と息で払う。

「えっ…?!」

その本の正体をスピカに伝えようとし、振り向く。

スピカは焦り、剣を抜いて走ってきている。

「ガイト!!!横!!」

スピカの声で横を見ると、ファイヤドラゴンが目を開いてガイトを睨んでいた。

「!?」

「「「ギィィギャァァァァァァァァァァァ!!!」」」

と甲高い咆哮をファイヤドラゴンがあげる。

その咆哮は洞窟内に響き、上から砂ぼこりが落ちてくる。

そのファイヤドラゴンの迫力にガイトは怖気づき動けずにいると、スピカが手をひく。

「行くよ!!」

二人は来た道を急いで走る。ファイヤドラゴンはその二人が狭い道に入るのを見たあと、道の口に立ち止まる。

「どうしたんだ…?」

「ガイト…まずい…!!」

スピカがガイトの手を思いっきりひいて、走る。

その直後!ファイヤドラゴンは洞窟内にわかるほどの息を吸い、勢いよく炎を吐く。

瞬く間にスピカたちのところまで炎が届く。

「ル・セパレ!!」

スピカがガイトの前に急いで飛び出し、バリアを展開する。

「くっ…。」

凄まじい威力の炎。必死に炎が消えそうになるまで耐えようとするが、全然消えそうにならない。

とうとう二人は炎の威力に負けて、洞窟の外まで吹き飛ばされる。

「「うわぁ!!!」」

ドラゴンの炎に吹き飛ばされた二人は、木にぶつかっていた。

「痛ってて…。」

スピカはぶつけた腰付近を撫でながら、立ち上がる。

「ガイト…?大丈夫…?」

「あぁ…。助かったぜ…スピカ…」

ガイトも立ち上がる。幸い二人には目立った傷はなかった。

「ハハッ…」

二人は微笑み、拳をぶつけあう。

「無事にウロコも取れたしな!!」

「うん!早く持っていってあげよう!!」

二人は急いで家に戻る。

「「ただいま〜!!!」」

「おかえりなさい!どうしたんですか!?」

イレフが汚れている二人をみて驚く。

「大丈夫だ!元気だぜ!」

ガイトはガッツポーズをする。

「早く汚れを落としてきてくださいよ。」

「わかったよ。」

イレフに薬草、聖水、ファイヤドラゴンのウロコを渡して、汚れを落としに行く。

それからは、イレフが作った薬を飲ませてリチャードが落ち着くのを待つだけ。

日は沈み、欠けていく三日月がもう顔を出していた頃。夕食の支度をしてる頃、階段をリチャードが降りてくる。

「リチャード!!もう体は?大丈夫なの…?」

「うん!イレフの薬飲んで寝たら、めっちゃ元気になった!!」

「よかったぜ…」

「スピカとガイトが材料取りに行ってくれたってイレフから聞いてさ!本当にありがとう!!」

「どういたしまして。本当に元気になってくれて嬉しいよ!」

元気になったリチャードと食卓を囲んで夕食を食べる。

「ねぇ、ガイト。あの宝箱に入ってたものって何だったの?」

スピカはガイトが取りに行った宝箱の中身が気になっていた。

「あ〜!それすごいものでさ!!」

脇に置いていたカバンから取り出したのは一冊の本。表紙には古代の文字で何が書いているか分からなかった。

「な?すげぇだろ!?」

ガイトはキラキラした顔で言ってくるが、他三人には何て書いてあるかは分からない。

「ガイト、その本は何の本なのですか…?」

「えっ!?書いてあるぞ!ここに!」

「それが、僕たちから見ると古代文字で書いてあって、なんて書いてるのかがさっぱり分からなくて…。」

「リチャードそうなのか!スピカもイレフもか?」

三人は頷く。

ガイトは本を見つめる。ガイトからは古代文字の上に金色の現代文字で書かれている。

「それで、その本はなんて書いてあるの?」

「それはな…伝説の武器のレシピだ!!!」

「「「えええぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」

全員が席から立ち上がる程驚くものだ。

「すげぇだろ?!だから、スピカに見せようとしたんだ!」

この事を話しているガイトはとてもニコニコである。

「よかったですね!!」

「うん!!僕の薬の材料取りに行った時に見つけられたから、ある意味僕のおかげかも…??」

ドヤるリチャードに、

「あぁ!リチャードのおかげでもあるし、スピカ、イレフも支えてくれたからこれはみんなのおかげだ!!」

明るい笑い声が家の中に響き渡る。

「よーし!!明日から頑張って習得するぜ!!!」

「「「頑張れ!!!」」」


第5話「熱とドラゴン」(終)

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スピカと四人の勇者 神宮寺時輝 @Toki_Zinguzi_

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